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第7話 ゆっくりと進むアラクネとサイゾウの関係

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木々に青々と茂る葉が風で揺れている。そして、風に運ばれて鼻腔まで死臭が届く。そんな屍の山が築かれている場所でオレは頭を抱えていた。だって、折角、フラグが立った女が目の前で殺されようとしているんだぞ?

 あのアラクネの首筋にある剣をどうにかしない。だが、いったいどうすればいいんだ? いかん、もう考えている場合じゃない。このままではアラクネの首が切られる。

 もう一度、アラクネとキスしたかったな。いや、キスすればいいじゃん。さらに運が良ければ、このドサクサに紛れてもっとすごいことができるかもしれない。

「ここが人生の賭けどころだ!」

 オレは全力で駆けた後に飛ぶ。その姿はきっとこんな風だろうか。まるで番いを求めて飛び立つ昆虫のようだと。そして、愛のために死すら厭わぬ無謀な勇姿。まぁ、欲望に忠実な一匹の男と言ったほうが忠実か。

「ダイビング、キッス!!」

 頭からアラクネたちの方に飛び込むオレ。唇を蛸のように伸ばしてキスの準備をする。そう、あの味が忘れられないんだ!! アラクネとの初キス。だから、彼女が死ぬ前にせめて、もう一度!!

「せめて、普通は鋼鉄の棒の方を投げるんじゃないの!? バカなの!!」

 オレの突然の行為に動揺を隠せないイケメン男。フフフ、甘いぞ。オレは欲望に正直な男だ。アラクネちゃん、すぐにそっちに行くからね!

 怪盗ルパンがする平泳のようなダイブ。オレはこれを心の中でルパンダイブと呼んでいるんだ。そう、オレだからこそできる超飛行技能のルパンダイブが可能なのだ。実際はただのジャンプだけどね。

「くそ、この飛んでくるバカを叩き切ってから、アラクネの首を落とすしかないか。本当に馬鹿が相手で助かったわ」

 そう言って、焦っているのか口汚くオレを罵った後にイケメン男は剣を構える。オレを斬り殺す準備に入ったか。しかし、オレが何にも考えてないと思うなよ! 対策はバッチリだ。

「お前がオレに勝てると思っているとしたらそれは大きな誤りだ!!」

 決まった。アラクネもオレのセリフで惚れ直したな。間違いない。だって、赤面して俯いているからね。

 奴はオレを人間だと思っていないのだろうか。容赦ない一撃がオレを襲う。脳天直撃コースかよ。オレは体を捻りながら空中で奴の剣撃を杖ではじく。

「ば、バカな!? 俺の剣を空中でだと?」

 驚くのも無理はない。こんなことができるのは、ルパンダイブの練習を毎日のようにベッドに向かってコツコツと行える努力家しかできないかな。そんなオレは空中にいながらでも服が脱げるくらいの器用さを持っている。つまり、オレにとっては空中で剣をはじく程度のことなら朝飯前なのさ。

「だから、言っただろ? オレとおまえでは実力差がありすぎるってね」

 オレはきっと相手からはこう見えていただろう。実に意地の悪そうな笑みで急所を突いてきたいやらしい奴だと。そして、言葉を発すると同時にオレは相手のイケメンの鼻面に杖を叩き込む。

「グファ!?」

 醜い声を上げて大地に倒れこむイケメン男。うーん、死んでないよな? オレは杖で汚いものでも触るように突いてやるが、奴は一向に起きる気配がない。

 いや、毒をくらった後にやられたフリをして毒消しをこっそりと使っているくらいに逞しい奴だから安心はできないよな。紳士なオレはカバンからロープを取り出して、きっちりとした格好をしているイケメン男のために亀甲縛りをしてやった。これだけ、拘束していれば良いだろう。

 うん、鼻フックで豚ズラにしてやりたいくらいムカつく奴だったけど、今はそんなことをしている場合じゃないな。

「アラクネ、無事だったかい?」

 オレは放心しているアラクネのもとに駆け寄って彼女を抱きしめる。

「…なぜ、私を助けたの?」

 恐る恐るという言葉は彼女のためにあるのではないかと思うほど身を震わせながらアラクネはこちらを見てきた。

「かわいいから!! 君とキスしたいから! あと将来的にはもっと…」

 アラクネの顔が引きつっていくぞ? やばい、本音が出てしまった。

「ゴホン、ええ、もちろん、綺麗な女性を助けるのは漢として当然の役目だよ」

 決まったな。さっきの本音が漏れなければ…

「クス、面白い人ね。私をそんな風に見てくれていたの? でも、私はたくさんの人に嘘をつかれて傷ついているから。そうやすやすと人間を信じられないの…」

 素直な人が良いだと? よし、もっと素直さをアピールだ。オレは自らの欲望をすべてさらけ出すぜ!!

「だから! キスしよう!! まずはご褒美ちょうだい!! あと妻になって!!」

 オレは彼女の顔を強引に自分の方に持って行き、アラクネを見つめながら本音を次から次へと言ってやった。

「あと、可愛い子供がほしいから早速つくろう!!」

 鼻息が荒いのを自分でも自覚できる。うん、テンションが上がってきた!!

「ちょ、ちょっと、やめて、わ、わかった。わかったから!! 番いになるのはまだ早いけど友達からならいいわよ」

 オレの欲望という名の情熱をまじかで見たアラクネはキスを迫る度にイヤイヤと顔を振って避ける。愛い奴よ。だが、一歩前進したから、今日はこの辺で諦めるとしようかな。

「友達か。オレの人生で初友だぜ。よろしくな、アラクネ!!」

 オレはそう言って、彼女の手を取って微笑む。急に態度を改めたように振る舞うオレを見てキョトンとした表情をするアラクネ。そんな彼女は大変に愛くるしいが、ボッチ歴が長いオレにもついに友人ができたようだ。やったね。

 こうして、オレはボッチではなくなった。異世界に来て20数年経ってようやく友人ができたのだった。
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