52 / 57
47、気持ちは態度で
しおりを挟む右手を強引に引っ張られながら、肌身離さず持っていた短剣を左手で取り出す。デイビスからもらった短剣だ。
思いっきり腕を振り払い、短剣の鞘を抜く!
「近付かないで!!」
短剣を両手で持ち、おじさんに向ける。
全身がブルブルと震えてる。
怖い……
「小娘が、そんなもんでどうするつもりだ?」
ジリジリと距離を詰めようとしてくる。私は短剣を大きく左右に振り、威嚇する。
「来ないでって言ってるでしょ!? ケガしても、知らないから!!」
「ケガをするのは、どっちだろうな?」
いやらしい笑みを浮かべながら、近付いてくる。
「舐めないで!!」
私を捕まえようと伸ばして来たおじさんの手に、斬りつけようとしたと同時に手首を掴まれてしまった……
ギリギリと手首を力一杯掴まれ、短剣を落としそうになった時……
「貴様ーーーッ!! 僕のミシェルに、何してんだ!?」
ウィルソン様の声が聞こえたと思ったら、おじさんが視界から消えていた。キョロキョロと辺りを見渡すと、おじさんは地面に倒れていて、その傍らにウィルソン様の姿があった。
どうやら、ウィルソン様がおじさんに飛び蹴りをしたようだ。
「ミシェル!! 大丈夫か!?」
彼は私に駆け寄り、掴まれていた手首に触れた。心配そうに、手首を見つめながらさすってくれている。
「……大丈夫です」
本当は、ものすごく怖かったけど、彼を安心させたかった。全身が震えているし、立っているのもやっとだけど、彼が来てくれたことに心底安心した。安心したからか、泣きたくないのに涙がこぼれ落ちる。
「無理するな……」
彼はそう言うと、優しく私を抱きしめた。
「ウィルソン様が、来てくれると信じていましたから……」
彼の温もりに包まれ、強ばっていた身体がほぐされて行く。好きな人って、魔法使いなんじゃないかと思えて来た。彼が居るだけで、何もかも大丈夫なんじゃないかと思える。
「殿下~!! ミシェル嬢~!! どこですか~!?」
ジョナサン様の声が聞こえて来た。
ウィルソン様の額には、うっすら汗が見える。汗をかくほどの気温じゃない。護衛を置き去りにしても、必死で私のことを探してくれたんだ。
想いを伝えたい。だけど、きっと何かに邪魔をされる。
それなら……
「……ッ!!!」
私は背伸びをして、彼の唇にそっとキスをした。
顔を真っ赤に染めるウィルソン様。好きだと伝えてもいないのに、キスしてくるなんて思わなかったようだ。
そこに、ジョナサン様がやっと追いついて来た。
「殿下、はぁはぁ……早すぎです……
その者は?」
ウィルソン様の飛び蹴りで、地面にのびているおじさんを見ながら、ジョナサン様は首を傾げた。
「多分、私を奴隷商人にでも売るつもりだったのかと……」
「!? 殿下の婚約者を、売るだと!?」
ジョナサン様は、倒れているおじさんの頬を思いっきり往復ビンタして意識を取り戻させると、おじさんを連れて先に歩き出した。
「戻りますよ!」
「はい。今行きます」
真っ赤になって呆然としているウィルソン様の手を引いて、ジョナサン様のあとを追う。
「ミ、ミシェル? さっきのは……」
ごめんなさい、ウィルソン様。
「何のことですか? ジョナサン様が行ってしまいます。行きましょう!」
今はまだ、好きだと伝えることは出来ないけど、私の気持ち、少しは伝わったかな?
そのまま私達は、手を繋ぎながらジョナサン様のあとを追ってみんなの元に戻った。
「パトリック様! これ、見ていただけますか?」
迷子になってまで見つけた薬草を、パトリック様に手渡す。
「……これだ! よく見つけたな、ミシェル!」
良かった……本当に良かった!
これで、夫人の病気は治る!!
薬草を見つけた私達は、翌日の朝早く、帰路に着いた。
あのおじさんは、騎士団がバスタナード王国の兵に引き渡した。おじさんの正体は闇商人だったようで、ガーゼルの森には絶滅危惧種の動物が居て、その動物を捕獲しに来ていた。そんな時私を見つけて、奴隷として売り払おうとしたようだ。
あの後、ウィルソン様に『二度と僕から離れるな!』と、怒られてしまった。心配ばかりかける婚約者を、彼はすごく大切にしてくれる。
それにしても、ゲームのイベントは発生するのに、ことごとくゲームのシナリオとは違う展開になる。現実なんだから、シナリオ通りにはいかないと考えれば、納得は出来るけど……
思えば、全てのイベントが、ウィルソン様との距離を近付けてくれている。なんて、考え過ぎかな。
4
お気に入りに追加
2,317
あなたにおすすめの小説
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話
真理亜
恋愛
公爵令嬢のイライザには夢という形で未来を予知する能力があった。その夢の中でイライザは冤罪を着せられ処刑されてしまう。そんな未来を絶対に回避したいイライザは、予知能力を使って未来を変えようと奮闘する。それに対して、男爵令嬢であるエミリアは絶対にイライザを処刑しようと画策する。実は彼女にも譲れない理由があって...
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる