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5.happy and happy!
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その日の夜、コーディリアはテラスのベンチに座り、満天の星を見上げ、物思いに耽り、コーディリアの膝の上のゲージでは、アイリスが瞼を閉じかけていた。
「見つけた」
聞きなれた声に、コーディリアが振り返ると、穏やかな微笑みを浮かべるオーランドがいた。
コーディリアを、探していた様子だった。
オーランドは、コーディリアの隣に座ると、ゲージの中を覗き込み、
「眠いのか、お前」
アイリスに声を掛けた。
アイリスは、オーランドの声に、一瞬、目を開きかけたが、そのまま眠りに落ちた。
オーランドは子供に声を掛けるように、おやすみ、と、アイリスに囁き、そして、
「気分は?」
と、コーディリアを気遣う。
「悪くないわ。いいえ・・・、いい気分よ。だって、お母様に会えて、仲直りできたんですもの。楽しい夕食だったわ」
少し前、フィンドレー三兄弟、コーディリア、キャロラインで、和やかな夕食の時間を過ごしたばかりだった。
けれども、そうはいうものの、コーディリアの表情は、いまひとつ冴えなかった。
「そういえば、今朝、大切な話があるって・・・」
オーランドの顔を見て、今夜、大切な話があるから、時間を作ってほしいと言われたことを思いだした、コーディリアだった。
「ああ、あの話は・・・、また今度にしよう」
脳裏に、今朝、書斎で手にしたリングケースの中央に、眩く輝くダイヤモンドが過ぎったが、オーランドはそれを振り払った。
何を話すべきか、言葉を探して、しばらく黙ったままのふたりだった。
「これからのことを、考えてみたんだが・・・」
先に口を開いたのは、オーランドだった。
「これからのことを、考えてみたんだが、君は、母上と一緒に、一度ウォルトンへ帰る方がいいと思う」
コーディリアは、視線を下に落とした。
「勘違いしないでくれ。俺の気持ちは変わらない。だけど、父上のことを、そのままにはしておけないだろう?」
オーランドの言うことは、最もだった。
自分が出て行ったことが原因で、父が心を病んでいるというのに、自分がチェストルで、のんびりと暮らしていていいはずがなかった。
でも、そうしたら、オーランドとは?
オーランドとの関係は・・・、どうなってしまうの?
コーディリアが、思い悩んでいたのは、それだった。
「君は一度、ウォルトンへ帰って、父上と話した方がいい。今なら、お互い、冷静になって、落ち着いて話が出来るんじゃないか?その方が、父上も安心すると思う」
「だけど、そうしたら、あなたとは・・・、離れ離れになってしまうわ」
「少しの間だけだよ。ただ、父上と君が和解して、君がまた、チェストルへ来たいと望むまで、母上には、俺と君のことは話さない方がいい。サディアスやキース、屋敷の者にも、口留めしておいた」
「どうして、そんなこと?わたくしたちのことを、何故隠す必要があるの?」
「君のためだ」
なかったことに、出来るように。
そう言いかけて、オーランドは口を噤んだ。
「あなたは、わたくしがウォルトンへ帰れば、心変わりをすると思っているのね」
オーランドは自分のことを信頼していないのだと、コーディリアは、寂しかった。
「・・・今は、父上のことを一番に考えよう。父上のために、君はウォルトンへ帰るんだ。それで、また君がここへ来たいと思うのなら、手紙を寄越してくれ。そうしたら、俺は、一目散に、君を迎えに行く」
「どうして、そんな寂しいことを言うの?あなたの気持ちが変わらないように、わたくしの気持も変わらないわ」
「コーディリア・・・」
オーランドは、コーディリアを抱き寄せる。
この愛しい娘が、再び俺の懐へ、戻って来るように。
ハニーブロンドの髪に唇を当て、オーランドは心からそう願わずにはいられなかった。
コーディリアとキャロラインが、ウォルトンへ向けて出発するまでの三日間は、準備に追われて、慌ただしく過ぎ去っていった。
コーディリアがウォルトンへ帰って来ることになり、安堵したキャロラインは、明るい表情で、フィンドレー家を始め、フォーシーズンズ・ハウスの使用人たちに接した。
娘が世話になった礼を述べ、出立に向けての準備を進めたり、時には、コーディリアと一緒にフィンドレー家の果樹園を訪れたりと、出立までの時間を、有意義に過ごしていた。
コーディリアも、これ以上母に余計な心配をさせてはいけないと、キャロラインの前では、何事もなかったかのように明るく振る舞った。
けれども、部屋にひとりになると、言いようのない寂しさが込み上げた。
ウォルトンへ帰らなければいけない、だけど・・・、帰りたくない。
フォーシーズンズ・ハウスで暮らした、一カ月余りの笑顔溢れる時間を思い返せば、別れは辛すぎた。
近頃、コーディリアはパーシーに習って、ハンドバッグを編み始めていた。
それは、コーディリアにとって、初めての大作で、随分意気込んで編み始めたのだったが、チェストルを離れることが決まった今、ラタンを編み続ける気分にはなれなかった。
自分の本当の気持ちを押し殺したまま、時間は過ぎ、コーディリアは、出立の朝を迎えた。
ウォルトンへの出発は、早朝だった。
それでも、フォーシーズンズ・ハウスの人々は、名残惜しく、コーディリアを見送りに出て来た。
「またぜひ・・・、ここへ、フォーシーズンズ・ハウスへお越しくださいませね」
そう言って、両手でコーディリアの手を取り、別れを惜しむアニーの瞳には、光るものがあった。
「元気で」
「気をつけて」
サディアス、キースはそう言って、コーディリアと別れの握手を交わした。
胸がいっぱいのコーディリアは、伏し目がちに、ただ頷くことしかできなかった。
「父上や兄上によろしく。身体に気を付けて。気が向いたら・・・、手紙を書いてくれ」
オーランドは、穏やかにそう告げ、コーディリアの手を握ったが、コーディリアは、その手に触れた瞬間、感情を抑えられなくなった。
「オーランド、わたくし・・・」
濡れた瞳で、オーランドを見上げる。
「母上の前だよ」
オーランドが、そっと囁いた。
キャロラインは、フォーシーズンズ・ハウスの人々と別れの挨拶を交わすコーディリアを、馬車の前で待っていた。
コーディリアは、涙を呑み込んだ。
「元気で」
オーランドは、リーフグリーンの温かな眼差しでそう告げ、コーディリアを馬車へ促す。
キャロラインと馬車に乗り込んだコーディリアは、走り出した馬車の窓から、その姿を胸に留めようと、オーランドに視線を向けた。
オーランドは、じっと、走り行く馬車を見守っていた。
寂し気な笑顔のままで。
コーディリアが庭師と共に手を掛けた薔薇が、滲んで見えた。
馬車は門扉を出て、林へと向かった。
このひと月あまり、果樹園へ行くときも、ホレスへ向かう時も、何度も何度も、繰り返し通った道を、馬車は走り抜けて行く。
このまま、お別れ?
こんな・・・、こんな他人行儀なままで?
お別れの抱擁も、キスもないの?
つい先ごろまで、毎日、抱きしめ合って、愛を囁き合っていたのに?
わたくしたちは、恋人ではなかったの、オーランド?
サディアスも、キースも、どこかぎこちなくて、遠慮がちで、打ち解けてくれなくなった。
フォーシーズンズ・ハウスの使用人たちも、突然、わたくしに、距離を置くようになった。
パーシーさんには、お別れも言いに行けなかった。
何をどう伝えればいいのか・・・、わからなかったから。
オーランド、わたくし、寂しいわ。
わたくし、もうフォーシーズンズ・ハウスが恋しくなっているの。
こんなにも、あなたが恋しくなっているの。
「見つけた」
聞きなれた声に、コーディリアが振り返ると、穏やかな微笑みを浮かべるオーランドがいた。
コーディリアを、探していた様子だった。
オーランドは、コーディリアの隣に座ると、ゲージの中を覗き込み、
「眠いのか、お前」
アイリスに声を掛けた。
アイリスは、オーランドの声に、一瞬、目を開きかけたが、そのまま眠りに落ちた。
オーランドは子供に声を掛けるように、おやすみ、と、アイリスに囁き、そして、
「気分は?」
と、コーディリアを気遣う。
「悪くないわ。いいえ・・・、いい気分よ。だって、お母様に会えて、仲直りできたんですもの。楽しい夕食だったわ」
少し前、フィンドレー三兄弟、コーディリア、キャロラインで、和やかな夕食の時間を過ごしたばかりだった。
けれども、そうはいうものの、コーディリアの表情は、いまひとつ冴えなかった。
「そういえば、今朝、大切な話があるって・・・」
オーランドの顔を見て、今夜、大切な話があるから、時間を作ってほしいと言われたことを思いだした、コーディリアだった。
「ああ、あの話は・・・、また今度にしよう」
脳裏に、今朝、書斎で手にしたリングケースの中央に、眩く輝くダイヤモンドが過ぎったが、オーランドはそれを振り払った。
何を話すべきか、言葉を探して、しばらく黙ったままのふたりだった。
「これからのことを、考えてみたんだが・・・」
先に口を開いたのは、オーランドだった。
「これからのことを、考えてみたんだが、君は、母上と一緒に、一度ウォルトンへ帰る方がいいと思う」
コーディリアは、視線を下に落とした。
「勘違いしないでくれ。俺の気持ちは変わらない。だけど、父上のことを、そのままにはしておけないだろう?」
オーランドの言うことは、最もだった。
自分が出て行ったことが原因で、父が心を病んでいるというのに、自分がチェストルで、のんびりと暮らしていていいはずがなかった。
でも、そうしたら、オーランドとは?
オーランドとの関係は・・・、どうなってしまうの?
コーディリアが、思い悩んでいたのは、それだった。
「君は一度、ウォルトンへ帰って、父上と話した方がいい。今なら、お互い、冷静になって、落ち着いて話が出来るんじゃないか?その方が、父上も安心すると思う」
「だけど、そうしたら、あなたとは・・・、離れ離れになってしまうわ」
「少しの間だけだよ。ただ、父上と君が和解して、君がまた、チェストルへ来たいと望むまで、母上には、俺と君のことは話さない方がいい。サディアスやキース、屋敷の者にも、口留めしておいた」
「どうして、そんなこと?わたくしたちのことを、何故隠す必要があるの?」
「君のためだ」
なかったことに、出来るように。
そう言いかけて、オーランドは口を噤んだ。
「あなたは、わたくしがウォルトンへ帰れば、心変わりをすると思っているのね」
オーランドは自分のことを信頼していないのだと、コーディリアは、寂しかった。
「・・・今は、父上のことを一番に考えよう。父上のために、君はウォルトンへ帰るんだ。それで、また君がここへ来たいと思うのなら、手紙を寄越してくれ。そうしたら、俺は、一目散に、君を迎えに行く」
「どうして、そんな寂しいことを言うの?あなたの気持ちが変わらないように、わたくしの気持も変わらないわ」
「コーディリア・・・」
オーランドは、コーディリアを抱き寄せる。
この愛しい娘が、再び俺の懐へ、戻って来るように。
ハニーブロンドの髪に唇を当て、オーランドは心からそう願わずにはいられなかった。
コーディリアとキャロラインが、ウォルトンへ向けて出発するまでの三日間は、準備に追われて、慌ただしく過ぎ去っていった。
コーディリアがウォルトンへ帰って来ることになり、安堵したキャロラインは、明るい表情で、フィンドレー家を始め、フォーシーズンズ・ハウスの使用人たちに接した。
娘が世話になった礼を述べ、出立に向けての準備を進めたり、時には、コーディリアと一緒にフィンドレー家の果樹園を訪れたりと、出立までの時間を、有意義に過ごしていた。
コーディリアも、これ以上母に余計な心配をさせてはいけないと、キャロラインの前では、何事もなかったかのように明るく振る舞った。
けれども、部屋にひとりになると、言いようのない寂しさが込み上げた。
ウォルトンへ帰らなければいけない、だけど・・・、帰りたくない。
フォーシーズンズ・ハウスで暮らした、一カ月余りの笑顔溢れる時間を思い返せば、別れは辛すぎた。
近頃、コーディリアはパーシーに習って、ハンドバッグを編み始めていた。
それは、コーディリアにとって、初めての大作で、随分意気込んで編み始めたのだったが、チェストルを離れることが決まった今、ラタンを編み続ける気分にはなれなかった。
自分の本当の気持ちを押し殺したまま、時間は過ぎ、コーディリアは、出立の朝を迎えた。
ウォルトンへの出発は、早朝だった。
それでも、フォーシーズンズ・ハウスの人々は、名残惜しく、コーディリアを見送りに出て来た。
「またぜひ・・・、ここへ、フォーシーズンズ・ハウスへお越しくださいませね」
そう言って、両手でコーディリアの手を取り、別れを惜しむアニーの瞳には、光るものがあった。
「元気で」
「気をつけて」
サディアス、キースはそう言って、コーディリアと別れの握手を交わした。
胸がいっぱいのコーディリアは、伏し目がちに、ただ頷くことしかできなかった。
「父上や兄上によろしく。身体に気を付けて。気が向いたら・・・、手紙を書いてくれ」
オーランドは、穏やかにそう告げ、コーディリアの手を握ったが、コーディリアは、その手に触れた瞬間、感情を抑えられなくなった。
「オーランド、わたくし・・・」
濡れた瞳で、オーランドを見上げる。
「母上の前だよ」
オーランドが、そっと囁いた。
キャロラインは、フォーシーズンズ・ハウスの人々と別れの挨拶を交わすコーディリアを、馬車の前で待っていた。
コーディリアは、涙を呑み込んだ。
「元気で」
オーランドは、リーフグリーンの温かな眼差しでそう告げ、コーディリアを馬車へ促す。
キャロラインと馬車に乗り込んだコーディリアは、走り出した馬車の窓から、その姿を胸に留めようと、オーランドに視線を向けた。
オーランドは、じっと、走り行く馬車を見守っていた。
寂し気な笑顔のままで。
コーディリアが庭師と共に手を掛けた薔薇が、滲んで見えた。
馬車は門扉を出て、林へと向かった。
このひと月あまり、果樹園へ行くときも、ホレスへ向かう時も、何度も何度も、繰り返し通った道を、馬車は走り抜けて行く。
このまま、お別れ?
こんな・・・、こんな他人行儀なままで?
お別れの抱擁も、キスもないの?
つい先ごろまで、毎日、抱きしめ合って、愛を囁き合っていたのに?
わたくしたちは、恋人ではなかったの、オーランド?
サディアスも、キースも、どこかぎこちなくて、遠慮がちで、打ち解けてくれなくなった。
フォーシーズンズ・ハウスの使用人たちも、突然、わたくしに、距離を置くようになった。
パーシーさんには、お別れも言いに行けなかった。
何をどう伝えればいいのか・・・、わからなかったから。
オーランド、わたくし、寂しいわ。
わたくし、もうフォーシーズンズ・ハウスが恋しくなっているの。
こんなにも、あなたが恋しくなっているの。
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