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VS山男
第十六話 最狂×最強
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おれは緊張に息をのみ、それを見つめた。
カエンタケ——ボタンタケ目ボタンタケ科トリコデルマ属のキノコで、燃える炎のような見た目からそう呼ばれている。
毒性が非常に強く、致死量はわずか三グラムとごく少量。
一説には触れるだけで毒に犯され、皮フがただれるという。
「危なかった……」
ヒヤリと汗が垂れた。
もしあのまま手を突っ込んでいたらと思うとゾッとした。
が——同時に作戦が生まれた。
(こいつを食わせればおれの勝ちだ!)
おれはアカトに勝たなければならない。
そのためにはヤツよりうまい鍋を作るか、KOするかだ。
前者はあまり現実的ではない。
となれば後者だ!
おれはなんとかしてこいつを持っていこうと考えた。
だがカエンタケには触れない。
てめえが毒にやられちまう。
じゃあ木の枝に突き刺していくかとも考えたが、見られたら毒殺がばれる。
服で包めば持てるかもしれねえが、汁がしみ出るかもしれないし、服に毒が残る恐れもある。
(クソッ! どうすれば……!)
おれは苦々しくクソを見つめた。
こいつを鍋に入れても勝利となるが、クソも毒キノコもそのままじゃ持っていけない。
なにか隠して持っていく技術がいる。
いったいどうすれば……
(姉さん……知恵を貸してくれ!)
おれは姉さんに祈った。
姉さんはいつもおれに料理を教えてくれたし、質問すれば答えてくれた。
頼む……教えてくれ! 勝利の方程式を!
そう願っていると、
——これを使えば簡単にダシがとれるのよ。
「ハッ!」
ふと、姉さんとの記憶がよみがえった。
その日姉さんは味噌汁を作っていて、パック製品のダシを鍋に沈めていた。
(……そうか! 包んでしまえば!)
おれは脱ぎかけ状態のズボンとパンツを脱ぎ、ケツを拭くのも忘れてズボンを履き直した。
そしてパンツを広げ、
「これならクソに触れる!」
出したてほやほやのクソをパンツ越しにつかむ!
よし、思った通りだ!
下痢ならともかく、どっしりしているからにじみ出てこない!
健康なクソに感謝だ!
これでクソパックの完成だ。
あとは素知らぬ顔で鍋に入れちまえばいい。
だが、まだ足りない!
「南無三!」
おれはパンツでつかんだクソで、もうひとつの危険物を包み込んだ。
それは——カエンタケ!
この猛毒キノコは素手じゃつかめねえ。
手がただれちまう。
だがクソ越しなら問題ないはずだ。
そして手は無事だった。
感じるのはクソのあたたかみだけで、わずかの痛みもなかった。
どうやら賭けに勝った。
おれは究極の調味料を手に入れた。
致死量をはるかに超えた大腸菌を含む“最狂のクソ”!
触れただけで命をおびやかす“最強のキノコ”!
“最狂”と“最強”!
このふたつが重なり織り成すものは、死神の息吹まといし地獄の刃!
人呼んで——約束された勝利の便! “エクスカリババー”!
「待たせたな!」
おれは意気揚々と戦場に戻った。
「遅かったじゃないか」
アカトは味噌を火であぶり、焦がしていた。
なるほど、焦がし味噌か。香ばしくってうめえだろうな。
「ちょっと、あんた臭くない?」
アンは早速エクスカリババーのにおいを感じ取ったようだ。
だがごまかしの手段は整っている。
「おう、ケツ拭くの忘れちまってな!」
おれはケツを強調してうしろを見せた。
おれのズボンには茶色のシミができていた。
「やだ、汚い! あんたサイテー!」
へっ、ケツにクソがついてるくらいなんでぇ! こちとら鍋にクソ入れようってんだ!
そんくれえでガタガタ抜かすんじゃねえ!
「まずはこいつだ!」
おれは鍋にターメリック、クミン、コリアンダー、チリパウダーをぶち込んだ。
「なに!? カレーだと!?」
ああ、カレーさ! でもただのカレーじゃねえぜ!
「こいつが本命だ!」
おれはエクスカリババーを鍋に沈めた。
味噌ともカレーとも違う、土のような色が広がった。
「な、なんだそれは!」
アカトが食い入るように言った。
おれのパンツには猫のイラストが描かれていた。
「秘密の味噌さ!」
「秘密の味噌!?」
そう、秘密だ。知られるわけにはいかねえ。
知ったらきっと実食を拒否するだろう。
しかし……まさかクソの中に毒が仕込んであるとは思うまい!
さあ、煮込め! 味よ溶けよ!
味噌鍋にサタンの風味を加えてやれ!
そうして煮立てること十数分!
「七時だ!」
アカトが時計を見て、鍋から離れた。
おれもクソパックを取り出し、調理を終えた。
「それじゃまずおれから食わせてもらうぜ!」
おれは器にヤツの鍋をよそい、まずはスープをすすった。
「う、うまい!」
なんて香ばしいんだ! 味噌の焦げた風味が最高だぜ!
「具材も食ってみろ!」
「どれどれ……うまい!」
おれがまず口にしたのは薄切りの肉だった。
肉質は豚に近い。
ほんのわずか野生的な臭みがあるものの、味噌と相まってむしろ味わい深い。
まさに肉を食っているって感じだ。
それに山菜もよく煮えている。
しかもただ切ったわけじゃなく、根菜は花のような飾り切りで、舌だけでなく目にもたのしい。
「どうだ! おれの焦がし味噌鍋は!」
絶品だ。
これぞ山の贅沢って感じだ。
野蛮で、大雑把で、しかし繊細に手の込んだ、まぎれもないごちそうだ。
もしふつうに戦っていたら、まず勝ち目はなかっただろう。
——だが! おれの料理はふつうじゃねえ!
「こんどはおれだな!」
アカトがおれの鍋を器によそい、まじまじと見つめた。
「これは……カレー味噌鍋ということでいいのか?」
アカトは目をまたたかせ、やや涙目になっていた。
カレーのスパイスか、あるいはクソの瘴気が目にしみるのだろう。
「では、まずスープから……」
「おっと、待った」
「なんだ?」
「アンはスープを豪快に一気飲みする男が好きだったなぁ」
「なに!?」
「え~? あたし別にそんなことないけど?」
「いや、言ってたよ。毎晩寝言で“スープを一気飲みする男ってステキ~”って」
「ふーん? そうなのかしら。じゃあきっとそうなのね」
「てなわけだ! ぐいっといっちまいな!」
「おう! ゴクゴクゴクーーーーッ!」
いった! 一気飲みしやがった!
バカめ! 嘘に決まってんだろ!
そんな寝言があってたまるか! だまされやがって!
いまおまえの胃には大量の大腸菌とマイコトキシン系毒物が流れ込んだ!
どちらも臓器不全を起こす劇薬だ!
それをガブ飲みなんかしやがって! 生きて帰れると思うな!
「うっ……!」
どうだ……!?
「ウギャアアアアアアアアーーーーッ!」ゲボボボボボボボボボ!
よしっ!
「大変! アカトが血ゲロ吐いてぶっ倒れたわ!」
アンがアカトに飛びつき肩を揺すった。
だが反応がない。
「呼吸はしてるか!?」
「ううん、してない!」
「心臓は!?」
「止まってるわ!」
「キンタマ揉んでもダメか!?」
「反応ないわ!」
てことは……!
「おれの勝ちだ! KO勝ちだー!」
「えっ、勝ち!? じゃあ一千万が!?」
「おれたちのものだ!」
「やったああああああーーーーッ!!!」
こうしておれはアカトとの戦いに勝利した。
おれはプライドを高め、アンは大金を得て大よろこびした。
……ありがとよ、アカト。おまえには男としての生き方を教えてもらったぜ。
安らかに眠れ……
と思っていたんだが——
「あーーーーッ!」
うわっ、なんだよ突然!
「どーしましょー! アカト死んじゃった!」
だからなんだよ!
「案内なしでどうやって山を降りればいいのよ!」
………………あっ!
し、しまった! 勝つことばかり考えて下山のことを忘れていた!
これじゃまた遭難だ!
お、起きてくれ! 生き返ってくれー! アカトー!
カエンタケ——ボタンタケ目ボタンタケ科トリコデルマ属のキノコで、燃える炎のような見た目からそう呼ばれている。
毒性が非常に強く、致死量はわずか三グラムとごく少量。
一説には触れるだけで毒に犯され、皮フがただれるという。
「危なかった……」
ヒヤリと汗が垂れた。
もしあのまま手を突っ込んでいたらと思うとゾッとした。
が——同時に作戦が生まれた。
(こいつを食わせればおれの勝ちだ!)
おれはアカトに勝たなければならない。
そのためにはヤツよりうまい鍋を作るか、KOするかだ。
前者はあまり現実的ではない。
となれば後者だ!
おれはなんとかしてこいつを持っていこうと考えた。
だがカエンタケには触れない。
てめえが毒にやられちまう。
じゃあ木の枝に突き刺していくかとも考えたが、見られたら毒殺がばれる。
服で包めば持てるかもしれねえが、汁がしみ出るかもしれないし、服に毒が残る恐れもある。
(クソッ! どうすれば……!)
おれは苦々しくクソを見つめた。
こいつを鍋に入れても勝利となるが、クソも毒キノコもそのままじゃ持っていけない。
なにか隠して持っていく技術がいる。
いったいどうすれば……
(姉さん……知恵を貸してくれ!)
おれは姉さんに祈った。
姉さんはいつもおれに料理を教えてくれたし、質問すれば答えてくれた。
頼む……教えてくれ! 勝利の方程式を!
そう願っていると、
——これを使えば簡単にダシがとれるのよ。
「ハッ!」
ふと、姉さんとの記憶がよみがえった。
その日姉さんは味噌汁を作っていて、パック製品のダシを鍋に沈めていた。
(……そうか! 包んでしまえば!)
おれは脱ぎかけ状態のズボンとパンツを脱ぎ、ケツを拭くのも忘れてズボンを履き直した。
そしてパンツを広げ、
「これならクソに触れる!」
出したてほやほやのクソをパンツ越しにつかむ!
よし、思った通りだ!
下痢ならともかく、どっしりしているからにじみ出てこない!
健康なクソに感謝だ!
これでクソパックの完成だ。
あとは素知らぬ顔で鍋に入れちまえばいい。
だが、まだ足りない!
「南無三!」
おれはパンツでつかんだクソで、もうひとつの危険物を包み込んだ。
それは——カエンタケ!
この猛毒キノコは素手じゃつかめねえ。
手がただれちまう。
だがクソ越しなら問題ないはずだ。
そして手は無事だった。
感じるのはクソのあたたかみだけで、わずかの痛みもなかった。
どうやら賭けに勝った。
おれは究極の調味料を手に入れた。
致死量をはるかに超えた大腸菌を含む“最狂のクソ”!
触れただけで命をおびやかす“最強のキノコ”!
“最狂”と“最強”!
このふたつが重なり織り成すものは、死神の息吹まといし地獄の刃!
人呼んで——約束された勝利の便! “エクスカリババー”!
「待たせたな!」
おれは意気揚々と戦場に戻った。
「遅かったじゃないか」
アカトは味噌を火であぶり、焦がしていた。
なるほど、焦がし味噌か。香ばしくってうめえだろうな。
「ちょっと、あんた臭くない?」
アンは早速エクスカリババーのにおいを感じ取ったようだ。
だがごまかしの手段は整っている。
「おう、ケツ拭くの忘れちまってな!」
おれはケツを強調してうしろを見せた。
おれのズボンには茶色のシミができていた。
「やだ、汚い! あんたサイテー!」
へっ、ケツにクソがついてるくらいなんでぇ! こちとら鍋にクソ入れようってんだ!
そんくれえでガタガタ抜かすんじゃねえ!
「まずはこいつだ!」
おれは鍋にターメリック、クミン、コリアンダー、チリパウダーをぶち込んだ。
「なに!? カレーだと!?」
ああ、カレーさ! でもただのカレーじゃねえぜ!
「こいつが本命だ!」
おれはエクスカリババーを鍋に沈めた。
味噌ともカレーとも違う、土のような色が広がった。
「な、なんだそれは!」
アカトが食い入るように言った。
おれのパンツには猫のイラストが描かれていた。
「秘密の味噌さ!」
「秘密の味噌!?」
そう、秘密だ。知られるわけにはいかねえ。
知ったらきっと実食を拒否するだろう。
しかし……まさかクソの中に毒が仕込んであるとは思うまい!
さあ、煮込め! 味よ溶けよ!
味噌鍋にサタンの風味を加えてやれ!
そうして煮立てること十数分!
「七時だ!」
アカトが時計を見て、鍋から離れた。
おれもクソパックを取り出し、調理を終えた。
「それじゃまずおれから食わせてもらうぜ!」
おれは器にヤツの鍋をよそい、まずはスープをすすった。
「う、うまい!」
なんて香ばしいんだ! 味噌の焦げた風味が最高だぜ!
「具材も食ってみろ!」
「どれどれ……うまい!」
おれがまず口にしたのは薄切りの肉だった。
肉質は豚に近い。
ほんのわずか野生的な臭みがあるものの、味噌と相まってむしろ味わい深い。
まさに肉を食っているって感じだ。
それに山菜もよく煮えている。
しかもただ切ったわけじゃなく、根菜は花のような飾り切りで、舌だけでなく目にもたのしい。
「どうだ! おれの焦がし味噌鍋は!」
絶品だ。
これぞ山の贅沢って感じだ。
野蛮で、大雑把で、しかし繊細に手の込んだ、まぎれもないごちそうだ。
もしふつうに戦っていたら、まず勝ち目はなかっただろう。
——だが! おれの料理はふつうじゃねえ!
「こんどはおれだな!」
アカトがおれの鍋を器によそい、まじまじと見つめた。
「これは……カレー味噌鍋ということでいいのか?」
アカトは目をまたたかせ、やや涙目になっていた。
カレーのスパイスか、あるいはクソの瘴気が目にしみるのだろう。
「では、まずスープから……」
「おっと、待った」
「なんだ?」
「アンはスープを豪快に一気飲みする男が好きだったなぁ」
「なに!?」
「え~? あたし別にそんなことないけど?」
「いや、言ってたよ。毎晩寝言で“スープを一気飲みする男ってステキ~”って」
「ふーん? そうなのかしら。じゃあきっとそうなのね」
「てなわけだ! ぐいっといっちまいな!」
「おう! ゴクゴクゴクーーーーッ!」
いった! 一気飲みしやがった!
バカめ! 嘘に決まってんだろ!
そんな寝言があってたまるか! だまされやがって!
いまおまえの胃には大量の大腸菌とマイコトキシン系毒物が流れ込んだ!
どちらも臓器不全を起こす劇薬だ!
それをガブ飲みなんかしやがって! 生きて帰れると思うな!
「うっ……!」
どうだ……!?
「ウギャアアアアアアアアーーーーッ!」ゲボボボボボボボボボ!
よしっ!
「大変! アカトが血ゲロ吐いてぶっ倒れたわ!」
アンがアカトに飛びつき肩を揺すった。
だが反応がない。
「呼吸はしてるか!?」
「ううん、してない!」
「心臓は!?」
「止まってるわ!」
「キンタマ揉んでもダメか!?」
「反応ないわ!」
てことは……!
「おれの勝ちだ! KO勝ちだー!」
「えっ、勝ち!? じゃあ一千万が!?」
「おれたちのものだ!」
「やったああああああーーーーッ!!!」
こうしておれはアカトとの戦いに勝利した。
おれはプライドを高め、アンは大金を得て大よろこびした。
……ありがとよ、アカト。おまえには男としての生き方を教えてもらったぜ。
安らかに眠れ……
と思っていたんだが——
「あーーーーッ!」
うわっ、なんだよ突然!
「どーしましょー! アカト死んじゃった!」
だからなんだよ!
「案内なしでどうやって山を降りればいいのよ!」
………………あっ!
し、しまった! 勝つことばかり考えて下山のことを忘れていた!
これじゃまた遭難だ!
お、起きてくれ! 生き返ってくれー! アカトー!
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