DOLL GAME

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
10 / 10

エピローグ

しおりを挟む


 小さな<戦争>は終わりを告げて数ヶ月が経った。
 各地はまだ傷跡は残り、今も復興作業が進められていた。

 再開した「DOLLGAME」の会場に、ライカは居た。
「まだ、試合までかなり時間がありますね」
「そうだな」
 フォルトは電光掲示板を見つめて答えた。
「この仕事、止めたかったんじゃないのか?」
「本当は、でもそれじゃあ駄目だって気づいたんです」
 ライカはヘルメットを見つめながら、静かに続けた。
「みんな、戦争がどういうものなのか解らなくなってしまっている。身近なところで戦争に近いことが起きているから、みんな解らなくなって、本当に取り返しのつかない戦争が起きないとその重大さに気づかない」
 空を見上げる。空は澄み切った青だった。
「だから、私はそれを覚えていなければならない。それを伝えなければならない……だから戦うんです」
「『DOLLGAME』で……か」
「ええ、戦うことの恐怖を、私あの時再確認しました。だから私はその為の存在になります」
「自分と対戦する者に、戦うことの恐怖を教える、か」
「はい、今はこれしかできません。ですがそれ以外の方法もいずれ見つけます」
 ライカはフォルトを見て静かに微笑んだ。
「フォルトさん、レイヤさんが来ていますので……会いに行ってあげて下さい」
「どうしてだ?」
「レイヤさんが先ほど、『そろそろソロネの好きな花について教えくれてもいいじゃないか』とぼやいてましたので」
 ルギオンはそれを聞いて、目を丸くした。そして薄い笑みを浮かべる。
「わかった、すぐ戻るから先に行っててくれ」
「はい、行ってらっしゃい」
 その場を後にするルギオンにライカは手を振りながら見送った。

 会場から少し離れた所にある花園で、レイヤは立っていた。
 手にはラベンダーの花が握られていた。
「……これが一番好きな花じゃなかったのか……?」
「待たせたな」
 ルギオンが片手を隠すように現れる。
 レイヤは驚くが、すぐに穏やかな笑みを浮かべてフォルトを見る。
「来てくれたんだな」
「ライカが行ってこいと五月蝿くてな」
「そうだろうな」
 レイヤが笑うと、フォルトも釣られて笑った。
「フォルト、色々すまなかった……」
「何を今更」
「お前を憎んだ自分が、今では恥ずかしい……あの日以来、そう思うようになった」
「……そうか、ルギオンは死んだのか」
「ああ、私が殺した」
 フォルトは静かにレイヤを見つめる。
 風が吹き、花弁が舞う。
「……復讐が終わった、なのに心には穴が開いたような空虚感があった。悲しくて、苦しい。どうすればいいのか解らなかった……本当、許したかったのだろうな」
「なら、俺を許してくれるか?」
「……ああ、寧ろ私を許して欲しい。場違いな憎しみをぶつけた、この私を」
「お前を憎まないさ……俺は自分が憎かったから」
「そうか……有り難う、ところで何で左手を隠しているんだ?」
「ああ、これだ」
 フォルトは静かに隠している左手を出す。
 その手には、愛らしい白い花の花束が握られていた。
「これは……?」
「スノードロップだ」
「スノー……ドロップ?」
 フォルトは小さく頷き、その花束をレイヤに手渡した。
「ソロネは確かにラベンダーが好きだったが、本当に好きな花はこの花だった」
「何故?」
「ラベンダーの花言葉は『不信』。リラックス効果のある花なのに花言葉はあまり良くないものだろう?」
 フォルトは静かに言う。レイヤはその言葉を聞いてから白い花に優しく触れる。
 可憐なその花は、レイヤに触れられ小さく揺れた。
「スノードロップの花言葉、知っているか?」
「いや……教えてくれないか?」
「それは、『希望』……スノードロップの花言葉は『希望』だ」
「『希望』……」
 レイヤはその言葉を何度も呟いた。
「ソロネは、決して諦めなかった。死ぬ間際まで……だから俺も諦めない。俺はライカの為に、ライカを守り通す」
「そうか……」
「そろそろ時間だ、すまんがもう行くぞ」
「ああ」
 ルギオンが居なくなるのを見送ってから、レイヤは再び愛らしい花に目を落とし、何度も優しく触れ、花言葉を繰り返した。

 フォルトが格納庫に入ると、ライカはすでにコクピットの中にいた。
 ライカはフォルトに手を振り、コクピットに早く来るように促す。フォルトは苦笑を浮かべながらコクピットへと走る。
 移動階段を上り、コクピットに入ると定位置に座る。
「もうすぐ試合ですね」
「ああ」
 試合開始の時間が近づき、ライカはリベリオンを動かした。
 リベリオンはゆっくりと試合会場へと歩いていった。
 広い試合会場に出ると、ライカは静かに相手の「DOLL」を見つめる。
「じゃあ、今日も勝ちましょうか?」
「気を抜くな」
「勿論」
 ライカはにやりと笑ってフォルトを見た。フォルトは苦笑いで返す。
「じゃあ、始めましょうか」
「ああ」
 試合開始の音が高らかに鳴り響いた。











しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私とマリヤの世界征服録

琴葉悠
SF
とある世界の悪の組織の総帥ブラッドクライムは、世界征服活動が思うように進んでいなかった。 しかし、科学者を得てから順調に進み始めたが、その科学者がちょっと訳ありだった…

狭間の世界

aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。 記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、 過去の彼を知る仲間たち、、、 そして謎の少女、、、 「狭間」を巡る戦いが始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤリチン幼なじみに見切りをつけました~そしたらイケメンが近寄ってきて……~

琴葉悠
恋愛
冬月心花は幼少時、結婚の約束を交わした幼なじみがやりチン屑野郎になったので、約束は忘れてかつ縁も切って一人で生きていくことを誓うが──

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

恋人は極悪人<ヴィラン>?!

琴葉悠
恋愛
上司のセクハラ、初めての恋人の不貞などで鬱病になった姫野舞子ことマイ。 自宅に引きこもり、幻聴の影響で薬を大量に服薬して意識を失う。 そんな彼女を(色んな意味で)救ったのは、異世界からやってきた極悪人<ヴィラン>だった!

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

処理中です...