上 下
1 / 46

第1話 彼女(モンスター)をゲットするのも一苦労!?

しおりを挟む
鬱蒼と生い茂る森の中、この場所に似つかわしくない紅色の髪の長い女性達が泉の周りを囲むように座り込んでいる。そう遠目で見ているとそんな風に思ってもしかたがないだろうな。

 実際に視界にその光景を目の当たりにしているオレですら、奴らの下半身を視界に入れなければ人間の女性と見分けがつかないくらいだからな。

「それにしてもボンキュボンの美女が多いな。もう、これは美女の群れと言っても過言じゃないな。感涙モノだね。グヘヘヘ、おっと、いけない。いけない」

 オレは知らず知らずに伸びるだらしない鼻の下を手で押さえながら、さらに舐めるような視線で観察を続ける。あの胸と腰。ああ、ルパンダイブをしたい。もう、辛抱たまらんわ。

「いや、するぞ!! って、待てよ。オレ、落ち着けよ。あの下半身を見ろよ。あれは人ではないぞ。ちょっと待てよ。それはそれでイケるんじゃないか!? そうだよな。うん。そうだそうだ」

 よし、奴らに気がつかれないように近づこう。そして、フフフ!!

「おっ、こっちを見ていないな。しめしめ。あのすらっとした美しい首筋とうなじがオレのものに。うん、いいね。実にいい。オレのハートはドクドクだ。おっと、ヨダレ、よだれ!」

 オレは口元から勝手に漏れるヨダレを手でぬぐってあたりを見渡す。幸いなことにまだ誰もオレの存在に気がついていないようだ。

「フフフ、こうやって見ると爽快だ。泉の水を一心不乱に飲む美女の群れ。堪らないね!!」

 おっと、嬉しさの余りに声が勝手に漏れていたようだ。それよりも、自己紹介がまだったか。オレはあの美女たちを森の陰からこっそりと覗く伝説のハンター・サイゾウだ。これでも、ここらで名を馳せているんだ。

 ───モンスター狂いのサイゾウとね。

 なんで、オレがそんな風に呼ばれるようになったかって? それは長い話になる。実はオレはこことは違う世界の地球という場所で生活をしていたんだ。

 地球でのオレは見た目がパッとしない。どこにでもいるような奴だった。いや、今も変わんなくパッとしない男だけどな。そんなオレはもちろん彼女なんてできなかった。

 さらに最悪なことにオレは自分の性格と容姿を棚に上げて、彼女ができないのはオレが悪いんじゃなくて、女がクソなんだ。そう言っていたものだ。

 もちろん、そんなオレだから妻はおろか彼女なんてできやしない。そして、当然の成り行きで魔法使にジョブチェンジした。

 …ああ、その後の人生を思い出すだけで吐き気がするよ。親は最後に孫が見たかったと言って天寿を全うし、家庭を持った友人たちとは疎遠になったオレと仲良くしようとする奴なんて誰もいなかった。そして、孤独死。

「焦るな。集団でいる女は強敵だ。今、襲えばこちらが喰われる。奴らの独占欲という習性を利用して、孤立させなければな」

 前世なんて糞食らえだ。今日、オレは嫁をゲットして幸せな生活をしてやるのだ!! 特定の場所にいる奴にだけ、オレを見えるようにしないとな。さぁ、イキのいいエサがここにいますよ。

「…!?」

 あの顔はこちらに気がついたようだね。イヤラシく唇の周りを長い舌でぺろりと舐めてこっちを見つめてきたしな。オレは森の奥に逃げるように駆け出す。女は逃げる相手を追いかけたい習性があるのだ。追われる恋より、追う恋がしたいってね。

「もう、逃げれないわよ?」

 艶かしい艶がある横目でそんなことを言われるとテンションが無駄に上がってしまうな。イカン、イカン。ここで気を引き締めないと。

「そうだね。逃げれないね」

 オレはおどけるようにそう言う。逃げられないのはいったいどっちなんだろうね。フフフ、顔がニヤけるのを抑えきれないよ。

「あら? 観念したのかしら? このラミアを前にしてそんな余裕があるなんてね」

 オレのニヤけ顏を見てそう言う彼女の上半身は神々もかくやと言わんばかりに美しい。だが、クネクネと蠢く怪しげな尻尾を持つ下半身は魔物であることを如実に示している。

「君のような美女から逃げるなんてありえないよ」

 もちろん、逃げる気は最初からない。オレはこの場所にあえて逃げてきているのだから。

「ああ、恐怖で頭がイカレチャッタノネ。でも、いいわ。あなたはまるまるしておいしそうだもの!!」

「これでも前世に比べて痩せてるんだけどね」

 オレは自らの少し出ているお腹を触りながらボソッとそう呟いた。

「…もう、我慢できないわ!!」

 キシャーと言って、自らの長い尾っぽを使って飛びかかってきた。オレを見ておいしそうって、そのセリフを夜の営みで言ってもらっていると思うと興奮するぜ!? 

 って、そんなことで興奮している場合じゃないな。オレは深呼吸をした後に急いで木に引っ掛けてあった縄を切る。

 すると上から降ってきた木を編み込んだ箱が彼女を閉じ込める。

「キシャ~!! なんだこれは? 出せ!?」

 箱に入っている彼女は暴れること、暴れること。こんなに気性の荒い嫁はごめんしたいかも。でも、あの美貌はもったいないな。ひとまず、告白ネゴシエーションタイムしてみるか。

「うーん、オレの嫁になれば出してあげるよ?」

「バカなことを言うな!! まずは食べないことを条件に出すのが普通だろう!!」

「そうだよな。妻になる前にオレという男のことを知って、結婚を判断したいよな。オレの名前はサイゾウっていうんだ」

 まさか、結婚の条件を彼女から聞いてくるなんてね。もしかして、彼女もオレに興味津々なのかな? これは嬉しいね。

「…話が通じない。まるで狂人ね。って、貴様があの有名なサイゾウなのか!?」

「そうだよ」

 なんだ。オレのことを知っていたのか。驚きだ。やっぱり、伝説のイケメンハンターとしてここら辺でも有名なのかな?

「な、なんてことだ。女性型モンスターを襲っては子作りと称して悪逆の限りを尽くす真正の畜生に捕まるなんって」

「酷い言われようだな」

「助けて!! 誰か!! 助けて!!」

 ああ、こんなところで助けを叫んでも誰もこないよ。仲間にオレがいることを報告せずに独り占めしようとした君が愚かなんだけど。いや、愚かでも可愛いから許せちゃうけどさ。  

「可愛い子をゲットだぜ!!」

 オレは可愛いモンスターを捕まえたことに気分を良くしてそう言って両手を上げた。独身生活さようなら万歳とね。

「ギュギャ~!!」 

「や、やべぇ、森の向こう側からラミアの声が凄く聞こえてきた。仲間を呼ぶのに成功しやがったか」

 鳴くのをやめろとオレがいくら怒鳴っても、一心不乱なのかラミアは全くやめようとしない。どうしようと思っていたら、がさごそと森の木々を掻き分けて、ラミアの群れが現れた。

「ニンゲン! エサ発見!! 皆んなで食べる!!」

 やばい。いくら、美女に囲まれるハーレムルートでもデスエンドが決定しているこんな状況はごめんだ。

「こりゃ退散だ! 逃げるが勝ちだ!! うぉー、いつかオレは可愛いモンスターを捕まえてやる!!」

 今回は失敗したが次こそはと胸中で思いながら、オレは森を全力で駆けていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...