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36、二人きりになれない

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 「やっと二人きりになれたことだし、少し見てまわろうか」

 さりげなく手を繋がれ、心臓が跳ね上がる。ちょっとしたことでも、彼にドキドキしてしまうようになっていた。

 「……はい」

 これは、デート!?
 記憶が戻る前は、二人で出かけていたりしたけど、記憶が戻ってからは、送り迎え以外は二人きりの時間なんてなかった。思わず顔が、にやけてしまう。

 「ミシェル様~!」

 うん。そんな予感がしてた。
 取り巻き三人組の一人が、息を切らせながらこちらに走って来た。

 「そんなに慌てて、どうしたの?」

 「はぁはぁ……すぐに……はぁはぁ……教室に、お戻りください!」

 何事かと、ウィルソン様と顔を見合わせる。
 この様子を見る限り、見てまわるなんて出来そうにない。諦めて、教室に戻った。

 「また……なのね」

 教室に戻ると、また行列が出来ていた。どんな緊急事態かと思ったじゃないか……

 「そうなんです! ミシェル様がミスコンに優勝されたことが、行列の原因のようです!」
 「皆さん、ミシェル様に会いにいらしたのです」
 「さすが、ミシェル様です! こんなに沢山の方々の心を奪ってしまうなんて!」

 私が原因だと言われたら、手伝わないわけにはいかない。

 「ウィルソン様、申し訳ないのですが……」

 謝ろうと彼の顔を見上げると、笑顔を向けてくれた。

 「仕方ない、僕も手伝うよ!」

 そう言って、頭を撫でてくれた。彼の手は、魔法の手みたい。私を、安心させてくれる。

 今回は、ウィルソン様が中を手伝ってくれている。私は接客で忙しくしていた。

 「ミシェル! また戻って来たんだって!?」

 アーサー様が、勢い良く入口から顔を出した。

 「アーサー様、ミシェル様は忙しいのですから、邪魔してはいけません!」

 その後ろから、ナンシー様が顔を出す。何か吹っ切れたみたいに、イキイキしている。

 「アーサー、暇なら手伝え!」

 「俺は、ミシェルに会いに来たんだ! 引っ張るなよ!」

 アーサー様の声が聞こえたのか、ウィルソン様が出て来てアーサー様を連れて行った。

 「ミシェル様、私も手伝います!」

 ナンシー様は、接客を手伝ってくれた。明るい彼女は、とても可愛い。いつか、アーサー様もその事に気付くだろう。

 結局、最後まで行列が耐えなかった。

 「「「お疲れ様でしたー!!」」」

 なぜか、みんなが私に向かって言った。疲れているのは、みんな一緒のはずだけど? そう思って、みんなの顔を見る。

 「ミシェル様のおかけで、優秀賞をいただけそうです!」
 「こんなに沢山のお客様がいらしたのですから、優秀賞は確実ですね!」
 「さすが、ミシェル様です! 上級クラスを差し置いて、優秀賞だなんて!」

 ……優秀賞って何!? 聞いてないけど!?

 「優秀賞ってなんですか?」

 小声で、隣に立っているウィルソン様に聞いてみる。

 「知らなかったのかい? 来ていただいたお客様に、最も良かった出し物に投票してもらうんだ。最終的に、投票数が多かったクラスが優秀賞を与えられる」
 
 そんな投票システムがあったのに、ウィルソン様もアーサー様もナンシー様も手伝ってくれたの!? 申し訳なさすぎる。

 「そんな顔をするな。僕達は、好きで手伝ったんだ。それに、僕のクラスは客が二組だったそうだ」

 私が暗い顔をしていたからか、ウィルソン様は勇気付けようとしてくれた。心配させたら、ダメだよね。

 「ウィルソン様のコンニャクは、あまり役にたちませんでしたね」

 「そうだな。ミシェルとも、結局入れなかったしな」

 「すみません……」

 「二人の世界に入るの禁止ー! 片付けして、早く帰ろう」

 アーサー様は先に片付けを始めた。手伝うことを嫌がっていたのに、素直じゃないなと思った。ただ単に、早く帰りたいだけかもしれないけど……。
 その後に続いて、ナンシー様が片付けを始める。私も、ナンシー様の後に続いた。

 「殿下、こちらの後片付けが終わっていないので、手伝っていただけますか?」

 ウィルソン様も片付けを始めると、彼のクラスの生徒が呼びに来た。
 
 「行ってください。こちらが終わったら、私もお手伝いします」

 「分かった。アーサー、ミシェルに手を出すなよ!」

 ウィルソン様は、心配性だ。冗談じゃなく、本気で言っている。

 「ハイハイ、分かりましたよ~」

 アーサー様は片付けをしながら、右手をヒラヒラさせた。

 「大丈夫です! 私が、アーサー様を見張りますので!」

 ナンシー様は腕まくりをする素振りをし、本気度をアピールしていた。その様子を見て、ウィルソン様は安心して教室に戻って行った。

 片付けがあと少しで終わりそう。私は、一番重そうな機材を戻そうと備品室に向かった。備品室のドアを開けると、いつから居たのか、そこにはローリーが立っていた。

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