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44、隣国へ出発
しおりを挟む本来なら、モリアール子爵が人を雇って薬草を見つけてくればいい話なんだけど、これはゲーム上のイベントだから、パトリック様が居ないと薬草の見分けがつかないということになっている。
マーガレット様には残ってもらい、薬草探しは私達で行くことになった。
今日は解散し、明日の朝出発することになった。
邸に帰ると、食事をしながら両親にそのことを話した。
「それは、危険ではないのか!?」
「ミシェルが心配だわ。隣国まで、20日はかかるじゃない……」
「姉上が心配だから、僕も一緒に行くよ!」
お父様もお母様も、デイビスも心配してくれる。でも、過保護過ぎる。
「ウィルソン様とパトリック様の護衛として、騎士団の方が同行してくれるから大丈夫よ。デイビス、気持ちはありがたいけど、すぐに帰って来るから心配しないで」
両親はそれならと納得してくれたけど、デイビスは食事中ずっと不機嫌だった。
食事が終わると、部屋に戻ってセシリーと一緒に荷造りをする。セシリーも、隣国に着いてくる。往復で、1ヶ月以上はかかるから荷物が多過ぎ。この国を離れるのは、前世の記憶が戻ってから初めてだ。
このイベントで、ヒロインは攻略対象者との仲が深まるはずだった。ヒロイン不在のイベントだけど、薬草が見つかってくれるように頑張るしかない。
荷造りが一段落した時、部屋のドアがノックされた。訪ねてきたのは、デイビスだった。
「姉上、これを持って行って欲しい。僕の代わりに、きっと姉上を守ってくれる」
手渡されたのは、綺麗に装飾がされている短剣だった。
「ありがとう、デイビス」
短剣を受け取ると、満足そうに頷いた。デイビスの想いが込められた短剣だから、肌身離さずに持っていることにした。
翌朝、ウィルソン様が邸まで迎えに来てくれた。他のみんなは、これから迎えに行くようだ。
「ミシェルは、ずっと僕と一緒の馬車だからね?」
念押ししなくても、私もウィルソン様と一緒の馬車がいい。
馬車は三台と、荷馬車が一台。一台目の馬車にはウィルソン様、パトリック様、私が乗り、二台目の馬車にはアーサー様とナンシーが乗ることになった。そして、三台目の馬車にセシリー達使用人が乗っている。ジョナサン様は第一騎士団の人達と一緒に、護衛についてくれている。
「ミシェル嬢と一緒なのはいいが、なぜウィルソンまで乗っている? 窮屈でたまらない!」
「窮屈なら、降りて走ればいいだろ。僕とミシェルのイチャイチャ空間に居られたら邪魔だ」
「この私に、走れだと!? お前が降りろ! 何がイチャイチャ空間だ!!」
子供かっ!
パトリック様はまだこの国に来たばかりだし、ウィルソン様と友達だからと思って、一緒の馬車に乗ってもらったけど、出発してからずっとこんな調子だ。
「お二人とも、降りて走ったらいかがですか? 先は長いのに、いつまでもケンカ出来るほど元気が有り余っているようですし」
睨み合う二人を、さらに私が睨み付ける。
「……悪かった」
「すまなかった……」
二人は、小さくなって素直に謝って来た。本当は仲良くしたいくせに、二人とも意地を張っているように思える。
こちらはこんな調子だけど、アーサー様とナンシーは仲良くしていたらいいな。
一方、アーサーとナンシーの乗った馬車では……
「はあ……。ミシェルと同じ馬車が良かった」
馬車の窓から外を見ながら、ため息をつきまくるアーサー。
「ため息をつくと、幸せが逃げるそうですよ」
ナンシーはアーサーの態度に怒ることもなく、落ち着いた様子だ。
「……それは違う。ため息をつくと、心が落ち着くそうだぞ」
「そうなのですか!? 全く知りませんでした! アーサー様は、博識なのですね!」
目を輝かせながら、アーサーを見るナンシー。
「……なんでお前は、俺なんかがいいんだ? ただの政略結婚なんだから、俺なんかじゃなくて他の男を探せばいいだろ?」
アーサーは、ナンシーから婚約を解消して欲しいと思っていた。自分から解消したら、ナンシーを傷付けると思ったからだ。ミシェルと結ばれると思っているわけではない。だが、記憶が戻った今は、ミシェルのことしか考えられない。
ナンシーには、辛い思いをさせて来たという自覚はある。記憶が戻る前は、軽い行動ばかり取っていたし、記憶が戻ったら別の女性に固執している。それでも、ミシェルとウィルソンが結婚するまでは、ミシェルを諦めるつもりはないようだ。
アーサー自身は気付いていないが、ローリー(澤部弥生)の件があって以来、ナンシーを気遣うようになっていた。ナンシーは、それだけで十分幸せだと思っている。そんなナンシーが、婚約を解消することはありえなかった。
「そんな簡単に、私から逃げられると思ったら大間違いです。私は、何があってもアーサー様の婚約者ですからね!」
そう言って、頬を膨らませるナンシー。怒ってはいないが、少し拗ねているようだ。
ナンシーも、ミシェルとアーサーが結ばれるとは思っていない。いつか自分を見てくれると信じて、いつまでも待つつもりなのだ。
「……物好きだな」
そうは言ったが、満更でもない表情を浮かべていた。
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