13 / 46
真祖に嫁入り~どうしてこうなった~
会話だけのはずが……?! ~消えぬ憎悪、狂わせる恐怖~
しおりを挟むしばらく口づけをされ、少し冷たい唇の感触がはなれ、ルリはしばらくの間硬直していた。
硬直が溶けると、顔を真っ赤にした。
「ギャー!!」
色気のない悲鳴を上げてルリはベッドの毛布の下に隠れた。
ルリは毛布の中で、唇を触った。
――キス、された――
「ちょ、ちょっと!! 心構えできてない時は手を出さないっていったじゃん!!」
ルリは毛布の中から真祖に抗議をした。
「それは性行為であろう、口づけは性行為に入るのか?」
「……うわー!!」
ルリは毛布の中でじたばたと暴れた。
「私の初めてのキスがロマンチックさの欠片もない状況でされるなんて……」
ルリは毛布の中でじたばたする。
「……割と気にするのか」
「うるせー恋愛とか分からなくても、こんなんでもロマンチックなのとかには夢があるんですよチクショウ、悪かったなそんな風に見えなくて」
ルリは毛布の中でじたばたしながら文句を言う。
ヴァイスは毛布の中で蠢いている愛しの妻を見つめる。
資料で見たが、性格はやや男まさりな節が見られる一方で、可愛い物を好んだりロマンチックな事への憧れ的なものをもっている。
資料にない内容もあった、ゲーム好きなのは書いてあったが、ゲームの操作は下手というのはアルジェントの報告から分かった。
アルジェントがルリの代わりにゲームをプレイしているようだが、若干それが羨ましくある。
自分がやると権威にかかわると二人が言い出してさせてもらえないだろう。
アルジェントも責任者のままだったら、何か言われていただろうが、今のアレは世話役、羨ましくもある、最愛の者の傍で世話ができるのだから。
アルジェントのルリに対しては秘めていた感情を暴露してしまったのは少し悪いことをしたなと思った。
だが、言わないままでは不公平な気もしたのだ。
自分も、グリースも、ルリに対して愛していると告げている、自分は愛されることを求めていると言って居る、グリースは何故か分からないがそれを要求していない、だがアルジェントは公言していないだけで、ルリの愛を求めている。
自分にもそのことは言っていないが、アルジェントがこの国に亡命してきた子どもの頃から目をかけてきたのだ、隠し事をしていても大体わかる。
しかし、公言できないのも仕方ない、ルリは立場的に自分の妻なのだ。
仕えている主の妻に一目ぼれしたなど言える訳がない。
それでも他の者達を近づけたくなくて、できるだけ傍に居たくて、今までの立場を放棄して世話役になったのが分かる。
「ルリ」
「……なんじゃい」
毛布のなかで相変わらず蠢いている妻に、ヴァイスは声をかける。
「アルジェントの事だが、知らないフリをしてやってくれ」
「……いや、それ結構難易度高くない」
「自分の気持ちがお前にバレただけならともかく、主の私にもバレてると知ったらアルジェントの事だ、自害しかねん」
「だー!! だったら言うなよ本当!! はいはい、知らないフリしておきますよ、頑張って!!」
「すまぬな」
ルリが毛布の中で怒っているのが分かる。
「全く、何て日だ!! 厄日だちくしょう!!」
ルリは毛布の中で蠢いている。
「ルリ」
「今度はなんじゃい!!」
「毛布からでてきてはくれないか?」
「……なんでじゃ」
ルリの声から何か警戒しているのが分かった。
「もう一度口づけをしたいからと言ったらどうする」
「――断る!!」
予想はしていたが、ここまできっぱりと拒否されると少し心に来るものがあった。
「何故だ?」
「……恥ずかしいから」
丸くなって小声でルリは言った。
――ああ、何て愛おしい、可愛らしい――
「分かった、口づけはせぬ。だから出てきてはくれないか?」
ヴァイスがそう声をかけると、何か考えているのかしばらく丸まったままだったが、もぞもぞと動き出し、少し距離を取って毛布から顔を出した。
「……本当?」
「ああ、しないとも。だからさぁ、おいで」
ヴァイスが手を伸ばすと、ルリは少し警戒しているような顔をして考え込み始めた。
考え終わったのか顔をあげて、毛布から出てゆっくりと近づいてきた。
華奢な体を両手で抱き上げ、膝の上にのせる。
「……」
緊張しているのか、警戒しているのか、ルリの体は少しばかり強張っている。
ルリの頬を撫でる。
柔らかく、吸血鬼にはない温もりが手に伝わる。
――ああ、昔もこうやって触れていた記憶がある――
――けれども――
頭が焼けこげそうな程の憎悪は噴き出す。
――苦しい、憎い、悲しい、辛い、憎い、憎い、憎い――
――ああ、ああ、やめろ、奪うな私から、奪われるくらいならいっそ――
「……」
突然雰囲気が変わった真祖に、ルリは困惑する。
頭を押さえ、何かに耐えているようにも見える、赤い目は血の色に染まり、目からは赤い涙が零れだしていた。
――何かおかしい――
――苦しそうに呻いている?――
――いや、違う――
――色んな感情で頭がぐちゃぐちゃになっている?――
ルリは何故かそんな風に感じた、表情が悲しみでもなく、苦しみとはまた違う、そう憎くて憎くてたまらない、この世の全てが憎くてたまらない、そんな顔をしているようにルリには見えたのだ。
どうすればいいのかわからない。
突然、真祖はにたりと笑った、寒気がするような笑みだった。
「ガアアアアア!!」
「?!」
ルリは肩を掴まれ、ベッドに押し倒される。
服を破かれ、肌が露わになる。
首筋に激痛が走った。
「い゛――?!」
激痛のあまり悲鳴もロクに上げれない。
助けを呼ばないと、死なないけれど「殺される」、ルリはそんな予感を感じ取った。
誰かに助けてもらわなければ、一回ズタボロにされる。
――誰に助けを求めれば――
ルリがなんとか引きはがそうとしていると、風が入ってきた。
「ふぅ、嫌な予感がしたから来てよかった」
聞き覚えのある声に、ルリは視線を動かすと。
白い髪の中性的な人物――グリースが居た。
「ぐ、りー、す!! た、す、け、て!!」
ルリは必死に声を上げる。
「大丈夫安心して」
グリースはそういうと、ルリから真祖を引きはがし、そのまま床に叩きつけた。
「少しは感情の制御覚えやがれこの大馬鹿野郎!!」
真祖に馬乗りになり、頭を掴んだ。
しばらく獣のような声を上げていた真祖だったが、グリースが何かしたことに効果が出たのか、声が止む。
ルリは傷がふさがった首をさすりつつ、破られた服を掴んで、胸元を隠しながら真祖に近づいた。
グリースも馬乗りを止め、真祖の横に立つ。
「……グリース? 何故貴様が此処に居る?」
「俺が色んなの見てるの知ってるだろ? お前が暴走してルリちゃん襲ったから慌ててきたんだよ、感謝しろよ、じゃなきゃお前自分の手で奥さんの体引き裂いてたぞ」
ヴァイスはグリースの言葉に耳を疑った。
「……なん、だと」
ヴァイスはルリに視線を向ける。
胸元で服がずり落ちるのを抑えているところから服が破かれたのが分かった、首筋には血の後がべっとりと付着していた。
自分の口の中にルリの血の味が残っている、口を拭うと血がついていた。
「お前さぁ、人間憎いのは分かるけど、それをルリちゃんにぶつけちゃダメじゃん、過去思い出して、ああいや、違うな」
「……?」
グリースは何かに気づいたようだが、ルリは何も理解できていないような顔をしている。
「お前、人間がまた奪うと頭が認識してルリちゃん奪われるくらいならと思って食おうとしたな?」
「……え、どゆこと?」
「……ああ、だろうな」
「ほら、ルリちゃん、俺前に言ったろ? ヴァイスは前の奥さん――人間だった女性を人間に殺されてるんだ、ハーフの息子も」
「……うん」
「多分、ルリちゃんに触れた時人間のぬくもりを感じて過去を思い出して現在とごっちゃ混ぜになったんだ。『人間政府が自分からルリちゃんを奪おうとしている、憎い、憎い、このままでは奪われる、どうすればいい、ああ、食えばいい』ってぶっ飛んだ思考に発展した、だろう?」
グリースの問いかけに、ヴァイスは起き上がり、静かに答えた。
「……ああ、おそらくそれで間違いない」
「……」
ルリは不安そうな顔で自分を見ている、無理もない、そんなことをしてしまったのだから。
「ヴァイス、お前どうするよ? 毎晩そんなになったらルリちゃんも――」
「いいよ、毎晩今のが無くなるまで一緒にいる」
「……は?」
ルリの言葉にヴァイスもグリースも耳を疑ったような表情を浮かべる。
「ちょ、ちょっとルリちゃん、こいつまだ相当過去の事と現状こじらせてるんだよ!?」
「本人が悪いなら、んなこと言わぬ。悪いのはやらかした連中だろうし」
「……ルリ、いいのか?」
ヴァイスは不安げにルリを見て問う。
「別に悪意あったわけじゃないからいいよ、ただ抵抗はする」
「……分かった俺も見張るわ、お前がルリちゃん襲ったら俺が来てお前をぶん殴る、いいだろう」
「グリースいいの? 私の我儘だし……」
「ルリちゃんを守りたいからいいんだよ、あと死なないレベルの傷だとめっちゃ痛いからそういう目には合わせたくない」
「あー……どうりでさっきめっちゃ痛かったわけだ」
ルリは首をさすりながら言うと、破れた服が落ちぬよう掴んだまま、ヴァイスに近寄り片手てで抱き着いてきた。
「……ルリ?」
「流石に色々抱えて発狂しそうな奴を放置するほど、我が身可愛いわけじゃないし、薄情でもないしね。貴方を好きになるかは置いとく、後貴方が私の事好きなままなのかどうかも置いておく」
ルリはそう言って顔をあげて、ヴァイスを見た。
「……ルリ、お前は余計な言葉が多いのだ」
ヴァイスは安心したような、咎めるようなため息を吐き出して、ルリの頬を優しくつまんだ。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
【完結】どうも。練習台の女です
オリハルコン陸
恋愛
ある貴族家の子息達の、夜伽相手として買われた女の子の日常。
R15ですがコメディーです。シチュエーション的にはR15ですが、エロエロしい描写はありません。
ちょっとズレてるマイペースな女の子が、それなりに自分の状況を楽しみます。
相手はちょっとおかしな変態達です。
※恋0から、ようやく恋愛ものっぽくなります。
完結しました。
ありがとうございました!
異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?
sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。
わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。
※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。
あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。
ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。
小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
異世界転生したら王女で聖女扱いと思ったら生け贄で魔(術)王の妻にされた件~勘弁してよ女神様~
琴葉悠
恋愛
美園守里は平凡な大学生だった。
だが、ある日通り魔に襲われて死亡する。
死亡した彼女の目の前に異世界の女神リシュアンが現れ救って欲しいと言う。
ちなみに、通り魔に襲われて死亡したのは完全な事故で女神リシュアンは長生きした後呼ぶ予定だったらしい。
踏んだり蹴ったりな事態だが、女神リシュアンの言うとおり世界を救う羽目になった守里。
彼女は小国の魂を持たずに生まれたリア・アーデルハイトの中に入り、異世界を救う使命に立ち向かうはずが──?
異世界転生先で溺愛されてます!
目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。
・男性のみ美醜逆転した世界
・一妻多夫制
・一応R指定にしてます
⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません
タグは追加していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる