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真祖に嫁入り~どうしてこうなった~
真祖の爆弾発言ととんでも行動 ~他の者には渡しはしない~
しおりを挟む「は? 夜真祖と話し相手? いやそれだけならいいけど、真祖の部屋で寝ろって……」
城に戻って数日後の朝、ルリは朝食を取っている最中にアルジェントに言われた事に困惑していた。
「ご安心ください、真祖様の部屋で眠るだけです。ルリ様の心構えがまだできていないのでルリ様が危惧している行為はしないと」
アルジェントは淡々と言う。
「……まぁ、奥方になったつっても確かに会話もしてなかったし、夜は私寝てるし……寝てる時に勝手に部屋に入ってたらしいけど、何もしてない……らしいし……」
「……」
「まぁ、いいよ……ただ、寝込み襲うような事したら、話し相手とかもやらないからね!!」
「畏まりました、ではその様にお伝えしてきます」
アルジェントはそう言って姿を消した。
ルリは緑茶を口にしつつ、ふうと息を吐く。
グリースの情報と、アルジェントの言葉から、自分と真祖は初日とグリースが来た日以外全く会っていない、会話もその時位だ。
寝ている自分に会いに来ているとはグリースの情報だが、真祖は何もしてないと言ってるがその言葉に「違和感」が含まれているのをルリは感じ取った。
寝ている自分に何かしている、だが、自分が拒否するような事はしていないというのが認識として正解なのかもしれない。
「どうしたのルリちゃん、悩みごと?」
窓の方を見れば、グリースが居た。
城に戻ってから毎日のようにルリに会いに来ているのだ。
「いや、なんというか……自分の立場とか自分の感情とか色々考えることが山ほどあって……」
ルリは湯飲みを持ったまま答え、緑茶をすする。
「へぇ、どんな?」
「……いやぁ、最初に好きになるか分からないってぶっちゃけちゃってるからちょっと後ろめたいのもある……」
「でも、ルリちゃん人をそういう意味で好きになったことないんでしょう? 仕方ない仕方ない」
グリースの言葉が上っ面ではなく、とても心地のよい物に聞こえた。
我儘で臆病な自分を受け入れてくれている感じがして安心するのだ。
会って間もないのに、誰よりも安心できるのがルリにとって不思議だった。
ただ、それをよく思わない人物がいるのもルリは分かっていた。
「……グリース、貴様何の用だ?」
戻ってきたアルジェントがグリースに明らかに敵意を向けている、ただ敵意以外の「何か」も向けているようにルリは感じたがその「何か」は分からなかった。
「おや、色男さん。相変わらず俺の事嫌ってるの隠しもしねぇなぁ」
グリースは飄々としたまま、窓に寄りかかっている。
「ルリ様は真祖様の奥方だ、貴様の入る余地はない」
「へー……それはお前の本心なのか?」
グリースの意味深な言葉にルリはアルジェントを見る。
顔にわずかに動揺の色が見えた。
「まだまだ青いねぇ、それと俺に見抜けないことはほとんどないんだよ、何なら暴露してやろう――」
グリースが最後まで言う前に、氷の刃がグリースの喉へと飛ばされた。
グリースはそれら全てを手前で砕く、氷の破片が床に散らばる。
「おっとあぶねぇなぁ。死ななくても血はでるんだぜ? 『奥方様』の部屋を俺の血で汚す気か?」
「……貴様は口を閉じろ、そして二度と此処に立ち入るな!!」
「嫌だね、俺はルリちゃんが気に入ったんだ。第一お前の言う事聞いてやる義理はねぇよ」
「貴様……!!」
「ぶっちゃけヴァイスの野郎のいう事聞いてやる義理もねぇしな、あいつがちゃんと統制してなかったせいで、俺は吸血鬼だった恋人達も、血の繋がりのない俺を育ててくれた人間と吸血鬼の両親も大事にしてくれた兄弟達も殺されたんだからな」
「……」
グリースの言葉にアルジェントは黙った。
「俺未だに人間も吸血鬼も両方の国に対して不信感マシマシだからな、ルリちゃんくらいだからな俺が不信感なく気持ちよくお話しできるのは」
「――だから何だ、ルリ様をかどわかそうとする貴様を見逃せと? そんな真祖様を馬鹿にするような事ができるものか」
アルジェントはグリースを睨みつけている。
グリースは肩をすくめて、苦笑している。
「やれやれ、くそ真面目なむっつりな兄ちゃんは扱いが面倒だぜ、じゃあねルリちゃんまた明日」
「あ、うん」
グリースはルリに笑いかけてからすぅっと姿を消した。
「二度と来るな!!」
アルジェントはグリースが居なくなった方向に向かって怒鳴った。
窓を開けて塩をまいているアルジェントを見ながら、ルリは朝食を食べ終えた。
アルジェントがグリースをここまで毛嫌いしている理由がルリには全く分からなかった。
ヴィオレも警戒しているが、アルジェントはそれ以上だ。
真祖も警戒しているように見えたが、あの時だけのことなのかもしれないので今日真祖に直接聞いてみようとルリは思った。
だが、アルジェントに関してはどうしても聞くのがためらわれた。
第六感的な物が訴えているのだ、アルジェントに聞くと「大変な事」になると。
何故「大変な事」になるかはわからないが、アルジェントの言葉の端々に隠れる「違和感」基彼が「隠しておきたい事」が明らかになる予感がした。
それが明らかになると、自分を取り巻く環境がまた色々とこじれるのが分かったのでルリは聞かないことにした。
「……ごちそうさま」
「――どうでしたか、今日の朝食は?」
「うん、美味しかったよ。ご飯とみそ汁のだったし」
「良かったです、後でヴィオレに伝えたら喜ぶと思います」
「うん、そうする」
アルジェントはいつものような無表情に近いものに戻って片づけをした。
湯飲みや皿、茶わんなどが消えた。
ルリは立ち上がり、ベッドに腰をかけると、椅子とテーブルも術で片づけた。
仕事をこなしているアルジェントの顔をルリは見る。
最初の頃の無表情、では無くなっているように見えた。
どこか柔らかい、より正確に言うなら何か幸せそうな色が見えるのだ。
「ねぇ、アルジェント」
「何でしょうルリ様」
「アルジェントこの仕事と、前の仕事どっちが好き?」
「勿論今の仕事です」
ルリの問いかけにアルジェントは即答した。
――私の世話役が?――
――何故?――
「……どうして」
「真祖様の奥方であるルリ様にお仕えできるのですから、これほど喜ばしいことはありません」
「……」
以前と同じ回答、だが、この言葉に何かが隠れているのが分かる。
でもルリは深く問いかけることはしなかった。
夜、入浴をすまし、ネグリジェに着替えさせられ、歯を磨かれるのを終えるとアルジェントとヴィオレが部屋から出て行った。
部屋に鍵がかかる音がした。
ルリはネグリジェ姿でぱたぱたと室内靴で歩き、ベッドに腰をかける。
「……」
真祖が来るとは聞いているが、何時ごろ来るかは聞いていない。
深夜に来られたら、話すどころではない、自分は夜更かしすると朝起きれない。
すると何か来たような感じがして、部屋が一瞬だけ薄暗くなったのだ。
「ルリ」
名前を呼ばれて、声の方向を見れば黒衣に身を包んだ、巨躯で、整った顔をした壮年の男性――真祖が立っていた。
「……」
真祖はゆっくりとベッドに近づき、ルリの前に来た。
ルリは少し緊張した面持ちで真祖を見る。
真祖はルリに手を差し出した。
ルリは恐る恐る手を伸ばし、その手を掴むと、真祖はルリの手を引っ張り立ち上がらせてから抱きかかえた。
真祖の足元から影が闇が伸びて、ルリと真祖を包み込んだ。
闇が消えると、ルリの部屋より広い部屋にいた。
広いベッドに、棺らしきものが目に入った。
真祖はルリをベッドに座らせると、隣に自分も腰を下ろした。
「……」
ルリは真祖が何を話すのか待った。
しばらく待ったが、真祖は何かを考えているように手を組んでだまま、黙っていた。
「……真祖?」
「……すまぬ、いざ話そうと思っても話題が思いつかぬ」
「……」
ルリは真祖の言葉に拍子抜けした。
「……城での生活はどうだ」
「えっと、外に中々出れないのを除けば悪くはない……です。好きなぬいぐるみ買いに行けないの悩んでいたらグリースが買ってきてくれたのは嬉しくて……でもアルジェントが凄く機嫌悪くして買ってきたぬいぐるみ処分しようとした時はぶん殴って止めました……」
「グリースも何処かでお前の情報を見たのだろう、それで事前に購入しておいたのだろうな。アルジェントは……お前を好いているからな」
「……は?」
「……何だ気づいておらんのかったのか? ――ああ、これは失言だった、忘れるがいい」
ルリはしばらく硬直してからぶんぶんと頭を振って、立ち上がって真祖の服の襟を掴んで揺する。
「ちょ、ちょっと待って下さい!! 好いてるってそれ、もしかして恋愛的な意味で!?」
「それは言えぬ、だから忘れ――」
「いいや、そこら辺はっきりさせて色々と私の状況がアレなのもうちょっとはっきりさせたいから!!」
ルリが真祖の服の襟をつかんだまま、本来の口調になって顔を近づけて問い詰めると、真祖はふぅとため息をつき、仕方なさそうに口を開いた。
「私がお前を愛しているのは知っているだろう?」
「……まぁ、うん」
「グリースがお前を愛しているのも分かっているだろう?」
「うん、言われたし……」
「アルジェントは、お前の情報を見た時にお前に一目ぼれしたのだよ、お前を愛してしまったから、自分の今までの地位を捨ててでも世話役をしたいと申し出てきたのだ」
「いや、ちょっと待って、グリースはともかく、アルジェントは貴方の配下でしょ? 自分の奥さんに部下が恋してるのに世話役させるの?」
「最初に言ったであろう、お前が誰を愛するか楽しみだと」
「いや、でも……いや、ねーわ、色んな意味でねーわ」
ルリは首を振った、真祖の考えが全く理解できなかったからだ。
真祖はそんなルリの頬を撫でた。
「それと楽しみだ、とは言ったが、私はお前の愛を他の者にやるつもりはさらさらない」
「え゛?」
真祖はそう言って、ルリの無防備な薄紅の唇に口づけをした。
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