上 下
14 / 18

仕事再開~驚きの事実~

しおりを挟む



 美咲が回復したのは、寝込んで二日後だった。
「よーし、張り切って癒やし係再開するぞー‼」
「「「「美咲さん/ちゃーん‼‼」」」」
 どっと部屋にいつもの面々が入ってきた。

「美咲ちゃん寝込んだってきいたから大丈夫⁈ 大丈夫だったら少しかじらせて⁈」
「美咲さん、大丈夫ですか、二度とそうならないように私に首を……」
「美咲、大丈夫か? 大丈夫か確認する為に俺が血を舐めてやろうか?」
「美咲、無事か? 駄目そうなら早めに心臓を──」

「大丈夫ですから、お断りしますー‼」
 美咲は大声で叫ぶ。
 いつも通りの命の危機を感じる職場に戻ったなぁと思った。
「貴様等」
「「「「こ、黒炎様‼‼」」」」
 その場に居た美咲以外の全員が硬直する。
 仮面をつけている彼は美咲に近づいた。
「美咲、左手を出してくれ」
「は、はい」
 左手を出すと薬指に黄金に光る輪──指輪をはめさせた。
「えっとこれって……」
「仮のだ、落ち着いたら二人で指輪を見に行こう」
「……はい」
 美咲は嬉しそうに顔を赤らめた。

「美咲は私の妻だ、先ほどの発言、二度とするな」

「「「「は、はい‼」」」」

 黒炎はそう言って部屋の外へと出て行った。

「うう、これじゃあ今まで通り美咲ちゃんに相手してもらえない」
「そうですねぇ……」
「どうしようかね……」
「どうしたもんか……」

「何を言ってるんです、癒やし係はいつも通り行いますよ」
 美咲は微笑み、正座をして膝をぽんぽんと叩いた。

「「「「美咲さん/ちゃーん‼」」」」

 元ヴィラン、否現在もヴィランから抜けきってない面々は涙を流して喜んでいた。




「ふー一端休憩」
 寝込んでいる間に色々と鬱憤やら何やらため込んでいたドラゴンファング所属の者達がこぞってやって来て、四時間ぶっ通しで対応をし、漸く休憩がとれたのだ。
「次は寝込まないようにしないとなぁ」

──いやいや、寝込まないのは無理でしょアレは‼──

 顔を赤くして、ぶんぶんと頭を振った。

「美咲いるか」
「龍我様‼」
「休憩中すまんが」
「はい、畏まりました!」
 美咲が正座をすると、龍牙は美咲の膝の上に頭をのせた。
「体はもう大丈夫か?」
「はい、大丈夫です!」
「全く、黒炎の奴も大概だな」
 龍牙のその言葉に、美咲の顔が再度真っ赤になる。
「ど、どこでその情報を……」
「龍牙がお前の部屋に行って夜過ごしただけで分かる」
「Oh no……」
 美咲は顔を覆う。
「それにお前の雰囲気も変わった」
「え、変わりましたか?」
「恋に恋をする乙女から、愛を知る女の顔に変わった」
「……すっごい恥ずかしい台詞じゃないですかそれ?」
「それと恋する乙女という奴か? リフレインは言っていたよ『恋する乙女は最強』だとな。たしかに、あの光景を見たらそう思ってしまうな」
 龍牙は喉の奥でくくっと笑った。
「まぁ、アレはリフレインさんに行ってこーいされたんですけどね。戻る気満々でしたし、死ぬ気は無かったですし」
「兄者と和解するなどありえんと思って居たのに、お前はそれを成してしまった」
「兄者?」
「王牙だ、血のつながりはない。リフレインに共に育てられたからな」
「王牙ってWGのトップの方⁈」
「ああ、そうだ」
「なんで喧嘩というかヴィランになってWGと敵対するようになったのですか」
「……リフレインが死んだ際、私は世界を見た。醜かった、だからこんな世界に価値はないと思ったのだ」
「……」
 美咲は黙って聞く。
「だが、兄者はそうではなかった。リフレインが命をかけた世界だから存続させねばならない、そこで私と兄者は道を別つことになった」
「……」
「ざっと三百年前の話だ」
 ぶーっと美咲は吹き出した。
「どうした?」
「りゅ、龍牙様って何者⁈ WGのトップも⁈」
「私達は『落とし子』だ」
「『落とし子』?」
 聞いた事があるようでないような言葉に美咲は首をひねる。
「特殊な細胞を持ち、食らい戦う事で強くなる者達の事だ。化け物じみたことから『落とし子』と呼ばれるようになった。寿命も常人より長い」
「ちょちょっと待ってください、もしかしてここの人達って……」
「ああ、全員落とし子だ。人工的なものもいるがな」
「え」
「特殊な細胞を注入することで『落とし子』へと変化できる。が、細胞に負けて死ぬ事もある」
「うへぇ……」
「ちなみに『鎮めの乙女』も『落とし子』の一種だそうだ」
「え」
「良かったな、これで黒炎を置いて死なずに済むぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください……駄目だ色々ありすぎて頭がごちゃごちゃだ……」
 美咲は頭を抱えた。
「『落とし子』は神の落とし子、悪魔の落とし子、二つの意味がある。私は悪魔の落とし子として、村を追われ、食えるものは何でも食っていたが、それでも足りなくなり倒れたところをリフレインに救われた。彼女は私にとって母親のようなものだ」
「だからリフレインさんが犠牲になったのが許せなかったんですね……」
「ああ、あんな薄汚い連中が生きる為にリフレインが犠牲になったのではない、そう思ったのだ」
 美咲は無言になり、龍牙の長い髪を撫でた。
「だから食らって倒して、今も若いままで強いままでいるんですね」
「ああそうだ」
「……」
「飢えに飢え、食らいに食らい、そして倒して倒して力をつけた、兄者を越えるほど」
「それくらい悲しかったんですね……」
「ああ、ずっと飢えていた、悲しくてな。だが──」

「今はお前がいる」

 龍牙は美咲の頬を撫でた。
「俺の乾きを癒やしてくれるもの──リフレインと同じ『鎮めの乙女』、リフレインとは全く異なるが人に癒やしを与える者」
「……龍牙様の乾きが癒やされたなら私にとって幸いです」
「本当に可愛い娘だ」
 龍牙は美咲の髪を梳いた。
「黒炎が見惚れていなければ俺が貰おうかと思った位だ」
「え゛」
 美咲はぎょっとする。
「本気だ。だが黒炎がずっと前から見惚れていたのだ、俺は見守ろうと思った」
「は、はぁ……」
 困惑の声を上げる美咲に、龍牙はにやりと笑った。
「黒炎に愛想が尽きたらいつでも歓迎するぞ」
「それはないので安心してください」
「それは残念」
 そう言ってから二人は笑い合った。




「りゅ、龍牙様……」
 別室でモニターと音声で監視していた黒炎は頭を抱えた。
 自分達のトップも美咲を自分の物にしようと考えていたことを今知ったのだ。
 頭も痛くなる。
 しかし、美咲は黒炎に心を寄せていて、龍牙のものにはならないとはっきり行ったのだ。
 愛想を尽かさないと言って居た事に心底安堵した。
 だが──

──愛想を尽かされないように、私の方こそ何とかしなければ──

 黒炎は自分に強く誓った。
 決して他者の者にはさせないと。
 美咲を守り、愛し通すと──





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~

美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。 母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。 しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。 「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。 果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?

ハバナイスデイズ~きっと完璧には勝てない~

415
ファンタジー
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」 普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。 何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。 死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。

ヤンデレ男の娘の取り扱い方

下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】 「朝顔 結城」 それが僕の幼馴染の名前。 彼は彼であると同時に彼女でもある。 男でありながら女より女らしい容姿と性格。 幼馴染以上親友以上の関係だった。 しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。 主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。 同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。 しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。 ――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。 現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」 本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。 ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。 ※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。 こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。

オアシス都市に嫁ぐ姫は、絶対無敵の守護者(ガーディアン)

八島唯
キャラ文芸
 西の平原大陸に覇を唱える大帝国『大鳳皇国』。その国からはるか数千里、草原と砂漠を乗り越えようやく辿り着く小国『タルフィン王国』に『大鳳皇国』のお姫様が嫁入り!?  田舎の小国に嫁入りということで不満たっぷりな皇族の姫であるジュ=シェラン(朱菽蘭)を待っているのタルフィン国王の正体は。  架空のオアシス都市を舞台に、権謀術数愛別離苦さまざまな感情が入り交じるなか、二人の結婚の行方はどうなるのか?!

諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~

七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。 冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??

処理中です...