上 下
54 / 57

49、気持ちを伝える方法

しおりを挟む


 「お兄様は、バカにされていい方ではありません! 皆様、失礼ではありませんか!?」

 「シルビア!? なぜ、お前がここに!?」

 どうやら、彼女はパトリック様の妹のシルビア王女のようだ。さっきのやり取りを聞いて、激怒しているみたい。……バカにされているように感じてしまったのね。
 
 「お兄様に内緒で、お父様にお願いしたのです。今日から私も、この学園の生徒ですわ!
 ところで、ミシェル様という方はあなたですの?」

 シルビア王女は、私のことをまるで値踏みするように上から下まで見る。

 「初めまして、シルビア王女殿下。ミシェル・バークリーと申します」

 「……合格ですわ! なんて美しいのでしょう!? 兄が夢中になるのも、分かりますわ! 私のことは、シルビアとお呼びください。ミシェルお姉様!」

 「お姉様?」

 「シルビア! ミシェルが困っているだろう! それは、気が早い!」

 「……パトリック、ミシェルは僕の婚約者だと何度言ったら分かるんだ?」

 ウィルソン様はシルビアに気を使っているのか、静かに……めちゃくちゃ怒っている。

 「ミシェルお姉様には、婚約者が居るのですか? お兄様なら、大丈夫ですわ。奪ってしまいましょう!」

 この兄妹……変。

 「シルビア王女、それは聞き捨てなりませんね。ミシェルは僕の婚約者ですし、パトリックなど相手にはしていません。分かったら、とっとと教室にお行きください」

 ウィルソン様……女の子相手に大人気ない。アーサー様は、ウィルソン様を見て笑いを堪えている。

 「そんなにムキにならなくても、よろしいんじゃなくて? まさか、愛されている自信がないのですか?」

 シルビアは、どうしてそんなにウィルソン様を挑発するのか……
 ウィルソン様は、急に暗い顔になった。

 「その辺にしてください。私は、ウィルソン様の婚約者です。それは、この先も変わることはありません。遅刻してしまいますよ、教室に行きましょう」

 「お姉様がそう仰るのでしたら、教室に行きますわ。だから、嫌いにならないでください」

 大きなクリクリの目をうるわせながらそんなことを言われたら、可愛いと思ってしまう。シルビアは、素直に教室に向かった。悪い子では、なさそう?

 「ミシェル~! アーサー様! 皆様、おはようございます!」

 シルビアが去って直ぐに、ナンシーの明るい声が聞こえた。

 「なんか雰囲気おかしくありません? 何かあったのですか?」

 キョトンとした顔で首を傾げるナンシー。

 「ナンシー、遅い! 話は後! 遅刻しちゃうから、教室行こう!」

 愛されている自信……か。
 好きだと言っていないから、ウィルソン様にあんな辛そうな顔をさせてしまった。
 どうにかして、彼に想いを伝える方法を考える……思い付いてしまった。私なりの、伝え方を!

 授業が終わると、ウィルソン様の手を引いて走り出す。

 「ミシェル?」

 とにかく急いで、邸に帰りたかった。

 「ウィルソン様、急いでください! 帰りますよ!」

 わけが分からなくても、彼は素直に着いて来てくれる。いつだって、彼は私を信じてくれる。どんな時も、彼は私を守ってくれる。こんな素敵な人は、たとえまた生まれ変わったとしても出会うことは出来ない。そんな彼に、あんな顔は二度とさせたくない。この世界が、ゲームだろうが知ったことではない! これは私の現実であり、私の人生だ! 大切な人を傷付けてまで、ゲームに付き合ってあげる気はないから覚悟しなさい!

 邸に帰ると、ウィルソン様には庭園のベンチで待っていてもらい、ザックを探した。

 「ザック!」
 
ザックを見つけると、急いで駆け寄る。

 「お嬢様、お帰りなさいませ。そんなに慌てて、どうされたのですか?」

 「お願いがあるの!!」

 ザックに、ウィルソン様を温室に連れて来て欲しいと頼んだ。その間に、私は温室に向かった。

 温室には、沢山の花が咲いている。前世の私は、花も好きだったけど、花言葉も好きだった。ウィルソン様が……戸ヶ崎さんが、私のことをずっと見てくれていたなら、そのことを知っているかもしれないと思った。だから私は、花言葉で気持ちを伝えることにした。

 「お嬢様、殿下をお連れしました」

 ザックはウィルソン様を案内すると、そのまま温室から出て行った。

 「理由も聞かずに来て下さり、ありがとうございます」

 彼に背を向けながら話す。

 「当たり前だ。君が望むなら、いつでもどこへでも行くよ」

 顔を見なくても、笑顔で居てくれているのが分かる。

 「私が、前世で花が好きだったことはご存知ですか?」

 「知っている。いつも昼休みになると、花言葉の本を読んでいたよね」

 やっぱり、知っていてくれた。私の知らないところで、大好きな人が私のことを見ていてくれたと思うと、胸が熱くなる。

 「この場所は、私が一番好きな場所なんです。庭園の花も好きなんですけど、ここに咲いている花がすごく好きで……この花、知っていますか?」

 ウィルソン様は、私の隣に並んで、咲いている花を見る。

 「胡蝶蘭だね」

 隣に立つウィルソン様の顔を見上げ、ニッコリ笑う。

 「はい。ピンクの胡蝶蘭です。この花の花言葉が、今の私の気持ちです」

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

処理中です...