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VS修行者
第七話 男のプライド
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「コトナリ! バカなまねはやめて!」
闘技場に向かうおれをアンが必死に止めた。
「戦わなければ負けないのよ! 負けたらお金なくなっちゃうのよ! どうしてよ!」
すまねえ……だが、男は逃げるわけにはいかねえんだ。
「なによ! キンタマ見せてあげれば済む話じゃない! 減るもんじゃないでしょ!」
ああ、本当ならおれもそうしてやりたい。
だがそうもいかねえんだ。なにせおれは、カタキンなんだからよ……
「さあ、着いたぞ!」
シロッコは強い眼差しで言った。
陽が東から中天へと向かう青空の下、おれたちは闘技場の前に並び立った。
途端、風が吹き荒れた。
上空を雲が早送り映像のようにぐんぐん走り、いつしか完全に陽光を塞いだ。
一面が薄闇に包まれ、嵐の気配が匂い立った。
——波乱の予感がする。とてつもない激戦がはじまろうとしている。
闘技場にショーンズ・キッチンの食材が次々と運び込まれていった。
周囲の通行人が料理勝負の気配を察し、ちらほらと足を止めた。
かまどに火が入った。その炎の燃え立ちを半身に受け、おれたちは睨み合った。
「お題は?」
シロッコが言った。
曇りない瞳だった。
おれはひと呼吸まぶたを閉じ、
「……ハンバーグだ」
開眼とともに言った。
目を閉じたのは、やましさからだった。
おれはもし次に料理勝負をすることがあればハンバーグと決めていた。
なぜならおれには日本が生んだ究極の調味料があるからだ。
あれを使えばまず負けない。
素人のおれでもプロを逸することができるだろう。
卑怯とは言うまい。
そもそも戦うこと自体が間違いだ。
だが、今回だけは譲れない。
キンタマがあるかどうか——これだけは男として逃げるわけにはいかない。
キンタマだけは……キンタマだけは曲げられねえ!
「フッ……」
シロッコが小さく笑った。
「…………案外、おれの勘違いなのかもしれないな」
「なに?」
「おれはおまえが卑怯な手を使って親父を倒したのかと思っていたが、考えすぎだったかもしれない」
「なぜ、そう思う」
「その目だ」
「目……」
「いま、おまえの目から真の男の魂を感じた。店の休憩室ではふざけた男だと思っていたが、ここに来てお題を決めた瞬間から、絶対に譲れない強い気持ちを感じた」
……キンタマは譲れねえからな。
「だが、それはおれとておなじこと。親父の残した店を易々と他人に渡せるほど、おれは人間ができちゃいない」
いや、おなじじゃねえぜ。
おれはキンタマ、おめえは店だ。
「この風は、おれたちの魂が呼び起こした嵐かもしれないな」
そう言ってシロッコは闘技場へと上がった。
ボロボロの汚い服が風に揺れ、やぶれほつれから素肌が覗いた。
そのとき——!
おれは見た!
シロッコのうしろ姿、その下半身にぶら下がるキンタマを!
それは、実に堂々としていた。
おそらく本人は気づいていないだろう。
わずかなほつれ。
一瞬のチラリズム。
だが、おれの網膜に焼きついたそれは、トランクスから大胆にはみ出し、雄々しく揺れていた。
……なんて立派なキンタマだ。
おれののどがゴクリと鳴った。
そして、わかった。
——これは店を賭けた戦いなんかじゃない。男の誇り、キンタマを賭けた戦いだと!
「行くぜ!」
おれは肩で風を切って舞台へと上がった。
手が震えた。
それは恐れ、不安のたぐいではなく、真の勝負を前にした武者震いだった。
「いでよ、ジャッジ!」
シロッコが空に向かって叫ぶと、白い稲妻とともに、荘厳な衣に身を包んだハゲ親父——ジャッジが現れた。
「む! 汝はクロッコ・ショーンの息子、シロッコ・ショーン!」
「はい! お久しぶりです!」
「そして対峙するのはショーンズ・キッチンの現オーナー、コメガ・コトナリではないか」
「おうよ!」
「ふむふむ……ふ~む、なるほど」
ジャッジはおもしろそうにあごをさすり、
「読めたぞ! 汝らは店の権利を賭けて戦うつもりだな!」
「その通りです!」
シロッコは言った。
「おれが勝ったら店をもらいます! 負けたらこの金をあげます!」
「ほう……しかしよくコトナリ少年は合意したな。あの店に対してこれではちと安すぎる」
「いや、んなこたねーぜ!」
おれは風を払うように腕を振り、
「おれたちは魂を賭けている! 男のプライドを賭けている! 金なんてちっぽけなもん勘定の外だ!」
「なんと! 少年よ、わずかのうちに立派になったな!」
いいや、そんなことねえ。
こいつのキンタマに比べたら、おれなんて……!
「いいだろう! この勝負、見届けさせてもらう!」
こうして舞台は整った。
お題はハンバーグ。
時間は一時間。
観客もだいぶ集まり、アンはボクシングでいうセコンドの位置でおれを応援した。
「このバカー! 負けたらあんたなんか知らないからー! シロッコさーん、こいつ負けてもあたしあそこに住んでるからねー! ちゃんとドアに書いてあるからー!」
へっ、くだらねえこと心配してやがる。これだからキンタマのねえヤツはよ。
『おい、あの青年、クロッコ・ショーンの息子だぞ!』
『店を取り戻すために全財産を賭けたんだってさ!』
『こりゃ見ものだねえ!』
観客は内容に注目していた。
店を奪ったよそ者と、それに立ち向かう元オーナーの息子。
どちらが勝つか盛り上がり、中には賭けをはじめるヤツまでいた。
だが関係ねえ。おれはおれの料理をするだけだ。
「おう、はじめようぜ」
「ああ、親父にも負けない最高のハンバーグを見せてやる!」
その言葉が合図となった。
「勝負はじめーーーーッ!」
ジャッジが巨大砂時計をひっくり返すと同時に、おれたちは駆け出した。
まずは材料だ。
おれは牛百パーセントのハンバーグを作るべく、牛の挽き肉、タマネギ、パン粉、牛乳を用意した。
そしてタマネギをみじん切りにし、フライパンにサラダ油をひいて炒める!
いい色になったらボウルに入れ、挽き肉、パン粉、牛乳、塩コショウなどの調味料とともに混ぜる!
これは特別なハンバーグじゃねえ。
姉さんがごく安物の食材で作っていたご家庭ハンバーグとおなじ手順だ。
秘策を使うのはまだあとのこと。
だからシロッコはこう言った。
「注目すべきはソースと見た!」
あいつはまだ調理をはじめていなかった。
材料だけキッチン台に並べ、おれの手際を観察していた。
「おい、作んなくていいのかよ」
「必要な時間は把握している。完成はギリギリの方がいい。それよりおまえの腕を見ておきたかった」
「どうだい?」
「素人レベルとしか言いようがない。内容も凡庸。だが親父を倒すほどだ。なにか特別なわざがあるに違いない」
ほう、いい目をしてるじゃねえか。
その通り、おれは姉さんの手伝いをしていただけのド素人。
そして狙いはソースでご明答だ。
「しばらくはこねてるだけだぜ。見てもおもしろくねえよ」
「そうか……なら、おれも行かせてもらおう!」
シロッコはまな板にドスンと赤身肉を置き、おでんのはんぺんくらいの大きさで切り落とした。
そして!
「まずは登山牛の挽き肉を作る!」
なんと包丁両手持ちでドスドス切りまくった!
このキッチンには肉挽き器があるってのにだ!
しかしすげえスピードだぜ!
「コトナリー! あんた勝てるかもー!」
おや、アンが騒いでるぞ。
「だってあのバカ、この大勝負に登山牛なんか使ってるわよー!」
「なんだその登山牛って」
「山岳に棲んでるジビエよー! うま味は濃いけど臭みもあるし、使いこなしたところで特別おいしいってわけじゃないわー!」
ほーん、そいつぁ結構だ。
だけどふつうそんなもん使うか? なにかわけがあるんじゃ……
「次はこれだ! 赤顔鳥のミンチ!」
なに!? 鳥だと!? 牛肉と鳥肉の合い挽き!?
「うおおおおおッ!」
シロッコはまたもすさまじい勢いで肉をミンチにした。
おれには味の想像ができない。
牛と鳥の合い挽きなんて食ったことねえ。
しかし観客には多少食通が紛れているようだ。
『鳥との合い挽きは火の通りが違うから難しいが、なかなか乙なもんだぞ』
『あっさりめになって、おれは好きだぜ』
なるほど、そういう食い方もあるのか。
しかし常識をぶち破るような珍品じゃなさそうだ。
こりゃ珍しさじゃおれの勝ちになるな。
と、思いきや……
「そして最後に悪魔魚をミンチにする!」
な、なんだって!?
『魚だと!?』
『牛、鳥、魚のハンバーグ!?』
これには食通もびっくりだ。
アンも目ン玉飛び出して、
「そんなの信じられない! あたし聞いたことない!」
そりゃそうだ。日本でも、地球全体でも聞いたことがねえ。風味がごちゃ混ぜだ。
「アン! 悪魔魚って獣肉に合うのか!?」
「そんなことないと思うわ! そもそもあんまり流通してないもの!」
……てことは大してうまくねえってことだ。うまけりゃ人間は獲るからな。
しかし魚肉なんて混ざるのか?
「フッ……気づかないか!?」
なんだシロッコのやろう。なにを気づけってんだ。
「これらの肉はどこで獲れる!」
「ああっ!」
アンがなにかに気づき、アッと叫んだ。
「これ……ぜんぶデビルマウンテンの食材!」
なんだ? デビルマウンテン?
「そうだ! 登山牛、赤顔鳥、悪魔魚! この三種はどれもデビルマウンテンの固有種だ!」
なになに? どゆこと?
「たしかにどれも肉質は違う! だがこれらは、おなじ土、おなじ空気、おなじ水で育った仲間! そしてどれも草食だ! ひとつところの植物を口にし、だからこそ根っこが近しい!」
むむ! なんかすごそうだ!
「おれはおれの出せる最高のわざで勝負する! 店のために! 親父の魂のために! そしておれの誇りを賭けて、この世界のだれも知らない究極の味を見せてやる!」
闘技場に向かうおれをアンが必死に止めた。
「戦わなければ負けないのよ! 負けたらお金なくなっちゃうのよ! どうしてよ!」
すまねえ……だが、男は逃げるわけにはいかねえんだ。
「なによ! キンタマ見せてあげれば済む話じゃない! 減るもんじゃないでしょ!」
ああ、本当ならおれもそうしてやりたい。
だがそうもいかねえんだ。なにせおれは、カタキンなんだからよ……
「さあ、着いたぞ!」
シロッコは強い眼差しで言った。
陽が東から中天へと向かう青空の下、おれたちは闘技場の前に並び立った。
途端、風が吹き荒れた。
上空を雲が早送り映像のようにぐんぐん走り、いつしか完全に陽光を塞いだ。
一面が薄闇に包まれ、嵐の気配が匂い立った。
——波乱の予感がする。とてつもない激戦がはじまろうとしている。
闘技場にショーンズ・キッチンの食材が次々と運び込まれていった。
周囲の通行人が料理勝負の気配を察し、ちらほらと足を止めた。
かまどに火が入った。その炎の燃え立ちを半身に受け、おれたちは睨み合った。
「お題は?」
シロッコが言った。
曇りない瞳だった。
おれはひと呼吸まぶたを閉じ、
「……ハンバーグだ」
開眼とともに言った。
目を閉じたのは、やましさからだった。
おれはもし次に料理勝負をすることがあればハンバーグと決めていた。
なぜならおれには日本が生んだ究極の調味料があるからだ。
あれを使えばまず負けない。
素人のおれでもプロを逸することができるだろう。
卑怯とは言うまい。
そもそも戦うこと自体が間違いだ。
だが、今回だけは譲れない。
キンタマがあるかどうか——これだけは男として逃げるわけにはいかない。
キンタマだけは……キンタマだけは曲げられねえ!
「フッ……」
シロッコが小さく笑った。
「…………案外、おれの勘違いなのかもしれないな」
「なに?」
「おれはおまえが卑怯な手を使って親父を倒したのかと思っていたが、考えすぎだったかもしれない」
「なぜ、そう思う」
「その目だ」
「目……」
「いま、おまえの目から真の男の魂を感じた。店の休憩室ではふざけた男だと思っていたが、ここに来てお題を決めた瞬間から、絶対に譲れない強い気持ちを感じた」
……キンタマは譲れねえからな。
「だが、それはおれとておなじこと。親父の残した店を易々と他人に渡せるほど、おれは人間ができちゃいない」
いや、おなじじゃねえぜ。
おれはキンタマ、おめえは店だ。
「この風は、おれたちの魂が呼び起こした嵐かもしれないな」
そう言ってシロッコは闘技場へと上がった。
ボロボロの汚い服が風に揺れ、やぶれほつれから素肌が覗いた。
そのとき——!
おれは見た!
シロッコのうしろ姿、その下半身にぶら下がるキンタマを!
それは、実に堂々としていた。
おそらく本人は気づいていないだろう。
わずかなほつれ。
一瞬のチラリズム。
だが、おれの網膜に焼きついたそれは、トランクスから大胆にはみ出し、雄々しく揺れていた。
……なんて立派なキンタマだ。
おれののどがゴクリと鳴った。
そして、わかった。
——これは店を賭けた戦いなんかじゃない。男の誇り、キンタマを賭けた戦いだと!
「行くぜ!」
おれは肩で風を切って舞台へと上がった。
手が震えた。
それは恐れ、不安のたぐいではなく、真の勝負を前にした武者震いだった。
「いでよ、ジャッジ!」
シロッコが空に向かって叫ぶと、白い稲妻とともに、荘厳な衣に身を包んだハゲ親父——ジャッジが現れた。
「む! 汝はクロッコ・ショーンの息子、シロッコ・ショーン!」
「はい! お久しぶりです!」
「そして対峙するのはショーンズ・キッチンの現オーナー、コメガ・コトナリではないか」
「おうよ!」
「ふむふむ……ふ~む、なるほど」
ジャッジはおもしろそうにあごをさすり、
「読めたぞ! 汝らは店の権利を賭けて戦うつもりだな!」
「その通りです!」
シロッコは言った。
「おれが勝ったら店をもらいます! 負けたらこの金をあげます!」
「ほう……しかしよくコトナリ少年は合意したな。あの店に対してこれではちと安すぎる」
「いや、んなこたねーぜ!」
おれは風を払うように腕を振り、
「おれたちは魂を賭けている! 男のプライドを賭けている! 金なんてちっぽけなもん勘定の外だ!」
「なんと! 少年よ、わずかのうちに立派になったな!」
いいや、そんなことねえ。
こいつのキンタマに比べたら、おれなんて……!
「いいだろう! この勝負、見届けさせてもらう!」
こうして舞台は整った。
お題はハンバーグ。
時間は一時間。
観客もだいぶ集まり、アンはボクシングでいうセコンドの位置でおれを応援した。
「このバカー! 負けたらあんたなんか知らないからー! シロッコさーん、こいつ負けてもあたしあそこに住んでるからねー! ちゃんとドアに書いてあるからー!」
へっ、くだらねえこと心配してやがる。これだからキンタマのねえヤツはよ。
『おい、あの青年、クロッコ・ショーンの息子だぞ!』
『店を取り戻すために全財産を賭けたんだってさ!』
『こりゃ見ものだねえ!』
観客は内容に注目していた。
店を奪ったよそ者と、それに立ち向かう元オーナーの息子。
どちらが勝つか盛り上がり、中には賭けをはじめるヤツまでいた。
だが関係ねえ。おれはおれの料理をするだけだ。
「おう、はじめようぜ」
「ああ、親父にも負けない最高のハンバーグを見せてやる!」
その言葉が合図となった。
「勝負はじめーーーーッ!」
ジャッジが巨大砂時計をひっくり返すと同時に、おれたちは駆け出した。
まずは材料だ。
おれは牛百パーセントのハンバーグを作るべく、牛の挽き肉、タマネギ、パン粉、牛乳を用意した。
そしてタマネギをみじん切りにし、フライパンにサラダ油をひいて炒める!
いい色になったらボウルに入れ、挽き肉、パン粉、牛乳、塩コショウなどの調味料とともに混ぜる!
これは特別なハンバーグじゃねえ。
姉さんがごく安物の食材で作っていたご家庭ハンバーグとおなじ手順だ。
秘策を使うのはまだあとのこと。
だからシロッコはこう言った。
「注目すべきはソースと見た!」
あいつはまだ調理をはじめていなかった。
材料だけキッチン台に並べ、おれの手際を観察していた。
「おい、作んなくていいのかよ」
「必要な時間は把握している。完成はギリギリの方がいい。それよりおまえの腕を見ておきたかった」
「どうだい?」
「素人レベルとしか言いようがない。内容も凡庸。だが親父を倒すほどだ。なにか特別なわざがあるに違いない」
ほう、いい目をしてるじゃねえか。
その通り、おれは姉さんの手伝いをしていただけのド素人。
そして狙いはソースでご明答だ。
「しばらくはこねてるだけだぜ。見てもおもしろくねえよ」
「そうか……なら、おれも行かせてもらおう!」
シロッコはまな板にドスンと赤身肉を置き、おでんのはんぺんくらいの大きさで切り落とした。
そして!
「まずは登山牛の挽き肉を作る!」
なんと包丁両手持ちでドスドス切りまくった!
このキッチンには肉挽き器があるってのにだ!
しかしすげえスピードだぜ!
「コトナリー! あんた勝てるかもー!」
おや、アンが騒いでるぞ。
「だってあのバカ、この大勝負に登山牛なんか使ってるわよー!」
「なんだその登山牛って」
「山岳に棲んでるジビエよー! うま味は濃いけど臭みもあるし、使いこなしたところで特別おいしいってわけじゃないわー!」
ほーん、そいつぁ結構だ。
だけどふつうそんなもん使うか? なにかわけがあるんじゃ……
「次はこれだ! 赤顔鳥のミンチ!」
なに!? 鳥だと!? 牛肉と鳥肉の合い挽き!?
「うおおおおおッ!」
シロッコはまたもすさまじい勢いで肉をミンチにした。
おれには味の想像ができない。
牛と鳥の合い挽きなんて食ったことねえ。
しかし観客には多少食通が紛れているようだ。
『鳥との合い挽きは火の通りが違うから難しいが、なかなか乙なもんだぞ』
『あっさりめになって、おれは好きだぜ』
なるほど、そういう食い方もあるのか。
しかし常識をぶち破るような珍品じゃなさそうだ。
こりゃ珍しさじゃおれの勝ちになるな。
と、思いきや……
「そして最後に悪魔魚をミンチにする!」
な、なんだって!?
『魚だと!?』
『牛、鳥、魚のハンバーグ!?』
これには食通もびっくりだ。
アンも目ン玉飛び出して、
「そんなの信じられない! あたし聞いたことない!」
そりゃそうだ。日本でも、地球全体でも聞いたことがねえ。風味がごちゃ混ぜだ。
「アン! 悪魔魚って獣肉に合うのか!?」
「そんなことないと思うわ! そもそもあんまり流通してないもの!」
……てことは大してうまくねえってことだ。うまけりゃ人間は獲るからな。
しかし魚肉なんて混ざるのか?
「フッ……気づかないか!?」
なんだシロッコのやろう。なにを気づけってんだ。
「これらの肉はどこで獲れる!」
「ああっ!」
アンがなにかに気づき、アッと叫んだ。
「これ……ぜんぶデビルマウンテンの食材!」
なんだ? デビルマウンテン?
「そうだ! 登山牛、赤顔鳥、悪魔魚! この三種はどれもデビルマウンテンの固有種だ!」
なになに? どゆこと?
「たしかにどれも肉質は違う! だがこれらは、おなじ土、おなじ空気、おなじ水で育った仲間! そしてどれも草食だ! ひとつところの植物を口にし、だからこそ根っこが近しい!」
むむ! なんかすごそうだ!
「おれはおれの出せる最高のわざで勝負する! 店のために! 親父の魂のために! そしておれの誇りを賭けて、この世界のだれも知らない究極の味を見せてやる!」
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