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5.聖夜
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レティシアは、新たに気づいた。
日々、明るく、朗らかに務めなければ、真に、神に仕えることなど、出来ないのではないか、と。
暗い顔のまま、くすんだ心持ちのまま、一生懸命、神の道を歩もうとしても、それが、神の御心に叶うはずなどない。
明るく、朗らかな気持ちで務めてこそ、修道女として相応しいのではないか、と。
デイヴとふたり、ブリストンの街を散策したあの日、レティシアに、笑顔が戻った。
その日、レティシアは、心が、ほどけていくのを感じていた。
初めての友達ローズ・ギャレット、バッカスの料理人アダム、そして、その素晴らしい料理の数々・・・。
新たな出会いを通じて、レティシアは、心が、豊かに満ちていくのを感じ取っていた。
と、同時に、自然と笑顔が溢れた。
そして、これまで自分が、いかに頑なだったのかということを、まざまざと感じたのだった。
これまでの自分を改めて、これからは、明るく朗らかに務めを果たそう。
レティシアは、胸に、そう誓った。
レティシアから、花のような笑顔が溢れ始めると、周囲がその美しさと、使用人とは思えない、優美な所作に、気づき始めた。
これまでは、確かに美しいのは美しいが、どこか陰気で、笑顔のないレティシアに、関心を抱く者は、ほとんどなかった。
けれども、朗らかな笑顔が、ことあるごとに溢れるようになると、その香り立つような美貌が、人々に・・・、とりわけ、独身の男たちの目につくようになった。
そういうわけで、ここ一カ月と言うもの、 名前は何と言うのか、 年は幾つなのか、 どこからやって来た娘なのかと、ケイティはレティシアの素性を、あちこちから、根掘り葉堀り尋ねられる羽目になった。
だから、ケイティは、一言、
「リックに聞いてちょうだい。リック・スペンサーが、レティシアの身元引受人なの」
と、告げた。
それを聞いて、大抵の男は、がっかり肩を落として、帰って行った。
身元引受人、という言葉を、言葉通り受け取るものは、なかった。
それを聞いた者は、レティシアが、リック・スペンサーの女だと理解した。
そういうわけで、レティシアの耳に、周囲の雑音が届くことはなく、至って、平和に、朗らかに、フランク・マクファーレンの家で、四人の子供の世話と家事に、励んでいた。
レティシアが、ブリストンで過ごすようになって、二カ月以上が過ぎた。
突如、思いがけず、ブリストンにやってくることになったのだったが、二カ月を経てみると、それなりに、ここの生活に順応していた。
いつの頃からか、ブリストンでの生活が、試練だとは思わなくなっていた。
春になって、聖ラファエラ女子修道院へ帰るという気持ちは、変わらなかったけれど、やんちゃな子供たち、明るくたくましいケイティ、いつも穏やかで温かいフランクとの生活は、忙しくはあるものの、楽しいものだった。
朝、中庭で洗濯をしている時、レティシアの姿を見かけると、必ず傍にやって来て、尽きることのない、お喋りをするモリーとデボラ姉妹の話に耳を傾けるのも、嫌いではなかったし、お休みの日、ギャレット食料品店を訪れると、手先の器用なローズが、刺繍や編み物を教えてくれるのも、楽しかった。
そして、アダムは、土曜日の夜、レティシアに、フォルティスの言葉を教えに来るリックへ、度々手作りのお菓子を持たせてくれた。
スコーンや、スポンジケーキなどの焼き菓子が多かったが、アダムの手作りのお菓子は、これまでレティシアが口にしたことのある、どのお菓子よりも味わい深かった。
「アダムめ、俺には、一度もこんなもの出したことないぞ」
と、アダムから預かったお菓子の包みを、嬉しそうにレティシアが開けるのを眺めて、リックは、不満げに呟いていた。
レティシアは、自分の周りで、色んなことが、変わり始めているのを、感じていた。
自分が心を開きさえすれば、こんなにも、鮮やかな色彩に満ちた日々が訪れるのかと、気づかされた。
そして、このことが、将来の修道生活にいかせられるよう、心をこめて、日々を過ごそうと誓うのだった。
日々、明るく、朗らかに務めなければ、真に、神に仕えることなど、出来ないのではないか、と。
暗い顔のまま、くすんだ心持ちのまま、一生懸命、神の道を歩もうとしても、それが、神の御心に叶うはずなどない。
明るく、朗らかな気持ちで務めてこそ、修道女として相応しいのではないか、と。
デイヴとふたり、ブリストンの街を散策したあの日、レティシアに、笑顔が戻った。
その日、レティシアは、心が、ほどけていくのを感じていた。
初めての友達ローズ・ギャレット、バッカスの料理人アダム、そして、その素晴らしい料理の数々・・・。
新たな出会いを通じて、レティシアは、心が、豊かに満ちていくのを感じ取っていた。
と、同時に、自然と笑顔が溢れた。
そして、これまで自分が、いかに頑なだったのかということを、まざまざと感じたのだった。
これまでの自分を改めて、これからは、明るく朗らかに務めを果たそう。
レティシアは、胸に、そう誓った。
レティシアから、花のような笑顔が溢れ始めると、周囲がその美しさと、使用人とは思えない、優美な所作に、気づき始めた。
これまでは、確かに美しいのは美しいが、どこか陰気で、笑顔のないレティシアに、関心を抱く者は、ほとんどなかった。
けれども、朗らかな笑顔が、ことあるごとに溢れるようになると、その香り立つような美貌が、人々に・・・、とりわけ、独身の男たちの目につくようになった。
そういうわけで、ここ一カ月と言うもの、 名前は何と言うのか、 年は幾つなのか、 どこからやって来た娘なのかと、ケイティはレティシアの素性を、あちこちから、根掘り葉堀り尋ねられる羽目になった。
だから、ケイティは、一言、
「リックに聞いてちょうだい。リック・スペンサーが、レティシアの身元引受人なの」
と、告げた。
それを聞いて、大抵の男は、がっかり肩を落として、帰って行った。
身元引受人、という言葉を、言葉通り受け取るものは、なかった。
それを聞いた者は、レティシアが、リック・スペンサーの女だと理解した。
そういうわけで、レティシアの耳に、周囲の雑音が届くことはなく、至って、平和に、朗らかに、フランク・マクファーレンの家で、四人の子供の世話と家事に、励んでいた。
レティシアが、ブリストンで過ごすようになって、二カ月以上が過ぎた。
突如、思いがけず、ブリストンにやってくることになったのだったが、二カ月を経てみると、それなりに、ここの生活に順応していた。
いつの頃からか、ブリストンでの生活が、試練だとは思わなくなっていた。
春になって、聖ラファエラ女子修道院へ帰るという気持ちは、変わらなかったけれど、やんちゃな子供たち、明るくたくましいケイティ、いつも穏やかで温かいフランクとの生活は、忙しくはあるものの、楽しいものだった。
朝、中庭で洗濯をしている時、レティシアの姿を見かけると、必ず傍にやって来て、尽きることのない、お喋りをするモリーとデボラ姉妹の話に耳を傾けるのも、嫌いではなかったし、お休みの日、ギャレット食料品店を訪れると、手先の器用なローズが、刺繍や編み物を教えてくれるのも、楽しかった。
そして、アダムは、土曜日の夜、レティシアに、フォルティスの言葉を教えに来るリックへ、度々手作りのお菓子を持たせてくれた。
スコーンや、スポンジケーキなどの焼き菓子が多かったが、アダムの手作りのお菓子は、これまでレティシアが口にしたことのある、どのお菓子よりも味わい深かった。
「アダムめ、俺には、一度もこんなもの出したことないぞ」
と、アダムから預かったお菓子の包みを、嬉しそうにレティシアが開けるのを眺めて、リックは、不満げに呟いていた。
レティシアは、自分の周りで、色んなことが、変わり始めているのを、感じていた。
自分が心を開きさえすれば、こんなにも、鮮やかな色彩に満ちた日々が訪れるのかと、気づかされた。
そして、このことが、将来の修道生活にいかせられるよう、心をこめて、日々を過ごそうと誓うのだった。
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