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47、気持ちは態度で

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 右手を強引に引っ張られながら、肌身離さず持っていた短剣を左手で取り出す。デイビスからもらった短剣だ。
 思いっきり腕を振り払い、短剣の鞘を抜く!

 「近付かないで!!」

 短剣を両手で持ち、おじさんに向ける。
 全身がブルブルと震えてる。

 怖い……
 
 「小娘が、そんなもんでどうするつもりだ?」

 ジリジリと距離を詰めようとしてくる。私は短剣を大きく左右に振り、威嚇する。

 「来ないでって言ってるでしょ!? ケガしても、知らないから!!」

 「ケガをするのは、どっちだろうな?」

 いやらしい笑みを浮かべながら、近付いてくる。

 「舐めないで!!」

 私を捕まえようと伸ばして来たおじさんの手に、斬りつけようとしたと同時に手首を掴まれてしまった……

 ギリギリと手首を力一杯掴まれ、短剣を落としそうになった時……

 「貴様ーーーッ!! 僕のミシェルに、何してんだ!?」

 ウィルソン様の声が聞こえたと思ったら、おじさんが視界から消えていた。キョロキョロと辺りを見渡すと、おじさんは地面に倒れていて、その傍らにウィルソン様の姿があった。
 どうやら、ウィルソン様がおじさんに飛び蹴りをしたようだ。

 「ミシェル!! 大丈夫か!?」

 彼は私に駆け寄り、掴まれていた手首に触れた。心配そうに、手首を見つめながらさすってくれている。

 「……大丈夫です」

 本当は、ものすごく怖かったけど、彼を安心させたかった。全身が震えているし、立っているのもやっとだけど、彼が来てくれたことに心底安心した。安心したからか、泣きたくないのに涙がこぼれ落ちる。

 「無理するな……」

 彼はそう言うと、優しく私を抱きしめた。

 「ウィルソン様が、来てくれると信じていましたから……」

 彼の温もりに包まれ、強ばっていた身体がほぐされて行く。好きな人って、魔法使いなんじゃないかと思えて来た。彼が居るだけで、何もかも大丈夫なんじゃないかと思える。

 「殿下~!! ミシェル嬢~!! どこですか~!?」

 ジョナサン様の声が聞こえて来た。
 ウィルソン様の額には、うっすら汗が見える。汗をかくほどの気温じゃない。護衛を置き去りにしても、必死で私のことを探してくれたんだ。

 想いを伝えたい。だけど、きっと何かに邪魔をされる。

 それなら……

 「……ッ!!!」

 私は背伸びをして、彼の唇にそっとキスをした。
 
 顔を真っ赤に染めるウィルソン様。好きだと伝えてもいないのに、キスしてくるなんて思わなかったようだ。

 そこに、ジョナサン様がやっと追いついて来た。

 「殿下、はぁはぁ……早すぎです……
 その者は?」

 ウィルソン様の飛び蹴りで、地面にのびているおじさんを見ながら、ジョナサン様は首を傾げた。

 「多分、私を奴隷商人にでも売るつもりだったのかと……」

 「!? 殿下の婚約者を、売るだと!?」

 ジョナサン様は、倒れているおじさんの頬を思いっきり往復ビンタして意識を取り戻させると、おじさんを連れて先に歩き出した。

 「戻りますよ!」

 「はい。今行きます」

 真っ赤になって呆然としているウィルソン様の手を引いて、ジョナサン様のあとを追う。

 「ミ、ミシェル? さっきのは……」

 ごめんなさい、ウィルソン様。

 「何のことですか? ジョナサン様が行ってしまいます。行きましょう!」

 今はまだ、好きだと伝えることは出来ないけど、私の気持ち、少しは伝わったかな?

 そのまま私達は、手を繋ぎながらジョナサン様のあとを追ってみんなの元に戻った。


 「パトリック様! これ、見ていただけますか?」

 迷子になってまで見つけた薬草を、パトリック様に手渡す。

 「……これだ! よく見つけたな、ミシェル!」

 良かった……本当に良かった!
 これで、夫人の病気は治る!!


 薬草を見つけた私達は、翌日の朝早く、帰路に着いた。
 あのおじさんは、騎士団がバスタナード王国の兵に引き渡した。おじさんの正体は闇商人だったようで、ガーゼルの森には絶滅危惧種の動物が居て、その動物を捕獲しに来ていた。そんな時私を見つけて、奴隷として売り払おうとしたようだ。

 あの後、ウィルソン様に『二度と僕から離れるな!』と、怒られてしまった。心配ばかりかける婚約者を、彼はすごく大切にしてくれる。

 それにしても、ゲームのイベントは発生するのに、ことごとくゲームのシナリオとは違う展開になる。現実なんだから、シナリオ通りにはいかないと考えれば、納得は出来るけど……
 思えば、全てのイベントが、ウィルソン様との距離を近付けてくれている。なんて、考え過ぎかな。
 
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