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真祖に嫁入り~どうしてこうなった~

会話だけのはずが……?! ~消えぬ憎悪、狂わせる恐怖~

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 しばらく口づけをされ、少し冷たい唇の感触がはなれ、ルリはしばらくの間硬直していた。
 硬直が溶けると、顔を真っ赤にした。
「ギャー!!」
 色気のない悲鳴を上げてルリはベッドの毛布の下に隠れた。
 ルリは毛布の中で、唇を触った。

――キス、された――

「ちょ、ちょっと!! 心構えできてない時は手を出さないっていったじゃん!!」
 ルリは毛布の中から真祖に抗議をした。
「それは性行為であろう、口づけは性行為に入るのか?」
「……うわー!!」
 ルリは毛布の中でじたばたと暴れた。
「私の初めてのキスがロマンチックさの欠片もない状況でされるなんて……」
 ルリは毛布の中でじたばたする。
「……割と気にするのか」
「うるせー恋愛とか分からなくても、こんなんでもロマンチックなのとかには夢があるんですよチクショウ、悪かったなそんな風に見えなくて」
 ルリは毛布の中でじたばたしながら文句を言う。


 ヴァイスは毛布の中で蠢いている愛しの妻を見つめる。
 資料で見たが、性格はやや男まさりな節が見られる一方で、可愛い物を好んだりロマンチックな事への憧れ的なものをもっている。
 資料にない内容もあった、ゲーム好きなのは書いてあったが、ゲームの操作は下手というのはアルジェントの報告から分かった。
 アルジェントがルリの代わりにゲームをプレイしているようだが、若干それが羨ましくある。
 自分がやると権威にかかわると二人が言い出してさせてもらえないだろう。
 アルジェントも責任者のままだったら、何か言われていただろうが、今のアレは世話役、羨ましくもある、最愛の者の傍で世話ができるのだから。

 アルジェントのルリに対しては秘めていた感情を暴露してしまったのは少し悪いことをしたなと思った。
 だが、言わないままでは不公平な気もしたのだ。
 自分も、グリースも、ルリに対して愛していると告げている、自分は愛されることを求めていると言って居る、グリースは何故か分からないがそれを要求していない、だがアルジェントは公言していないだけで、ルリの愛を求めている。
 自分にもそのことは言っていないが、アルジェントがこの国に亡命してきた子どもの頃から目をかけてきたのだ、隠し事をしていても大体わかる。
 しかし、公言できないのも仕方ない、ルリは立場的に自分の妻なのだ。
 仕えている主の妻に一目ぼれしたなど言える訳がない。
 それでも他の者達を近づけたくなくて、できるだけ傍に居たくて、今までの立場を放棄して世話役になったのが分かる。

「ルリ」
「……なんじゃい」
 毛布のなかで相変わらず蠢いている妻に、ヴァイスは声をかける。
「アルジェントの事だが、知らないフリをしてやってくれ」
「……いや、それ結構難易度高くない」
「自分の気持ちがお前にバレただけならともかく、主の私にもバレてると知ったらアルジェントの事だ、自害しかねん」
「だー!! だったら言うなよ本当!! はいはい、知らないフリしておきますよ、頑張って!!」
「すまぬな」
 ルリが毛布の中で怒っているのが分かる。
「全く、何て日だ!! 厄日だちくしょう!!」
 ルリは毛布の中で蠢いている。
「ルリ」
「今度はなんじゃい!!」
「毛布からでてきてはくれないか?」
「……なんでじゃ」
 ルリの声から何か警戒しているのが分かった。
「もう一度口づけをしたいからと言ったらどうする」
「――断る!!」
 予想はしていたが、ここまできっぱりと拒否されると少し心に来るものがあった。
「何故だ?」
「……恥ずかしいから」
 丸くなって小声でルリは言った。

――ああ、何て愛おしい、可愛らしい――

「分かった、口づけはせぬ。だから出てきてはくれないか?」
 ヴァイスがそう声をかけると、何か考えているのかしばらく丸まったままだったが、もぞもぞと動き出し、少し距離を取って毛布から顔を出した。
「……本当?」
「ああ、しないとも。だからさぁ、おいで」
 ヴァイスが手を伸ばすと、ルリは少し警戒しているような顔をして考え込み始めた。
 考え終わったのか顔をあげて、毛布から出てゆっくりと近づいてきた。
 華奢な体を両手で抱き上げ、膝の上にのせる。
「……」
 緊張しているのか、警戒しているのか、ルリの体は少しばかり強張っている。
 ルリの頬を撫でる。
 柔らかく、吸血鬼にはない温もりが手に伝わる。

――ああ、昔もこうやって触れていた記憶がある――
――けれども――

 頭が焼けこげそうな程の憎悪は噴き出す。

――苦しい、憎い、悲しい、辛い、憎い、憎い、憎い――
――ああ、ああ、やめろ、奪うな私から、奪われるくらいならいっそ――


「……」
 突然雰囲気が変わった真祖に、ルリは困惑する。
 頭を押さえ、何かに耐えているようにも見える、赤い目は血の色に染まり、目からは赤い涙が零れだしていた。

――何かおかしい――
――苦しそうに呻いている?――
――いや、違う――
――色んな感情で頭がぐちゃぐちゃになっている?――

 ルリは何故かそんな風に感じた、表情が悲しみでもなく、苦しみとはまた違う、そう憎くて憎くてたまらない、この世の全てが憎くてたまらない、そんな顔をしているようにルリには見えたのだ。
 どうすればいいのかわからない。
 突然、真祖はにたりと笑った、寒気がするような笑みだった。
「ガアアアアア!!」
「?!」
 ルリは肩を掴まれ、ベッドに押し倒される。
 服を破かれ、肌が露わになる。
 首筋に激痛が走った。
「い゛――?!」
 激痛のあまり悲鳴もロクに上げれない。
 助けを呼ばないと、死なないけれど「殺される」、ルリはそんな予感を感じ取った。
 誰かに助けてもらわなければ、一回ズタボロにされる。

――誰に助けを求めれば――

 ルリがなんとか引きはがそうとしていると、風が入ってきた。
「ふぅ、嫌な予感がしたから来てよかった」
 聞き覚えのある声に、ルリは視線を動かすと。
 白い髪の中性的な人物――グリースが居た。
「ぐ、りー、す!! た、す、け、て!!」
 ルリは必死に声を上げる。
「大丈夫安心して」
 グリースはそういうと、ルリから真祖を引きはがし、そのまま床に叩きつけた。
「少しは感情の制御覚えやがれこの大馬鹿野郎!!」
 真祖に馬乗りになり、頭を掴んだ。
 しばらく獣のような声を上げていた真祖だったが、グリースが何かしたことに効果が出たのか、声が止む。
 ルリは傷がふさがった首をさすりつつ、破られた服を掴んで、胸元を隠しながら真祖に近づいた。
 グリースも馬乗りを止め、真祖の横に立つ。
「……グリース? 何故貴様が此処に居る?」
「俺が色んなの見てるの知ってるだろ? お前が暴走してルリちゃん襲ったから慌ててきたんだよ、感謝しろよ、じゃなきゃお前自分の手で奥さんの体引き裂いてたぞ」


 ヴァイスはグリースの言葉に耳を疑った。
「……なん、だと」
 ヴァイスはルリに視線を向ける。
 胸元で服がずり落ちるのを抑えているところから服が破かれたのが分かった、首筋には血の後がべっとりと付着していた。
 自分の口の中にルリの血の味が残っている、口を拭うと血がついていた。
「お前さぁ、人間憎いのは分かるけど、それをルリちゃんにぶつけちゃダメじゃん、過去思い出して、ああいや、違うな」
「……?」
 グリースは何かに気づいたようだが、ルリは何も理解できていないような顔をしている。
「お前、人間がまた奪うと頭が認識してルリちゃん奪われるくらいならと思って食おうとしたな?」
「……え、どゆこと?」
「……ああ、だろうな」
「ほら、ルリちゃん、俺前に言ったろ? ヴァイスは前の奥さん――人間だった女性を人間に殺されてるんだ、ハーフの息子も」
「……うん」
「多分、ルリちゃんに触れた時人間のぬくもりを感じて過去を思い出して現在とごっちゃ混ぜになったんだ。『人間政府が自分からルリちゃんを奪おうとしている、憎い、憎い、このままでは奪われる、どうすればいい、ああ、食えばいい』ってぶっ飛んだ思考に発展した、だろう?」
 グリースの問いかけに、ヴァイスは起き上がり、静かに答えた。
「……ああ、おそらくそれで間違いない」
「……」
 ルリは不安そうな顔で自分を見ている、無理もない、そんなことをしてしまったのだから。
「ヴァイス、お前どうするよ? 毎晩そんなになったらルリちゃんも――」
「いいよ、毎晩今のが無くなるまで一緒にいる」
「……は?」
 ルリの言葉にヴァイスもグリースも耳を疑ったような表情を浮かべる。
「ちょ、ちょっとルリちゃん、こいつまだ相当過去の事と現状こじらせてるんだよ!?」
「本人が悪いなら、んなこと言わぬ。悪いのはやらかした連中だろうし」
「……ルリ、いいのか?」
 ヴァイスは不安げにルリを見て問う。
「別に悪意あったわけじゃないからいいよ、ただ抵抗はする」
「……分かった俺も見張るわ、お前がルリちゃん襲ったら俺が来てお前をぶん殴る、いいだろう」
「グリースいいの? 私の我儘だし……」
「ルリちゃんを守りたいからいいんだよ、あと死なないレベルの傷だとめっちゃ痛いからそういう目には合わせたくない」
「あー……どうりでさっきめっちゃ痛かったわけだ」
 ルリは首をさすりながら言うと、破れた服が落ちぬよう掴んだまま、ヴァイスに近寄り片手てで抱き着いてきた。
「……ルリ?」
「流石に色々抱えて発狂しそうな奴を放置するほど、我が身可愛いわけじゃないし、薄情でもないしね。貴方を好きになるかは置いとく、後貴方が私の事好きなままなのかどうかも置いておく」
 ルリはそう言って顔をあげて、ヴァイスを見た。
「……ルリ、お前は余計な言葉が多いのだ」
 ヴァイスは安心したような、咎めるようなため息を吐き出して、ルリの頬を優しくつまんだ。




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