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とある異形少女と番い~お人形好き少女と人形のような青年~

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 りらはね、おにんぎょうあそびだいすき。
 あるときね、いっしょにあそんでくれるおにいちゃんがみつかったの。
 きずだらけでいたそうだから、なんどもなんどもなおしてあげたの。
 でも、あるひ、ぶらんぶらんとくびになわをつけてゆれててあわててなわをきってなおしたけど、いつものおにいちゃんじゃなくなちゃった。
 だからもうおにいちゃんがきずつかないようにりらはいっしょにいることにしたの。




 傷だらけのアルビノの青年は廃墟で一人、もそもそと賞味期限切れのパンを食べていた。「おにいちゃん、そういうのたべてるとおなかこわしちゃうよ」
 青年が慌てて振り向けば六歳ほどの少女が立っていた。
 銀色に薄紫がかった長い髪に、紫の目をして、色白の少女だった。
「……食べられるだけマシなんだ」
「おにいちゃんまいにちここにくるの?」
「……ああ」
「じゃあ、りらおべんとうもってきてあげる」
「え?」
「だからりらとおにんぎょうあそびしてくれる?」
「……いいよ」
 青年が投げやりに答えると少女は嬉しそうに笑った。


 翌日、痣だらけで青年はやってきた。
 食べ物はもってない。
「おにいちゃん、きてくれたんだ。でもいたいいたいだね」
 昨日の少女が現れた、少女は箱をもっていたが、それを置き、青年の痣を撫でる。
 すると痣は綺麗になくなった。
「⁈」
「これで、だいじょうぶだね。はいおべんとう」
 少女が出したお弁当を明けると、中身は色とりどりの料理が入ったお弁当箱だった。
「はい、おはし。あ、すぷーんとふぉーくがいい?」
 青年はスプーンとフォークを手に取り、弁当を食べ始めた。
 ボロボロと涙を流しながら。
「いいこいいこ」
 少女は青年の頭を撫でた。

「じゃあ、おにんぎょうあそびしよ?」
「ああ……」
 青年はたどたどしいが少女の人形遊びに付き合った。

「そろそろ帰らないと……」
「ぶたれるのに?」
「……ああ」
「おにいちゃん、いつでもいってね。たすけるから」
「……ありがとう」
 少女の頭を撫で、青年はその場から立ち去った。
 少女は不安げに青年の後ろ姿をみつめていた。




 家に帰れば、「家族」からの暴力。
 そしてあの場所に行けば傷は癒やされ、幼い少女の相手に心が癒やされる。
 でも限界があった。
 痛い、言葉も、暴力も全てが痛い。
 生きているのが辛い。
 死んでしまいたい。
 そうだ、いっそ死んでしまおう、それがいい。
 ここだと家族が隠してしまうから、あそこで首を吊ろう。




 ぶらん、ぶらん。
 少女は目を見開いてそれを見つめていた。
 まだ首を吊ってそれほど時間が経っていない死にかけの状態の首をつった「おにいちゃん」の縄が切れる。
 どさと地面に落ち少女が撫でる。
 大切そうに慈しむ。
「あ゛──……」
「おにいちゃん?」
「う゛……あ……」
 少女が目覚めた「おにいちゃん」に声をかけると、言葉のようなものは発しなかった。
 ぼんやりと少女を見ている。
「おにいちゃん、りらだよ」
「う゛あ……り……ら」
 なんとか名前を言うがそれきりだった。
「おにいちゃん……」
 少女は「おにいちゃん」を抱きしめる。
「りらのおうちにかえろ?」
 そう言って少女は「おにいちゃん」と姿を消した。




「あの屑まだ帰ってこないのか⁈」
「ストレス発散ができないじゃねぇか!」
「もしかして警察に⁈」
「いや、警察に言うなんてできねぇよあいつは」
 とある一家、町の中でも金持ちの家。

 ぎぃと扉が開く。

「おせぇぞ……昨日の倍殴って……誰だお前」
 そこには薄紫がかった長い髪に、紫の目の少女がいた。
 少女は人形を抱きしめながら言った。
「おまえたちがおにいちゃんをいじめたのか」
「おにいちゃん? ああ、もしかして最近食事を無しにしてもやっていけるようになってたのはお嬢ちゃんの仕業か?」
 小馬鹿にするように、男が言うと。
「じゃあしんで」
 首が吹っ飛んだ。
 血しぶきが上がり、部屋は騒然となる。
 悲鳴が上がり、逃げようとするが、扉は、窓は全て堅く閉じられていた。
 少女の足下──影から不気味な生物が姿を現した。
「ここにいるぜんいん、ころして」
 少女がそう言うと、その生き物は部屋にいる人間・・に飛びかかり、ぐちゃぐちゃにした。
 死体の原型がとどめてない程。
 肉塊になったといった方が正しい程。

 少女はそれを見ると踵を返して帰って行った。




「あーこれは駄目ね」
「だめ?」
「精神が壊れちゃってるからこれ以上下手にいじるとまた自殺しちゃうわよ」
「それはだめ!」
 フエはアルビノの青年を連れてきたにそう言う。
「りら、ちゃんとお世話できるの?」
「できる」
 フエの言葉に──りらはできると言い切った。
「ところで、このお兄ちゃんの名前は?」
「しらない」
「……じゃあつけてあげなさい」
「んー……ぎんおにいちゃん」
「銀ってかアルビノだけど……まぁいっか」
「おへやにつれていくのー」
 りらはずるずるとひきずってあるく。
「りら、ちょっと待ちなさい。お兄ちゃんに歩けるか聞きなさい、それくらいはなんとか直したから」
「おにいちゃん、あるける?」
 その言葉に「おにいちゃん」──銀はうなづきりらの後を歩き始めた。

 りらは自分の部屋の前に来ると、銀を見る。
「おへやにはいって、べっどでねるの、できる?」
 銀は頷いて見せた。
 りらは扉を開ける。
 そこはお人形やぬいぐるみがたくさん存在する部屋だった。
 りらは銀の手をつかんでベッドまで行く。
「ここがべっど、いっしょねよう?」
 銀は倒れるようにベッドに横になった。
「もう、いきなりたおれるのはだめ」
 そう言いながらりらは、布団を銀にかけ自分もベッドにもぐる。
「きょうからはおにいちゃんはわたしといっしょにくらすの、どこにもいかなくていいんだよ」
 そういうと、薄く笑って銀は目を閉じた。
「ふふふ」
 りらは笑って目を閉じた。




「ライラック──りらが男を連れてきたと?」
 異形の子等のまとめ役たる女性が驚いたような声を上げる。
「そうだよくれない姉さん。ただ、精神崩壊しちゃってるけど」
「……訳ありか」
「だろうね!」
「りらが大きくなったとき、どうするのだ?」
「もう大きくならないわよ」
「そうか……」
 フエの言葉に、紅は哀れむように言った。




 あたたかいべっど。
 あたたかいごはん。
 たのしいおにんぎょうあそび。
 やさしいおんなのこ。
 もういたくない。
 さむくもないし、あつくもない。
 じぶんでなにかしなくてもすむ。
 ああ、たのしいなぁ。






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