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エピローグ
しおりを挟む小さな<戦争>は終わりを告げて数ヶ月が経った。
各地はまだ傷跡は残り、今も復興作業が進められていた。
再開した「DOLLGAME」の会場に、ライカは居た。
「まだ、試合までかなり時間がありますね」
「そうだな」
フォルトは電光掲示板を見つめて答えた。
「この仕事、止めたかったんじゃないのか?」
「本当は、でもそれじゃあ駄目だって気づいたんです」
ライカはヘルメットを見つめながら、静かに続けた。
「みんな、戦争がどういうものなのか解らなくなってしまっている。身近なところで戦争に近いことが起きているから、みんな解らなくなって、本当に取り返しのつかない戦争が起きないとその重大さに気づかない」
空を見上げる。空は澄み切った青だった。
「だから、私はそれを覚えていなければならない。それを伝えなければならない……だから戦うんです」
「『DOLLGAME』で……か」
「ええ、戦うことの恐怖を、私あの時再確認しました。だから私はその為の存在になります」
「自分と対戦する者に、戦うことの恐怖を教える、か」
「はい、今はこれしかできません。ですがそれ以外の方法もいずれ見つけます」
ライカはフォルトを見て静かに微笑んだ。
「フォルトさん、レイヤさんが来ていますので……会いに行ってあげて下さい」
「どうしてだ?」
「レイヤさんが先ほど、『そろそろソロネの好きな花について教えくれてもいいじゃないか』とぼやいてましたので」
ルギオンはそれを聞いて、目を丸くした。そして薄い笑みを浮かべる。
「わかった、すぐ戻るから先に行っててくれ」
「はい、行ってらっしゃい」
その場を後にするルギオンにライカは手を振りながら見送った。
会場から少し離れた所にある花園で、レイヤは立っていた。
手にはラベンダーの花が握られていた。
「……これが一番好きな花じゃなかったのか……?」
「待たせたな」
ルギオンが片手を隠すように現れる。
レイヤは驚くが、すぐに穏やかな笑みを浮かべてフォルトを見る。
「来てくれたんだな」
「ライカが行ってこいと五月蝿くてな」
「そうだろうな」
レイヤが笑うと、フォルトも釣られて笑った。
「フォルト、色々すまなかった……」
「何を今更」
「お前を憎んだ自分が、今では恥ずかしい……あの日以来、そう思うようになった」
「……そうか、ルギオンは死んだのか」
「ああ、私が殺した」
フォルトは静かにレイヤを見つめる。
風が吹き、花弁が舞う。
「……復讐が終わった、なのに心には穴が開いたような空虚感があった。悲しくて、苦しい。どうすればいいのか解らなかった……本当、許したかったのだろうな」
「なら、俺を許してくれるか?」
「……ああ、寧ろ私を許して欲しい。場違いな憎しみをぶつけた、この私を」
「お前を憎まないさ……俺は自分が憎かったから」
「そうか……有り難う、ところで何で左手を隠しているんだ?」
「ああ、これだ」
フォルトは静かに隠している左手を出す。
その手には、愛らしい白い花の花束が握られていた。
「これは……?」
「スノードロップだ」
「スノー……ドロップ?」
フォルトは小さく頷き、その花束をレイヤに手渡した。
「ソロネは確かにラベンダーが好きだったが、本当に好きな花はこの花だった」
「何故?」
「ラベンダーの花言葉は『不信』。リラックス効果のある花なのに花言葉はあまり良くないものだろう?」
フォルトは静かに言う。レイヤはその言葉を聞いてから白い花に優しく触れる。
可憐なその花は、レイヤに触れられ小さく揺れた。
「スノードロップの花言葉、知っているか?」
「いや……教えてくれないか?」
「それは、『希望』……スノードロップの花言葉は『希望』だ」
「『希望』……」
レイヤはその言葉を何度も呟いた。
「ソロネは、決して諦めなかった。死ぬ間際まで……だから俺も諦めない。俺はライカの為に、ライカを守り通す」
「そうか……」
「そろそろ時間だ、すまんがもう行くぞ」
「ああ」
ルギオンが居なくなるのを見送ってから、レイヤは再び愛らしい花に目を落とし、何度も優しく触れ、花言葉を繰り返した。
フォルトが格納庫に入ると、ライカはすでにコクピットの中にいた。
ライカはフォルトに手を振り、コクピットに早く来るように促す。フォルトは苦笑を浮かべながらコクピットへと走る。
移動階段を上り、コクピットに入ると定位置に座る。
「もうすぐ試合ですね」
「ああ」
試合開始の時間が近づき、ライカはリベリオンを動かした。
リベリオンはゆっくりと試合会場へと歩いていった。
広い試合会場に出ると、ライカは静かに相手の「DOLL」を見つめる。
「じゃあ、今日も勝ちましょうか?」
「気を抜くな」
「勿論」
ライカはにやりと笑ってフォルトを見た。フォルトは苦笑いで返す。
「じゃあ、始めましょうか」
「ああ」
試合開始の音が高らかに鳴り響いた。
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