Joker

海子

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11.恋一夜

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 リックは、ビヴァリー湖の、打ち寄せる水音が入る窓を、閉めた。
そして、ベッドに座らせたレティシアの首筋に、唇を当てながら、レティシアの服のボタンを外していった。 
コルセットの紐を手早くほどき、下着を剥ぐ。 
レティシアは、リックにされるがまま、これから起きる出来事に、不安と緊張で、指先が冷たくなっていくのを感じていた。 
リックの前に、素肌をさらけ出したレティシアは、醜い烙印が、リックの眼に入らないように、左肩を下にしてベッドに横になり、膝をぴたりと合わせ、身体を丸めて、リックに背を向けた。
薄暗い灯の下に、白いきめ細やかな肌が、照らし出されていた。
レティシアは、ぎゅっと眼を閉じたまま、手を固く握った。 
乱暴にされたり、しないだろうか。
私は、泣きだしたり、しないだろうか。
あの痛みに、耐えられるだろうか。
そういった思いが、渦巻いた。
けれども、レティシアが一番怖かったのは、リックを軽蔑してしまうのではないか、ということだった。
リックは、ジャケットとシャツを脱いで、背を向けたままの、レティシアの右肩に触れた。 
びくっ、とレティシアの肩が、おびえたように震えた。 
リックはその右肩に、そっと、唇を当てながら、 これは、少女の身体だ、と思った。
リックは、レティシアの固く握られた手を、大きな手のひらで包んで、 男たちの性欲の犠牲になった、まだ、女として愛されたことのない身体だと感じた。
欲情と愛情を取り違えたままのレティシアを、女として満たしてやりたいと思った。
リックに背を向けたまま、固く眼を閉じるレティシアの、頬からうなじ、首から背中、腰へと、ゆっくりと何度も唇を当てて、そっと触れていった。
レティシアの固く握られた指から、少しずつ力が抜けて、その指の間に、リックは自分の指を差し入れた。 
レティシアの右肩を引いて、仰向けにすると、レティシアは、驚いたように眼を開いて、胸の前で、乳房を隠すように、腕を合わせた。 
「レティシア」 
動揺の色が浮かぶヘーゼルの瞳を、リックはまっすぐ見つめる。
「お前が、好きだ」 
レティシアは、小さく息を呑んだ。 
「愛している」 
リックは、そう告げると、レティシアの左肩を引き寄せた。
レティシアは、左肩の烙印を隠そうと、身を引いたが、リックはそのまま、百合の烙印の上に、唇を押しあてる。
レティシアの閉じた瞳から、涙が滲みだした。
リックは、唇を重ね、レティシアの口の中へ、深く忍び込んでくる。
そして、レティシアの乳房に触れ、愛撫を始めた。 
唇から首へと、唇を這わせ、敏感になったレティシアの乳房の先を、含んだ。 
レティシアの唇から、たまらずに吐息が漏れた。 
そういった感覚は、初めてだった。
肌に触れるリックの指から、唇から、痺れるような甘やかな刺激が押し寄せて、 レティシアを掻きたてる。 
レティシアの指が彷徨えば、すぐにリックの指に捕えられて、結ばれた。 
レティシアは、その時、気付いた。 
これは、これまでレティシアが受けて来た行為とは、全く別なものであることに。
慈しまれているのだと、初めて、わかった。 
膝の緩んだレティシアの脚を開き、その間に全てを脱ぎ捨てたリックが入って来た時、レティシアは、既に高みに向かって、昇り始めていた。 
秘所に、リックが触れていくと、レティシアは喘いで、身体を逸らせた。
十分に濡れてはいたが、レティシアは痛みを覚えるかもしれない。
触れてみて、リックはそう思った。
口で直接触れて濡らせば、もう少しレティシアが楽になるかもしれないと思ったが、そうはしなかった。
慣れていないレティシアには、却って辛いかもしれないと思ったからだった。
リックは、レティシアの中にゆっくりと入った。 
けれども、やはり、レティシアは痛みで、小さな叫び声を上げて、顔を背けた。 
リックの腕を掴む指にも、きつい力が籠もる。 
突き上げてくる衝動とは違う、別の本能が、レティシアを傷つけてはいけないと、リックに告げた。
自分も余裕がなくなりつつあったが、リックは、一度レティシアから離れようとした。
けれども、
「いや・・・、止めては、いや」 
レティシアは、泣くような声で、囁いた。
これまでは、痛みと共に、いつも心が粉々に砕け散った。
けれども、リックに与えられるこの痛みは、受け入れたかった。
痛みと共に、リックを受け入れれば、たとえ、今までの苦く辛い記憶を拭い去ることが出来なくとも、癒されていくような気がした。
リックはレティシアを、宥めつつ、愛撫を繰り返しつつ、奥まで入った。
鋭い痛みが、走る。
けれども、ゆっくり動き始めたリックと共に、痛みの向こうから、次第に甘美な疼きが押し寄せて、序々に、レティシアを高みへ導いて行く。 
声を上げずには、いられなかった。
喘ぎを漏らさずには、いられなかった。
さらに奥へと突きたてられて、レティシアの中にリックが射った時、レティシアは声を上げて、達していた。 
レティシアの中でリックが、脈打っていた。 
その時を迎えて、しばらく、レティシアは眼を開けることができなかった。 
初めての感覚に支配され、頭も心も、すぐには動き出さなかった。 
そっと目を開けると、まだ覆いかぶさったままのリックの背中が、大きく呼吸していた。 
レティシアと瞳が合うと、荒い呼吸のまま、レティシアの身体を強く抱きしめた。
レティシアは、そっとその背中に腕を回した。
 無愛想な、優しい人。 
・・・愛しい人。
レティシアの瞳から、涙が溢れた。 
  
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