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35、ライバル
しおりを挟む「パトリック、久しぶりだな」
ウィルソン様は、パトリック様と知り合いだったようだ。
「そうだな。10年ぶりだ。これからは、毎日会うことになるからよろしく頼む」
二人の表情からは、仲がいいのか悪いのか分からない。
……え、毎日?
「毎日会うことになるとは、どういうことだ?」
ウィルソン様も知らなかったのか、驚いた顔をしている。
「明日から私も、この学園に通うことになったのだ。父上に、他国で学ぶのも良いだろうと言われてな」
「てっきり、ミスコンの為に来たのかと思っていた……」
「失敬だな。まあ、それも目的のひとつではある。ミシェル嬢が出ることは、各国で噂になっていたしな」
視線を私に向けて、目を細めて微笑むパトリック様。私が出ることが、どうしてそんなに噂になっていたのだろうか。喫茶店の時から、ずっと不思議に思っていた。
「あの……パトリック様、どうして私のことが噂になっていたのでしょう?」
パトリック様は、なぜか無言になって私のことを見つめている。
「ミシェルを見つめるな!」
ウィルソン様が間に入り、パトリック様の視界を遮った。
「減るものじゃないだろう!? ミシェル嬢が初めて私に話しかけてくれたから、感極まってしまった。噂になっていたのは君の美しさと、聖女のように優しい心の持ち主だという話だ」
聖女のように優しい心の持ち主……それって、ゲームの中でヒロインがそう噂されていた。どうして私が、そんな噂をされたのだろう……
「その噂は、どなたが流したのでしょう?」
「それは、君の弟だよ」
「……は?」
弟って、デイビス!?
「弟のデイビスが、姉の私を聖女のように優しい心の持ち主だと広めているのですか!? 」
ただの身内びいきじゃない!
恥ずかし過ぎて、穴があったら入りたい……
「自分を犠牲にしても、弟の為に尽くす君の姿は、まるで聖女のようだったとか。彼も、故意に広めたわけじゃなく、姉の為に何が出来るのか相談していたそうだ。次第にその話が、各国に広まったというわけだ」
デイビスが私のことを考えてくれたことが広まったのなら、噂になるのは私じゃなくデイビスなら良かった。出来のいい姉を持つ、出来損ないの弟と言われ続けて来たあの子が、私より優れていると分かってもらいたい。
「僕も、ミシェルは聖女のようだと思うよ。今、デイビスのことを考えていたのだろ? 自分のことより、他の誰かを大切に思う君は、誰より心の綺麗な人だ。少し、妬いてしまうけどね」
私を抱き寄せる手に力がこもった。少し? というのは疑問だけど、妬いてしまうのは本心のだろう。だけど彼の言葉は、すんなり受け入れられる。というより、彼がそう思ってくれていることが素直に嬉しい。
「二人の世界に入るの、やめてくれないか? 」
見つめ合う私達を、呆れた顔で見ているパトリック様。確かに、疑問に答えてくれた彼に、失礼だったと反省する。
「すみません、パトリック様。答えて下さり、ありがとうございました。そういえば、パトリック様はこの学園の生徒になるのですよね? これから、よろしくお願いします」
握手をしようと手を差し出そうとしたら、ウィルソン様が私の手を掴んだ。そして、自分の手をパトリック様に差し出した。
「……ウィルソン、それはミシェル嬢に触れるなということか?」
「そうとってもらっても、構わない。ミシェルの変わりに、僕が握手してあげよう」
ウィルソン様が差し出した手をちらりと見てから、パトリック様はお手上げといったように両腕を上にあげた。
「鉄壁の防御があるようだから、今日のところは失礼する。また明日な、ミシェル嬢」
私の方だけを見て別れを告げたあと、パトリック様は帰って行った。ゲームでは一度も遭遇しなかった彼は、イメージとは違う人物だった。
「昔は可愛かったのに、今はライバルになってしまったか」
ライバルだと言っている割に、嬉しそうな顔をしている。久しぶりに会えた友達が、同じ学園に通うことになったのが嬉しいみたい。
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