上 下
8 / 18

思い実る~役に立たなかった部下達~

しおりを挟む



 美咲は小休憩でトイレなどを済ませてから部屋に戻ると、龍牙が居た。
「龍我様、何でしょうか」
「美咲、膝を貸せ」
「はい」
 美咲はその場に正座した。
 そしていつものように龍牙は美咲の膝枕の上に頭をのせた。
 美咲は慈しむように龍牙の髪を撫でる。
 龍牙は美咲の頬や唇、髪に触れる。
「黒炎は」
「黒炎さんですか?」
「このように触れないのか」
「触れませんね、お茶会だけです」
 美咲は苦笑した。




 龍牙は心の中で舌打ちする。
 何をとろとろやっているのか、と。
 他の連中ももっと気を遣えと。


「奴にもこうしてやれ、本当は奴もこうしたがっているはずだ」
「本当ですか?」
「ああ」
「だったら、嬉しいなぁ」
 微笑む美咲が、我が子のように愛おしく見えた。
 龍牙に子どもはいないのだが。

 だからこそ「鎮めの乙女」である彼女を生け贄にする気は無かった。
 自分が母のように慕ったリフレインはその役目を全うするために死んだ。
 その結果世界は回っているが、腐りきっている所が多すぎた。

 だから、次こそは美咲を生け贄にせず、世界を壊してもいい覚悟が龍牙にはあった。


「美咲、お前は可愛い娘だな」
「有り難うございます」
「我が子のように思える」
「本当ですか?」
「ああ」
 美咲の顔に触れながら、龍牙は答えた。
「……だから幸せになれ」
「──有り難うございます」
 龍牙の言葉に美咲は泣きそうな顔で笑った。


「では、またな」
「はい」

 龍牙が部屋を出ると、ルローが黒炎を連れてきていた。
「あの、龍牙様」
「何だ黒炎」
「龍牙様は、美咲をどう思って居るのですか?」
 黒炎がそう問いかけてきたので、龍牙は呆れた様に言った。
「娘のように思ってしかおらぬわ。全くお前は……」
「……」
「いいか、膝枕をしてもらえ。これはボス命令だ」
「え゛」
「いいな?」
「は、はい……」
 黒炎は挙動不審になっていた、それが何処か面白かったが笑うことはしなかった。




 美咲が部屋で待っていると黒炎がやって来た。
 仮面を被って。
「黒炎さん」
「その……膝枕を頼みたい」
「‼ ……勿論です!」


「硬くないですかー? それより、なんで仮面してるのに顔を覆ってるんですか?」
「……みせられない顔になってるからだ」
「いや、でも仮面」
「本当、みせられない顔なんだ」
「あの……何か嫌なことでもありました?」
「違う、無かった」
「じゃあなんで……」
 困惑する美咲に、黒炎は声を絞り出すように言った。
「……だらしない顔になっていそうでみせられない」
「あ、あのそれって……」
 美咲はその言葉に、心臓の鼓動が早くなる。
「期待、しても、いいん、ですか?」
 美咲も言葉を絞り出す。
「……」
「いいんですか?」
「……いい」
 美咲の表情が薔薇色に染まる。
 仮面を被ったままの黒炎に抱きつく。
「嬉しい!」
「む、胸が! 胸が!」
「ちょっと仮面の突起が刺さって痛いですけど、嬉しいので我慢ですー!」
「話を聞いてくれ⁇‼」

「漸くくっ付いたか」




 ノックもせずに龍牙とルロー、蟲番とグリーレーだった。
「幹部が役に立たないからどうしたものかと考えていたが最初からこうすればよかったか」
「ボス、失礼ですが僕達もちゃんとやりましたよ?」
「蟲繁殖させたいから子宮貸せとか何処がくっつける手段だ」
 蟲番は使役する蟲の繁殖に美咲を使おうとして、ボスである龍牙と黒炎に鉄拳制裁を受けた。



『ねぇ、癒やし係なんでしょ? 俺蟲を見るのが癒やしでさ』
『はぁ』
『だからちょっと子宮かしてくれない? 子宮で育つ蟲だから』
『いやー‼ 誰かー‼』

 ドカバキドコ‼

『『そういう事を美咲にするな馬鹿者』』
『お前は出禁な』
『えー』


 という事があった。




「そうっすよー、俺ら頑張ったっすよ?」
「貴様は食べさせてといって噛みつこうとしたではないか」
 グリーレーはグリーレーで食べようとした為、速攻で龍牙と黒炎にボコられた。
「そして出禁でしたね、残念な程の早さでした」
 ルローが呆れた様に言う。




『お嬢ちゃん良い匂いしてるねー』
『あ、有り難うございます』
『だからちょっと食べさせてくれない?』
『え、いやですよ、ちょ、掴まないで口を開けないで、誰かー‼』


 ドカバキドコ‼


『『美咲を喰おうとするな愚か者』』
『貴様は出禁だ!』
『ちぇー』


 蟲番と似たオチで出禁にされた二人だった。


「りゅ、龍牙様、まさか……」
「お前達の思いなんぞお見通しだ、だからくっつけようとしていたのだ」
「し、しかし。それでは美咲の仕事に支障が……」
「寧ろ美咲に手出しする連中がいなくなってお前も安心だろう」
「それは、そうですが……」
「え、え? 龍牙様、もしかして……」
「美咲、お前が黒炎に惚れていた事くらいお見通しだ」
「マジですかー!」
 美咲が声を上げて頭を抱える。
「おおう……職場恋愛見透かされちゃってるよ……」
 そんな美咲を見て龍牙は笑う。

──そう、これでいい。より連中は美咲を「生け贄」にしづらくなる──

 龍牙は心の中で一人いい聞かせる──





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

カフェぱんどらの逝けない面々

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
キャラ文芸
 奄美の霊媒師であるユタの血筋の小春。霊が見え、話も出来たりするのだが、周囲には胡散臭いと思われるのが嫌で言っていない。ごく普通に生きて行きたいし、母と結託して親族には素質がないアピールで一般企業への就職が叶うことになった。  大学の卒業を間近に控え、就職のため田舎から東京に越し、念願の都会での一人暮らしを始めた小春だが、昨今の不況で就職予定の会社があっさり倒産してしまう。大学時代のバイトの貯金で数カ月は食いつなげるものの、早急に別の就職先を探さなければ詰む。だが、不況は根深いのか別の理由なのか、新卒でも簡単には見つからない。  就活中のある日、コーヒーの香りに誘われて入ったカフェ。おっそろしく美形なオネエ言葉を話すオーナーがいる店の隅に、地縛霊がたむろしているのが見えた。目の保養と、疲れた体に美味しいコーヒーが飲めてリラックスさせて貰ったお礼に、ちょっとした親切心で「悪意はないので大丈夫だと思うが、店の中に霊が複数いるので一応除霊してもらった方がいいですよ」と帰り際に告げたら何故か捕獲され、バイトとして働いて欲しいと懇願される。正社員の仕事が決まるまで、と念押しして働くことになるのだが……。  ジバティーと呼んでくれと言う思ったより明るい地縛霊たちと、彼らが度々店に連れ込む他の霊が巻き起こす騒動に、虎雄と小春もいつしか巻き込まれる羽目になる。ほんのりラブコメ、たまにシリアス。

TSカリスマライフ! ―カリスマスキルを貰ったので、新しい私は好きに生きることにする。―

夕月かなで
キャラ文芸
【イエス百合、ノーしりあす!】 好きな人を守って死んだ男子高校生が、前世と同じ世界でカリスマ溢れる美少女として転生!  前世の記憶と神様からの恩恵を使って、彼女は前世では出来なかったことを送っていきます。  妹や親友たちに囲まれて幸せな日々を送る、ほんわかユルユル女の子たちのハートフルコメディです。  全編、女の子たち(主人公含めて)が楽しく日々を描いております。 男はほとんど登場しません(ここ大事)。 頭を空っぽにしても読める、楽しい百合を目指しています!  前書き後書きは最新話のみ表示しています。 ※現在一話から読みやすいよう修正中、修正後の話には『第〇〇話』と付けております。 ※ノベルバ様・カクヨム様・小説家になろう様にも投稿しています。

俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~

美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。 母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。 しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。 「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。 果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?

【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜

櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。 そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。 あたしの……大事な場所。 お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。 あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。 ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。 あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。 それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。 関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。 あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!

美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~

根上真気
キャラ文芸
4サイト10000PV達成!不登校の俺のもとに突然やって来たのは...未来から来た美少女アンドロイドだった!しかもコイツはある目的のため〔セクシープログラム〕と称して様々な色じかけを仕掛けてくる!だが俺はそれを我慢しなければならない!果たして俺は耐え続けられるのか?それとも手を出してしまうのか?これは思春期のセイなる戦い...!いざドタバタラブコメディの幕が切って落とされる!

イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお
キャラ文芸
不思議な少女はとある国で大きな邸に辿り着いた。 なんとその邸には犬が住んでいたのだ。しかも喋る。 少女は「もっふもっふさいこー!」と喜んでいたのだが、実は犬たちは呪いにかけられた元人間!? まぁなんやかんやあって換毛期に悩まされていた邸の犬達は犬好き少女に呪いを解いてもらうのだが……。 「いやっ、ちょ、も、もふもふ……もふもふは……?」  なろう、カクヨム様にも投稿してます。

郷土料理女子は蝦夷神様をつなぎたい

松藤かるり
キャラ文芸
お客様は蝦夷の神様!? 北海道ならではマニアック郷土料理で、人と蝦夷神様の想いをつなぐご飯。 北の大地に、神様がいるとして。 自然のあらゆるものに魂が存在すると伝えられ、想いの力から誕生した蝦夷神様。その足跡は北海道の各地に残っている。 だが伝承を知る者は減り、蝦夷神様を想う人々は減っていた。 北海道オホーツク沿岸の町で生まれ育った鈴野原咲空は札幌にいた。上京資金を貯めるためバイトを探すも、なかなか見つからない。 そんな矢先『ソラヤ』の求人広告を見つけ、なんとか店まで辿り着くも、その店にやってくるお客様はイケメンの皮をかぶった蝦夷神様だった。 理解を超える蝦夷神様に満足してもらうため咲空が選んだ手段は――郷土料理だった。 さらには店主アオイに振り回され、札幌を飛び出してオホーツク紋別市や道南せたな町に出張。 田舎嫌いの原因となった父とのわだかまりや、今にも人間を滅ぼしたい過激派蝦夷神様。さらには海の異変も起きていて――様々な問題起こる中、咲空のご飯は想いをつなぐことができるのか。 ・一日3回更新(9時、15時、21時) ・1月20日21時更新分で完結予定 *** *鈴野原 咲空(すずのはら さくら)  本作の主人公。20歳。北海道紋別市出身 *アオイ  ソラヤの店主。変わり者 *白楽 玖琉(はくら くる)  咲空の友人 *山田(やまだ)  Ep1にて登場。蝦夷神様 *鈴木(すずき)  Ep2にて登場。蝦夷……? *井上(いのうえ)  Ep3にて登場。蝦夷神様の使い *磯野(いその)  Ep3にて登場。蝦夷神様 *鈴野原 ミサキ(すずのはら みさき)  咲空の母。北海道せたな町出身

処理中です...