上 下
19 / 46
真祖に嫁入り~どうしてこうなった~

なんで私は…… ~君が「籠の鳥」でいなければいけない訳~

しおりを挟む


「さて、どこからお話ししようか?」
 グリースが手を組みながら、ルリを見る。
 ルリは少し考える、聴きたい事は山ほどある、だが答えが返ってくるかわからないのがほとんどだ。
「……まず、真祖が五桁超える数罰したという内容と、アルジェントが三桁とっくに超えてる数病院送りにした件について」
「あ、その件ね、全容はぼかす。おおざっぱにしか言えない奴だな」
 グリースがそう言って真祖の方を見る。
 ルリも真祖を見る。
「……お前の事は公にはしておらぬが、二千年前に盟約で定めた者が見つかったから私の花嫁――基妻にすると公言はした」
「うへぇ」
 真祖の言葉にルリはげんなりする、どうやら真祖が自分を娶ったという事は知られていないが、誰かが妻になったことはこの国の民は知っているようだ。
「……どういう存在かは言ったの?」
 ルリはもう少し詳しくしりたいと思い、真祖に尋ねる。
「言った。不死人の女であると、な」
「……反応は?」
「……」
 真祖は黙った、多分相当止めに入られたとのだとルリは思った。
「そうだねぇ、『二千年前の盟約で真祖様自身が決めたこととはいえ不死人を妻とするなど自分の首を絞めるつもりですか!!』みたいな発言があった」
「グリース」
 真祖はまるでグリースを咎めるかのように名前を呼ぶ。
「いや、これくらいは良いだろう」
「……この国では『不死人』は快く思われていない……?」
「……」
 ルリの言葉に、真祖は再度口を閉ざした。
 どうやら正解のようだ。
「ルリちゃん正解! そしてごめんねーそれ俺の所為」
「は?」
 黙る真祖の代わりに、グリースが答えて、そして謝罪した直後に何かとんでもない事実を述べられ、ルリは思わず変な声を出す。
「――グリースは二千年前の戦争でかなりの数の吸血鬼を滅ぼして居る、人間もだが」
「あ」
 真祖がため息をつき、その理由を言った。
 その内容でルリは思い出した。
 グリース自身が二千年前の戦争で吸血鬼、人間、両陣営を滅びる寸前まで追い込んだ、と言っていたことを。
「うん、その所為で不死人は『めっちゃヤバイ存在』という扱いになってるのよ、この国では」
「あー……つまり、私は『危険な存在』って事で国民からは敵視されてる?」
「まぁ、遠回しに言えばそうなるね。ルリちゃん俺みたいな力ないのにね」
「本当だよ!!」
 けらけら笑うグリースに、ルリは噛みつくように言った。

 グリースが自分の立場が危うい理由の大部分を作った諸悪の根源的な存在でもあるからだ。

「……だが、グリースが二千年前あのような行動をしなければ、吸血鬼が人間を支配する世界なっていただろう、それが良いかどうかはわからぬが」
「あー確かに、なんせお前にはにんにくも、陽光も、流れ水も、白木の杭も、銀も、祈りも、聖遺物も、吸血鬼の弱点の類のもん、何一つ効かねぇもんな」

「吸血鬼が苦手とするもの全部無効!! どんだけ人間が吸血鬼を滅ぼそうと行動したところで、真祖であるヴァイスが妨害しちまう!!」

「人間はどんどんジリ貧になって行った、そんな中、両陣営を滅ぼそうとする厄介な奴――俺が現れた」
 ルリはグリースの言葉をじっと聞いていた。
「……だから、世界は大きく分けて二つの国。人間の国と、吸血鬼の国に分かれた?」
「結果としてな。まぁ不死人なんて存在が生まれなかったら俺もルリちゃんもここにはいないし、人間は吸血鬼に支配される存在状態で、アルジェントもここにはいないだろうさ」
「……」
 グリースの言葉にルリは複雑な表情を浮かべる。

 吸血鬼は、人間がいなくなると生きてはいけない。
 確かに、そうなると二千年前の戦争はグリースが現れなかったら、どうあがいても勝てない相手である真祖がいる以上人間側は負ける。
 そうなると、吸血鬼は人間を支配する立場になっていたはずだ。

 でも、ならなかった。

 グリースが不死人になったから。
 吸血鬼と人間に、最愛の者を、家族を奪われたグリースは両方を憎んだ。
 不死人となったグリースが、ルリと同じように大した力を持っていないなら、戦争はそのまま進み吸血鬼が人間を支配するという結末になっていただろう。
 だが、グリースは力があった。
 誰も滅ぼすことができないはずの真祖を滅ぼすことができる程の力が。
 世界をひっくり返す程の力が。
 確かにグリースはある意味世界をひっくり返した。
 それだけで終わった。
 グリースは支配者になることなどせず、盟約を作らせ、人間と吸血鬼が戦争規模の争いごとを起こさないようにさせた。

「――ねぇ、グリースは支配者になろうと思わなかったの?」
 ルリはグリースに問いかけた。
「あー俺そういうの向いてないし、なりたいとも思わなかったわ。今は大分マシになったけど、当時はかなり人間憎し、吸血鬼憎し状態になってたからね。あんまり関わりたくなかったから盟約結ばせ終わったら速攻で姿くらませたよ。時々吸血鬼の国や人間の国見て回る程度、馬鹿やったら姿見せてたけど」
 グリースは手を軽く振りながら、そう答えた。
「この国でははっきりと二千年前の戦争が起きた理由と、戦争が終わった理由なども教えている、だから不死人グリース、姿は知らぬが存在を知っている者はほとんどだ」
 真祖の言葉に、ルリは真祖の方を見る。
「――ルリの国、人間達の国ではそうではないようだな。グリースの事は隠してある、故にグリースの事などを知ることができるのは政と関わっている連中位だ。不死人の事は知っている者は普通にいるがな」
「あー……うん、確かに。私戦争の事とかグリースの事、この城に来てグリースと来てから初めて知った……不死人については学校で習ったけど……」
「さてルリちゃん、どうして君の母国では俺の事は言わないで、不死人の事だけ教えていると思う?」
 グリースの問いかけに、ルリは考え込む。

――何故不死人の存在を教えるんだろう?――
――もし盟約通りの不死人の女がでたらの時を考えて?――
――違う、そんな理由だけのはずがない――
――グリースのような力を持った不死人の存在を待っている?――

「……グリースみたいな力を持った不死人を増やしてに吸血鬼の国より強い国になりたい?」
「うーんちょっとだけあってる!!」
 グリースはルリの出した答えに対して、一応正解していることと告げる。
「ルリちゃんの母国は可能なら力を持つ不死人の軍隊を作りたいんだよ、吸血鬼達を滅ぼすことができる位の」
「……え?」
 グリースが口にした内容は、ルリの答えよりもスケールが大きい物だった。
「グリース」
 真祖がまるでこれ以上喋るのはやめろと言わんばかりに、グリースの言葉を制止する圧かけて名前を呼ぶ。
「いや、ルリちゃんが知らないままだと色々とヤバイことになりかねないから暴露する」
「ヤバイ事って……どういう事?」
 ルリは不安になった、自分が知らないと大変なことになるとはどういうことなのだろうか。
「人間の政府は不死人の因子を持っているかどうか調べることができる薬を既に持っている、だけど薬は作るのが困難な為国民全員に使うことはできない」
「……じゃあ、その薬は誰に使うの?」
「不死人の親を持つ子どもにだよ」
 グリースの言葉に、ルリは目を見開く。
「不死人の男は今まででてきた、人間の女との間に子どもを作らせた」
「ちょ、ちょっとそれ、まるで実験動物みたいじゃん……え?」
 ルリは自分の言った言葉で、気づいた。
「ルリちゃんその通りだ」

「俺と、ルリちゃん以外の不死人は皆実験動物みたく、研究所で隔離されて子どもをつくる為の事をさせられている」

 グリースの言葉にルリは言葉を失った。
 ルリは気づいたのだ、真祖の「盟約」が無ければ、自分もその研究所に連れていかれていたと、子どもを産む為の存在にさせられていたと。
 そして自分以外の不死人の女性はおそらく今――
「……言わなくても気づいたみたいだね」
「……で、でも不死人の軍隊なんてできるわけが――」
「そう、できなかった。今まで不死人の親を持った子どもを調べても誰一人として不死人になる因子を持っていなかった」
「……」
 ルリはどう言葉を発すればいいのかわからなかった、疑問が多すぎた。
 そして自分への疑問も多く湧きすぎた。
「精子や卵子レベルで今の政府は調べることが可能になった、研究所の中だけでしかできないけど、そうしたら驚きの結果だ、不死人の男達も、新しく見つかった不死人の女達も、誰一人として生殖の箇所に『不死人の因子』を保有してなかったんだよ」
「へ……? じゃ、じゃあ不死人の親でも子どもは不死人じゃない……?」
「そゆこと」
「――ここからは私が話そう、ルリ、お前の国の政府連中と研究者はお前の事を調べよう音躍起になっている、どうしてだとお前は思う?」
「え? さ、最初の女性の不死人だから?」
「――グリースは子に不死人の因子を遺伝させれるか、調べれる」
「え?」
「調べ方とかは内緒!! ごめんね!!」
「――グリースに頼んでルリ、お前がどうか調べさせてもらった」
「……も、もしかして結果は……」
 ルリは若干青ざめた表情で問いかける、自分の予想が外れてほしいと願いつつ。
「――お前は自分の子に、確実に『不死人の因子』を受け継がせることが可能だ。お前が人間や不死人と子を成した場合、子は確実に不死人となる」
 真祖の発言に、ルリめまいがしそうになった。
 ふらりと倒れそうになるが、グリースが支えた。
「ごめんね、かなりとんでもない内容で。でも、分かったよね、ルリちゃん。君を下手に人間の国に帰せない理由が」
 グリースの言葉に納得するしかなかった。
 もし、帰った時研究者がどうにかして自分のことを調べて、「ルリが産んだ子は皆不死人になる」という結果が分かったら、人間政府は自分を拉致するかもしれない、場合によってはこの国に武装部隊か何かを送って自分を連れ去るかもしれない。
「ああ、ちなみにもう一つ俺の子どもも確実に不死人になる」
 グリースは付け足すように言った、ルリはその言葉にも耳を疑った。
「――今の情報を知っているのは私達だけだ、他の者は一切知らぬ、ルリこの事はアルジェントにもヴィオレにももし会う事ができたとしても家族や友人にも言ってはならぬ」
「……うん」
 真祖の言葉にルリは不安そうに頷いてから、真祖を見上げる。
 真祖は顔色がルリの頬を冷たい手でそっと撫でた。
「……だから私を手元に置くの?」
「違う」
 ルリの言葉に、真祖は否定で返した。
「ルリ、お前が愛しいからだ、お前を愛しているからだ。だから私はお前を守る為母国には帰さぬ、否帰すことはできぬ。そして世話役以外の者に合わせることもさせたくない、どこから情報がもれるかわからぬからだ」
「……ルリちゃんをよく思ってない連中が情報を流したらルリちゃんが危険だ、だからヴァイスはアルジェントがルリちゃんを悪く言った奴をアルジェントが瀕死にしようが咎めない、そしてアルジェントが誰かに会うかもしれないから庭への外出を禁じる申し出を認めた」
 グリースの言葉に、ルリはうつむく。

――ああ、神様がいるなら残酷だ、私が一体何をした、何で私をそういう存在にしたのか――

 ルリは、自分に与えられた「物」に、深く嘆いた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

【完結】どうも。練習台の女です

オリハルコン陸
恋愛
ある貴族家の子息達の、夜伽相手として買われた女の子の日常。 R15ですがコメディーです。シチュエーション的にはR15ですが、エロエロしい描写はありません。 ちょっとズレてるマイペースな女の子が、それなりに自分の状況を楽しみます。 相手はちょっとおかしな変態達です。 ※恋0から、ようやく恋愛ものっぽくなります。 完結しました。 ありがとうございました!

異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。 わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。 ※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。 あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。 ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。 小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

異世界転生したら王女で聖女扱いと思ったら生け贄で魔(術)王の妻にされた件~勘弁してよ女神様~

琴葉悠
恋愛
 美園守里は平凡な大学生だった。  だが、ある日通り魔に襲われて死亡する。  死亡した彼女の目の前に異世界の女神リシュアンが現れ救って欲しいと言う。  ちなみに、通り魔に襲われて死亡したのは完全な事故で女神リシュアンは長生きした後呼ぶ予定だったらしい。  踏んだり蹴ったりな事態だが、女神リシュアンの言うとおり世界を救う羽目になった守里。  彼女は小国の魂を持たずに生まれたリア・アーデルハイトの中に入り、異世界を救う使命に立ち向かうはずが──?

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

処理中です...