上 下
33 / 46

第33話 変態達の狂宴

しおりを挟む
 未明の刻、僅かな松明が部屋の中を照らし出している。オレは町から外れた森にある旧自宅の窓際で腕を組み物思いにふける。あと数時間で日は登り、吸血鬼との戦いは一時休戦となるだろう。そこまでいけば、あとは奴の寝床を暴(あば)いて葬りたい。それができれば最高なんだが…

「小屋に逃げ込んだと思えばなんだ? サイゾウ、ついに観念でもしたか?」

 吸血鬼から逃げるために町中を駆け、わかったことがある。この吸血鬼は規格外だ。決して人類が対立してはいけない部類の凶悪な魔物だ。酸による攻撃も、ワイヤーによる切断も、痛いと言うだけで、しばらくすれば平然とした顔でオレを見つけて追いかけて来やがる。
 
「観念? なんのことだ?」

 ハンターギルドは町に現れた吸血鬼の駆除、もしくは無害化なんてハードな依頼をオレに押し付けてあとで見ていろよ。

「吸血鬼にはわからない高尚な悩みさ」

 しかし、このまま依頼の失敗でもしてみろ。彼女もできないままで人生がまた終わるんだぞ。勘弁してくれよ。

 この世には美女がたくさんいるのになぜ俺には彼女ができないんだ。デミトン、おまえにわかるか? 前世から彼女が1度もできなかった者の悲しみと苦しみが!

 ああ、オレの悩みとはなんて高尚なんだ。人類史上はじまって以来の難問だ。いったいどうやって解決をすれば良いのだ。

「なにが高尚な悩みだ! 貴様の顔でおおよその見当がついたわ!!」

 オレの顔を見ただけで、こちらの考えが読めるだと。やはり、奴は古の吸血鬼なのだろうか。神に匹敵したという伝説の化け物。ならば、もうこの手を使うしかないな。

「そうか? なら、これも予想がついたか? 吸血鬼ごときにはきっと予想がつかないだろう…」

「何を言っているのだ? これは!? なんだ?」

 オレの話を遮って口を動かす吸血鬼に天井から降り注がれた液状の物体。

「…な、なんだ!? このヌチョヌチョとした液体わ?」

「見てわからないのか? 天然の油を大量に含んだ粘液性の強いスライムから取れたオイルさ」

 オイルが塗られた奴の筋肉は松明の炎に照らし出されて輝く。それを見たオレはこう思わずにいられなかった。なぜ、奴は女の形態でいないのだ。オイルまみれの美女だからそのヌメヌメは価値があるのに…

 逞しい筋肉の男がオイルまみれだとただのボディビルダーにしか見えない。もう気分は最悪だ。

「オイル? この筋肉美をさらに輝かせるために我にオイルをぬってくれておるのか!? そこまで我の肉体の美しさに魅入られたのか…」

 何をこいつは言っているんだ。魅入られる訳ないだろ! なんで、ムキムキの男を見てオレが楽しんだよ!

「ック、デミトン!! なぜ、おまえは男なんだ!! オレの計画と楽しみが台無しだよ!!」

 オレは女デミトンを想定してその罠を仕掛けたの! 誰も筋肉美なんてモノを求めないわ!!

「なんだ、サイゾウはこっちの姿の方が好みだったのかしら? フフフ」

 そう言って、デミトンは霧のような物体になったと思ったら女になって、ウインクをオレにしてきた。

「神はここにいたのか? 堪らない。オレには我慢できない。おねいさーん!!」

 オレは女デミトンに飛びかかった。そして、オイル塗れの奴の身体を弄る。オレはこれを求めていた。求めていたんだ!!

「フフフ、かかったな。捕まえたぞ? サイゾウ!!」

 オレは奴に捕まっちまった。なんて古典的な手に引っかかってしまったんだ。だが、仕方ないよな。だって童貞なんだもん。本当に許して欲しい。

「この触り心地はたらん」

 オレは顔を女デミトンのオイル塗れの身体に当ててその感触を楽しむ。オレの顔はきっと反省はしているだろう。でも、後悔などの感情は一片もないはずだ。

「やめろ!! サイゾウ!? ああ、そこはダ、ダメなの!! 」

 そう言って奴はオレを慌てて引き離した。クソ、もっと堪能したかったのに。いや、待てよ。こいつは煽り耐性がない。

「なんだ? 捕まえたと言ってなかったか? おまえは人間すらろくに捕まえられない残念吸血鬼だったのか」

「ふざけるな。くそ、捕まえて殺してやる。って、ツルリだと? 力を入れると滑るのか。ッチ、おのれ、オイルめ!!」

 どうやら、デミトンの奴はオレがオイル塗れの身体のお陰で掴めないようだ。ふふふ、これはいいチャンスだな。女体に抱きしめられないのは残念だが、別のことで、貴様を堪能させてもらおうか。

「おお、触り心地がヌチョヌチョネバネバして気持ちが良いね」

 オレは奴のあそこや、あんなところ、こんなところを嬲りまくった。

「や、やめろ!! 私のそんなところを…」

 なんて、最初はデミトンもやっていたが突然の沈黙。そして奴の体が霧状となった。

「ッチ、また性別の変更でもしやがるのか。だが、それまでに楽しめるだけ、楽しんでやるぜ!!」

 オレの1人トレーニングの成果を見せてやる!!

「ここがエエのか? ああ? ここか?」

「そうだな。この大臀筋をもっと舐め回してもらおうか」

 オレが触っていた胸は逞しい大胸筋。ヒップは逞しい大臀筋。ああ、まさに男神様! また、デミトンは男に戻りやがった。

「ッチ、鳥肌が立つわ! 誰が男のそんな場所をなめまわすんだよ。この変態が!!」

「今までの行動から変態の極みにいるサイゾウに言われるとな…」

 見よ。我、肉体美と言って各種マッスルポーズを展開してくる筋肉魔人である変態デミトンにそんな目で見られたくないわ。

「真っ裸であるくのが快感の変態にそんなことを言われたくないわ!!」

「そう、褒めるな。もっと我のムッキムキの筋肉を堪能していくと良い」

 ムフと言って、デミトンは身体を傾斜45度にするのと同時に左腕を曲げて筋肉隆々の胸を張る。あれは確かボディビルの側面からのマッスルポーズであるサイドチェスト!? イヤ、そんなマッスルポースなんて見たくないよ。 

「遠慮するわ! おまえみたいな、変態はこの世から消え去った方が世のためだ!!」

「それはおまえの方だろ? って、なんだ。我になにを振りかけている。黒い粉?」

 神に捧げる至高の美っていっている頭のイカれた変態にとやかく言われたくないわ。

「これを見てもまだわからないか? デミトン」

 オレの振りかけた粉がなにかわからなくて困惑しているな。だが、よく考える頭があれば、わかるだろう? 燃えやすいオイルに黒い粉を見せびらかすように敵に振りかけると言えばさ。

「あああああああああああああああああ!? 貴様!! まさかそれは火薬か!!」

「ピンポーン、大正解! そんなあなたにはスペシャルプレゼント!」

 オレの前に大量に積み上げられている火薬を目にして叫び出すデミトン。

「デミトンが貰えるのはこちらだ。ジャジャーン。煉獄の浄化の炎!!」

 オレはニッコリと微笑み。壁にかけてあった松明を手に持ち、火薬めがけてぶん投げる。

「嘘だろ!? き、貴様、そんなことをしたら!!」

「悪逆非道の限りを尽くしてきた吸血鬼デミトン。ようこそ、ハンターの世界へ。弱い人間のあがきの前に消え去れ!! この化け物が!!」

 オレは窓をあけて建物の外に飛び降り、できるだけ離れるために走る。そんなオレを逃すまいと咄嗟にこちらに駆け寄るデミトン。

「なに、最後だけ。カッコつけているんだ!!」

 だが、吸血鬼には天が味方しなかったようだ。奴の声が悲鳴に変わると同時に爆発音が辺りに響き渡った。

 空に日が昇る中、オレは燃え盛る古い自宅を遠目に見た後に帰路につくことにしたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

侯爵騎士は魔法学園を謳歌したい〜有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった〜

すずと
ファンタジー
 目指せ子供部屋おじさんイン異世界。あ、はい、序盤でその夢は砕け散ります  ブラック企業で働く毎日だった俺だが、ある日いきなり意識がプツンと途切れた。気が付くと俺はヘイヴン侯爵家の三男、リオン・ヘイヴンに転生していた。  こりゃラッキーと思ったね。専属メイドもいるし、俺はヘイヴン侯爵家のスネかじりとして生きていこうと決意した。前世でやたらと働いたからそれくらいは許されるだろう。  実力を隠して、親達に呆れられたらこっちの勝ちだ、しめしめ。  なんて考えていた時期が俺にもありました。 「お前はヘイヴン侯爵家に必要ない。出て行け」  実力を隠し過ぎてヘイブン家を追放されちゃいましたとさ。  親の最後の情けか、全寮制のアルバート魔法学園への入学手続きは済ましてくれていたけども……。  ええい! こうなったら仕方ない。学園生活を謳歌してやるぜ!  なんて思ってたのに色々起こりすぎて学園生活を謳歌できないんですが。

闇属性のバーサーカー

雨川 海雲(あまがわ みくも)
ファンタジー
 属性で人の価値が決まる世界。それもそのはず、人が持っている力と魔力は、属性によって倍率が変わってしまうからだ。  闇属性だけが集まる名もない村。そこでラットは育った。いつも一人丘に登り、遠い王都を見つめる。国の中心は光属性の者たちが暮らしているため、虹色の魔力で満たされている。  見えるのに掴めない虹を羨むたびに、ラットの心は歪んでいく。 「仕方がないさ。属性が違うんだから。気にするだけ無駄だぜ、兄弟」  友人や兄弟の言葉は彼には届かない。だから今日も暇さえあれば丘に登り、虹を見つめる。  だが、彼には人にはない才能があった。  これは、人から見下され、差別されている闇属性の少年が「暗黒の狂戦士」として成り上がる物語である。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

そうだバックレよう~奴隷買ったら、前世の常識とか倫理観とかどうでもよくなった~

リコピン
恋愛
前世の記憶を持って転生したステラ。子どもの頃は神童ともてはやされ、幼くして王宮に勤めることになるが、気づけばただの人。職場である魔導省がブラック過ぎて精神をすり減らす日々の中、癒しを求めて三次元(奴隷)に手を出すことを閃く。奴隷のエリアスを手に入れたことで色々振り切れたステラは、職場をバックレることにするが、ステラの居なくなった魔導省では… HOTランキング3位!!(⊃ Д)⊃≡゚ ゚ありがとうございます!頑張ります!

処理中です...