小さな星屑

第一章

小さな星屑 第二話

「ちょっと、隼人せんぱ～い‼︎何で逃げるんですか～‼︎」


　少し派手目の雰囲気の女の子が大きく手を振りながら、どんどんこちらに向かって走ってくる。


「羅夢ちゃん、おはよう。朝から元気だね」

「あっ、比奈先輩、蒼太先輩。おはようございます」


　村田羅夢（むらた らむ）は蒼太たちの近くにくると立ち止まり、深々と一礼した。羅夢は派手な見た目から周りの人に勘違いされることが多いが、実際はとても礼儀正しい性格である。


「では私、急いでいるんで失礼します。待ってくださいよ、隼人せんぱ～い‼︎」


蒼太たちへの挨拶を済ませると、羅夢は大急ぎで隼人の後を追いかけた。

　羅夢は中学生の頃から隼人の大ファンだった。隼人が助っ人で出る部活の試合は全て応援に行き、隼人が通っている学校に行きたくて同じ高校を受験する程だった。


「村田のやつ、相変わらず隼人一筋だな。しかし、何であいつばっかりモテるかねぇ」

「あ～、またひがんでる」

「別にひがんでませんど～」


いつものようにふざけ合いながら、蒼太たちは学校へと向かった。


　別にこんな毎日が嫌いなわけじゃない。ただ何かが足りないとどこかで感じている蒼太だった。





　ふざけ合いながら歩いているうちに、蒼太たちは校門の前に到着していた。

　蒼太たちが通う宝星高校は、基本的に学生の自主性に任せている学校で、髪型や髪の色は自由。授業中以外なら携帯電話も音楽プレイヤーも使用して問題ない。体育大会や文化祭などの行事も学生主体で行っている。部活動も盛んで野球にサッカー、バスケに水泳に吹奏楽、囲碁将棋にクイズ研究会まである。


　校門をくぐり蒼太たちは校舎の２階にある自分たちのクラスである２年Ｂ組へと向かった。蒼太と比奈が教室に入ると、羅夢が辺りをキョロキョロと見渡していた。


「あれ？羅夢ちゃん、隼人くんは？」

「それが見失っちゃったんですよ。せっかく髪型変えたのせんぱいに見せたかったのに」

「へぇ～ってか、どこが変わったんだ？」


蒼太が目を細めて羅夢の髪を見たが、全くもってどこが変わったか分からない。


「ひっど～い蒼太先輩‼︎変わったじゃないですか‼︎毛先を５センチも切ったんですよ‼︎前髪だって結構切ったし」


羅夢に言われてもう一度見ると確かに髪が短くなっているような気もする。


「お、おう…そうだな」

「男子はそういうとこ気付かないと、モテないよぉ～」

「う、うるせぇなぁ‼︎分かってるよ」


茶化す比奈に、少し動揺しながら蒼太は言った。


「あ～あ。時間ないし、また昼休みに来ます」


そう言うと羅夢は蒼太たちの教室を後にした。しばらくして、ゆっくりと掃除用具箱の扉が開いた。


「…行ったか？」

「行ったよ。ってか、お前そんなところに隠れてたのかよ‼︎」

「しょうがないだろ。他に隠れられそうな場所がなかったんだから」


隼人は掃除用具箱からひょっこり顔を出して辺りの安全を確認すると、外に出てきて扉を閉めた。


「でも羅夢ちゃん、昼休みにまた来るってさ」

「マジか…」


魂が抜けたように呟くと、隼人は自分の席に着くなり力なく机にうな垂れた。


キーンコーンカーンコーン


始業のチャイムが鳴り、他の生徒たちも席に着く。そうこうしているうちに教室の扉が開いて、担任の三河謙二（みかわ　けんじ）が入ってきた。