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46、助けて……ウィルソン様!!

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 ヒロイン不在なのに、イベントが発生した時に薄々気付いていた。私が、ヒロインのかわりになっているんじゃないかということに。ヒロインのかわりだということは、ゲームのクライマックスである卒業式の告白イベントまで告白出来ないということになる。

 結局あの後、クシャミをしたジョナサン様が申し訳なさそうに出て来て、そのまま私達は宿に戻った。

 ベッドに横になりながら、小さくため息をつく。卒業式までかあ……なんて長いんだろう。
 とにかく今は、恋に浮かれている場合じゃないし、薬草を見つけることだけに集中しよう。


 翌朝、朝食をすませるとすぐに出発した。
 昨夜のことで、ウィルソン様とは少し気まずい。
 
 「ミシェル、今日も可愛い!」

 ウィルソン様は、いつもの笑顔を見せてくれた。気まずいと思っていたのは、私だけだったみたい。彼はいつだって、私のことを考えてくれる。たとえ想いを伝えることが出来なくても、彼は変わらずそばに居てくれる。

 「ウィルソン……私が居ることを忘れていないか?」

 パトリック様は私達を見ながら、呆れた顔をした。

 「可愛いんだから、仕方がないだろう? 僕は、ミシェルが大好きなんだ!」

 「お前の愛は、重すぎる! ミシェル、こんな奴はさっさと捨てて、私の婚約者にならないか?」

 「ふざけるな! ミシェルは僕の婚約者だ! 同じ空気を吸うのも禁止!」

 「それでは、私が死んでしまうだろ!?」
 
 また始まった……
 顔を合わせる度にケンカして、よく飽きないな。二人の元気な声を聞いていたら、寝不足だからかいつの間にか眠ってしまった。

 目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。あんなにうるさかったのに、よく眠れたな私……

 「すみません、眠ってしまいました」

 「昨夜は眠れなかったようだから、眠れて良かった」

 眠れなかったのは、ウィルソン様も同じはずなのに……

 「寝顔が可愛かったぞ」

 どうしてパトリック様は、余計な一言を言うのか……

 「寝顔を見るなと言ったのに見たのか!?」

 「目の前に居るんだから、見ない方が難しいだろうが!」

 こうなると思った。ここまで来ると、ケンカしたいだけのように思えて来た。


 隣国に着くまで、ずっとこの調子だった。
 
 「ここに、薬草があるのね」

 バスタナード王国のガーゼルの森。

 「薬草は、花のような形をしている。葉が5つに分かれていて、大きさは手のひらほどだ。とりあえず、手分けして探そう。該当する薬草を手当り次第採ってきてくれ。それを私が見分ける」

 パトリック様は、騎士団二人を連れて今居る付近を探すことになった。私とウィルソン様、そしてジョナサン様は右。ナンシーとアーサー様、他の騎士団の人達は左を探すことになった。使用人達は、野宿出来そうな場所を探して準備をしてくれている。
 今日中に見つけられたらいいなと思いながらも、バスタナードでしか見つかっていない薬草が、そう簡単に見つかるはずもなく……

 「そろそろ、パトリックのところに戻ろうか」

 「そうですね。今日も、見つかりませんでしたね」

 ガーゼルの森に来てから、数日が経っていた。

 「あそこ……」

 見つけたかもしれないという喜びで、無我夢中で走った。

 「やっぱり! これだ!」

 パトリック様が言っていた特徴にそっくりの薬草を見つけ、嬉しさが込み上げてくる。薬草を採り、丁寧に袋に入れて立ち上がると、そこにウィルソン様とジョナサン様の姿はなかった。

 「嘘……はぐれちゃったの?」

 早く見つけて、夫人を苦しみから救って差し上げたいという思いから、先を歩いていたジョナサン様とウィルソン様から離れてしまった。

 どうしよう……私、方向音痴なのに……

 一人だと思うと、風で木の葉が揺れる音や、鳥が飛び立つ音が鮮明に聞こえて来て何だか気味が悪い。ここから出られないんじゃないかと、不安になって来た。

 ガサガサという草を踏む足音が聞こえる。ウィルソン様が、探しに来てくれたんだ!

 「ウィルソン様?」

 そう思って、名前を呼んで見たけど返事はない。足音は、どんどん近付いて来ているから、私の声が聞こえなかったわけではなさそう。

 まさか、クマとか? この森、クマが出ちゃったりする?

 恐怖で、足が思うように動かない。
 逃げなきゃと思いながら、気持ちばかりが焦る。

 足音がかなり近くなり、人影が見えた。少なくとも、クマではなさそうだ。

 「お嬢ちゃん、こんなところで何をしているんだ?」

 足音の主は、恰幅のいいおじさんだった。

 「薬草を探していて、迷ってしまったんです。ラーカルの町がある方角は、どちらでしょうか?」

 「ラーカルの町から来たのかい? この森は暗くなると危ないから、案内してあげよう」

 親切な人で良かった。お願いしますと言おうとしたら、おじさんは手を差し出してきた。どうしたらいいか、戸惑っていると……

 「危ないから、手を引いてあげるよ」

 何だか嫌な感じがした。

 「あの、大丈夫です。友人が、探しに来てくれると思うので、ここで待ちます」

 そう言うと、おじさんの雰囲気が明らかに変わった。

 「グダグダ言ってねーで、さっさと来い!」

 無理やり腕を捕まれ、引きずられそうになる!
 こんなの、ゲームになかった!! 助けて……ウィルソン様!!

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