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4.I just can`t help but cuddle you
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九時半を過ぎ、夜の闇がゆっくりと辺りを包み、オーランドが、中に入ってもう少し飲もうかと提案したが、
「いや、俺たちはこれで退散する。今夜こそ、チェスの決着を着けないとな、キース」
と、サディアスは弟を促した。
もちろんそれは、オーランドとコーディリアに時間を譲るための口実だったのだけれども。
おやすみ、また明日、と挨拶を交わして、サディアスとキースは引き上げ、オーランドはコーディリアとリビングに入った。
「何か飲む?」
「いいえ、もう何も。これ以上、お腹に入る場所がないわ」
チェストルへ来てからというもの、コーディリアは食欲旺盛だった。
精神的な解放感を覚えたせいか、ウォルトンにいる頃には考えられないほど、よく食べた。
今夜も、絶妙な焼き加減のローストチキンを、堪能したコーディリアだった。
「フォーシーズンズ・ハウスへ来てから、何でも、美味しく感じるの。きっと、食材が新鮮なのと、調理長の腕が良すぎるのね。このままだと、太ってしまって、あなたに嫌われてしまうわ」
「俺が、君を嫌うって?それは、絶対にない」
ウイスキーの支度を運んで来た召使が下がると、オーランドは、コーディリアと並んで、ソファに座った。
「わたくしが、あなたより太ってしまっても?」
「その時は、俺ももっと太ることにする。そうしたら・・・、」
と、大男のオーランドは、コーディリアを軽々と膝の上に載せた。
恥じらうコーディリアに、
「こうすると、きっと冬は、暖炉がいらなくなる」
と、オーランドは、アクアマリンの瞳を覗き込んだ。
好きだと、オーランドが呟いて、唇を寄せて来る。
コーディリアが眼を閉じると、抱きしめられて、いつものように優しい口づけを交わした。
コーディリアの想いは、日を追うごとに深くなっていた。
オーランドの顔を見て、話して、一緒に食事をして、笑いあって・・・、そんな時間が、たまらなく愛しかった。
もっと・・・、もっと、わたくしたちの間に・・・、もっと、何か。
そんな想いがよぎったコーディリアの隙を、オーランドは見過ごさなかった。
小さな吐息と共に小さく開いたコーディリアの唇に、オーランドは入り込んだ。
経験のない深い口づけに戸惑い、コーディリアの身体に力が入る。
けれども、コーディリアの気持ちを探る様に、優しく行き来する口づけに、いつしか、互いに絡み合っていた。
それと同時に、火照り始めた身体の行き先がわからずに、コーディリアはオーランドにしがみつき、身体を捩った。
コーディリアは未熟故に、それが、男を、オーランドを煽る行為だと知らなかった。
愛している、と、怖いくらい真剣に呟いたかと思うと、オーランドの唇は、コーディリアのうなじを滑り落ちた。
そうして、喉元を這い、胸元へと進み、オーランドの手が、服の上からコーディリアの胸のふくらみに触れた。
途端に、コーディリアの身体に緊張が走る。
「やめて・・・」
コーディリアの泣くような声で、オーランドは、覚めたように、はっと顔を上げた。
「ごめんなさい、わたくし、あなたのことは、本当に好きだけれど・・・、まだ、こういったことは、心の準備が・・・」
「君が悪いんじゃない。悪いのは、俺だ」
オーランドは、慌ててコーディリアから身体を離した。
「ごめんなさい、オーランド。本当に・・・、ごめんなさい」
「君は、何も悪くない。俺が悪かった。君に謝らないといけないのは、俺の方だ。大切な君を、傷つけた。許してほしい。本当に・・・、ごめん」
オーランドはコーディリアの手を取って、許しを請うた。
コーディリアの瞳から、涙が、零れ落ちた。
一体何が、こんなにも哀しいのか、よくわからなかった。
オーランドの行いが哀しかったのか、オーランドに応えられない自分が、惨めだったのか・・・。
楽しい夜だったのに、ついさっきまで、本当に楽しい夜だったのに・・・、それを台無しにしたのは、自分自身のような気がして、コーディリアは、溢れて来る涙を拭い続けた。
その翌朝、朝食に向かう際、書斎の前を通りかかり、何となく人の気配を感じたサディアスは、オーランド、いるのかと、軽くノックしてからドアを開け、
「朝飯前に、急ぎの仕事か?そろそろ、降りようぜ」
そう声を掛けた。
オーランドは、机の前に立ち、何かを手にして、じっと考え込んでいた。
「何か、問題が?」
と、サディアスが近づく。
オーランド手にしていたのは、リングケースだった。
「それは・・・」
リングケースの中央には、立て爪の一粒ダイヤモンドが、眩く煌めいていた。
その指輪は、フィンドレー家の奥方に、代々受け継がれて来た由緒ある品だった。
それを、今、オーランドが手にしているということは、ある決断をしたということに、違いなかった。
「俺は、焦っていると思うか?」
その輝きから眼を離さずに、オーランドが尋ねる。
「いや・・・、本気で惚れたら、誰でもそんなものじゃないか」
しばらく黙ったままのオーランドだったが、そうか・・・、そうだな、と、呟き、リングケースを閉じた。
「コーディリア」
朝食に向かおうと、エントランスホールへ続く階段を降りて来たコーディリアを、階下で待ち構えていたオーランドは、その姿が眼に入ると、すぐに声を掛けた。
「おはよう、オーランド。少し遅れてしまったかしら?」
階段下でオーランドが待っていたので、朝食の時間に遅れたのかと、コーディリアは少々慌てた。
「いや、そうじゃないんだ」
「オーランド、昨夜は、感情的になって、取り乱して、本当にごめんなさい。朝食の前に、もう一度、どうしても謝っておきたかったの」
「君が、謝る必要はない。昨夜も言ったが、君は何も悪くない。それと、そのことで、今夜、君に話したいことがあるんだ」
「お話?」
「とても大切な話だ。時間を作ってほしい」
「もちろん、伺うわ」
「よかった」
オーランドは、ほっとしたような表情を見せた。
それじゃあ、朝食へ、と、差し出されたオーランドの腕を取り、ふたり並んで歩き始めた時、屋敷へ近づいて来る車輪の音が、耳に入った。
こんな朝早い時間に誰だろう、と言わんばかりに、オーランドとコーディリアは、顔を見合わせる。
来訪者に気づいた召使がやって来て、ドアを開けかけたが、時間が時間であるため、何か急用かもしれないと、オーランドが、いい、俺が出ると、制した。
ドアを開けると、オーランドは門扉の向こうに、止まったばかりの馬車を見つけた。
そちらへ向かうオーランドの二、三歩後ろから、コーディリアもついて行く。
車室の窓には深紅のカーテンが見え、窓枠やドアに金の縁取りがあり、そして、車体に家紋らしき模様があったことから、遠目でも、貴族の馬車であることが分かった。
オーランドの姿を見つけ、地面に降りたった御者に、
「何か?」
と、オーランドの方から声を掛ける。
「失礼ですが、こちらは、チェストルのご領主、フィンドレー家のお屋敷でしょうか」
「いかにも、その通りだ。私は、当主のオーランド・ウィリアム・フィンドレー。そちらは・・・」
と言いかけて、車体の家紋がはっきりと眼に入ったオーランドは、口を閉じた。
その時、おもむろに、馬車のドアが開いたかと思うと、大きな帽子を被った年配の貴婦人が、辺りを伺うように、顔を覗かせた。
その顔を見て、コーディリアは、思わず声を上げた。
「お母様!」
「いや、俺たちはこれで退散する。今夜こそ、チェスの決着を着けないとな、キース」
と、サディアスは弟を促した。
もちろんそれは、オーランドとコーディリアに時間を譲るための口実だったのだけれども。
おやすみ、また明日、と挨拶を交わして、サディアスとキースは引き上げ、オーランドはコーディリアとリビングに入った。
「何か飲む?」
「いいえ、もう何も。これ以上、お腹に入る場所がないわ」
チェストルへ来てからというもの、コーディリアは食欲旺盛だった。
精神的な解放感を覚えたせいか、ウォルトンにいる頃には考えられないほど、よく食べた。
今夜も、絶妙な焼き加減のローストチキンを、堪能したコーディリアだった。
「フォーシーズンズ・ハウスへ来てから、何でも、美味しく感じるの。きっと、食材が新鮮なのと、調理長の腕が良すぎるのね。このままだと、太ってしまって、あなたに嫌われてしまうわ」
「俺が、君を嫌うって?それは、絶対にない」
ウイスキーの支度を運んで来た召使が下がると、オーランドは、コーディリアと並んで、ソファに座った。
「わたくしが、あなたより太ってしまっても?」
「その時は、俺ももっと太ることにする。そうしたら・・・、」
と、大男のオーランドは、コーディリアを軽々と膝の上に載せた。
恥じらうコーディリアに、
「こうすると、きっと冬は、暖炉がいらなくなる」
と、オーランドは、アクアマリンの瞳を覗き込んだ。
好きだと、オーランドが呟いて、唇を寄せて来る。
コーディリアが眼を閉じると、抱きしめられて、いつものように優しい口づけを交わした。
コーディリアの想いは、日を追うごとに深くなっていた。
オーランドの顔を見て、話して、一緒に食事をして、笑いあって・・・、そんな時間が、たまらなく愛しかった。
もっと・・・、もっと、わたくしたちの間に・・・、もっと、何か。
そんな想いがよぎったコーディリアの隙を、オーランドは見過ごさなかった。
小さな吐息と共に小さく開いたコーディリアの唇に、オーランドは入り込んだ。
経験のない深い口づけに戸惑い、コーディリアの身体に力が入る。
けれども、コーディリアの気持ちを探る様に、優しく行き来する口づけに、いつしか、互いに絡み合っていた。
それと同時に、火照り始めた身体の行き先がわからずに、コーディリアはオーランドにしがみつき、身体を捩った。
コーディリアは未熟故に、それが、男を、オーランドを煽る行為だと知らなかった。
愛している、と、怖いくらい真剣に呟いたかと思うと、オーランドの唇は、コーディリアのうなじを滑り落ちた。
そうして、喉元を這い、胸元へと進み、オーランドの手が、服の上からコーディリアの胸のふくらみに触れた。
途端に、コーディリアの身体に緊張が走る。
「やめて・・・」
コーディリアの泣くような声で、オーランドは、覚めたように、はっと顔を上げた。
「ごめんなさい、わたくし、あなたのことは、本当に好きだけれど・・・、まだ、こういったことは、心の準備が・・・」
「君が悪いんじゃない。悪いのは、俺だ」
オーランドは、慌ててコーディリアから身体を離した。
「ごめんなさい、オーランド。本当に・・・、ごめんなさい」
「君は、何も悪くない。俺が悪かった。君に謝らないといけないのは、俺の方だ。大切な君を、傷つけた。許してほしい。本当に・・・、ごめん」
オーランドはコーディリアの手を取って、許しを請うた。
コーディリアの瞳から、涙が、零れ落ちた。
一体何が、こんなにも哀しいのか、よくわからなかった。
オーランドの行いが哀しかったのか、オーランドに応えられない自分が、惨めだったのか・・・。
楽しい夜だったのに、ついさっきまで、本当に楽しい夜だったのに・・・、それを台無しにしたのは、自分自身のような気がして、コーディリアは、溢れて来る涙を拭い続けた。
その翌朝、朝食に向かう際、書斎の前を通りかかり、何となく人の気配を感じたサディアスは、オーランド、いるのかと、軽くノックしてからドアを開け、
「朝飯前に、急ぎの仕事か?そろそろ、降りようぜ」
そう声を掛けた。
オーランドは、机の前に立ち、何かを手にして、じっと考え込んでいた。
「何か、問題が?」
と、サディアスが近づく。
オーランド手にしていたのは、リングケースだった。
「それは・・・」
リングケースの中央には、立て爪の一粒ダイヤモンドが、眩く煌めいていた。
その指輪は、フィンドレー家の奥方に、代々受け継がれて来た由緒ある品だった。
それを、今、オーランドが手にしているということは、ある決断をしたということに、違いなかった。
「俺は、焦っていると思うか?」
その輝きから眼を離さずに、オーランドが尋ねる。
「いや・・・、本気で惚れたら、誰でもそんなものじゃないか」
しばらく黙ったままのオーランドだったが、そうか・・・、そうだな、と、呟き、リングケースを閉じた。
「コーディリア」
朝食に向かおうと、エントランスホールへ続く階段を降りて来たコーディリアを、階下で待ち構えていたオーランドは、その姿が眼に入ると、すぐに声を掛けた。
「おはよう、オーランド。少し遅れてしまったかしら?」
階段下でオーランドが待っていたので、朝食の時間に遅れたのかと、コーディリアは少々慌てた。
「いや、そうじゃないんだ」
「オーランド、昨夜は、感情的になって、取り乱して、本当にごめんなさい。朝食の前に、もう一度、どうしても謝っておきたかったの」
「君が、謝る必要はない。昨夜も言ったが、君は何も悪くない。それと、そのことで、今夜、君に話したいことがあるんだ」
「お話?」
「とても大切な話だ。時間を作ってほしい」
「もちろん、伺うわ」
「よかった」
オーランドは、ほっとしたような表情を見せた。
それじゃあ、朝食へ、と、差し出されたオーランドの腕を取り、ふたり並んで歩き始めた時、屋敷へ近づいて来る車輪の音が、耳に入った。
こんな朝早い時間に誰だろう、と言わんばかりに、オーランドとコーディリアは、顔を見合わせる。
来訪者に気づいた召使がやって来て、ドアを開けかけたが、時間が時間であるため、何か急用かもしれないと、オーランドが、いい、俺が出ると、制した。
ドアを開けると、オーランドは門扉の向こうに、止まったばかりの馬車を見つけた。
そちらへ向かうオーランドの二、三歩後ろから、コーディリアもついて行く。
車室の窓には深紅のカーテンが見え、窓枠やドアに金の縁取りがあり、そして、車体に家紋らしき模様があったことから、遠目でも、貴族の馬車であることが分かった。
オーランドの姿を見つけ、地面に降りたった御者に、
「何か?」
と、オーランドの方から声を掛ける。
「失礼ですが、こちらは、チェストルのご領主、フィンドレー家のお屋敷でしょうか」
「いかにも、その通りだ。私は、当主のオーランド・ウィリアム・フィンドレー。そちらは・・・」
と言いかけて、車体の家紋がはっきりと眼に入ったオーランドは、口を閉じた。
その時、おもむろに、馬車のドアが開いたかと思うと、大きな帽子を被った年配の貴婦人が、辺りを伺うように、顔を覗かせた。
その顔を見て、コーディリアは、思わず声を上げた。
「お母様!」
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