35 / 57
32、ローリーの作戦
しおりを挟むあまりに大きな歓声に戸惑いながら、もう一度ステージの前に出て一礼する。
「ありがとうございました。皆様のあたたかい拍手に、感謝致します」
顔を上げると、ウィルソン様、お父様やお母様やデイビス、取り巻き三人組やクラスのみんな……
この世界は……ここは、私の居場所だ。
アピールタイムが終了し、元の位置に戻る。その時、ローリーと目があった。ヒロインである彼女が、ずっと羨ましかった。前世からずっと……
だけど今は、羨ましくなんかない。ミシェルとしての今の自分が、大好き。
「ありがとうございました~! とても心がこもった演奏で、感動しました。
次は、ラスト! エントリーナンバー8番。ローリー・ダナドア嬢です!」
紹介されたローリーは、ステージの前に……
「キャッ!!」
出ようとして、転んだ。
「大丈夫ですか!?」
転んだローリーに、手を差し出したのはナンシー様。ナンシー様は、キッと私を睨みつけた。
「私、見ました! ミシェル様が、ローリー様に足をかけて転ばせました!」
会場が、シーンとなった。
私は何もしていない。ということは、最初からこの二人は私をはめるつもりだったのだろう。
ゲームでは、ミスコン自体にハプニングが起こることはなかった。だから、少し油断していた。まさか、でっち上げで私を陥れようとしてくるなんて……
「ミシェル様……は、そんなこと……しません。私達は、友達なんです! 私を、裏切ったりはしません! そう……ですよね? ミシェル様」
これが、急に私と仲良くなろうとしていた理由だったようだ。
ローリーの演技は、完璧だ。私達が最近一緒にいるところは、学園中の生徒達が目にしている。
だけど……
少し前の私だったら、もう終わりだと考えたかもしれない。でも、今は違う。
「私は、ローリーと仲良くしたかった。でもあなたは、絶対に私を受け入れてはくれないのね」
この気持ちは、本心だった。
最初は、破滅しない為に仲良くしようとしていたけど、一緒に居るうちに本当に楽しくなっていた。
「な、何を仰っているのですか!? ローリー様に足をかけて転ばせたのは、ミシェル様ではありませんか! それを、仲良くしたかっただなんて、よく言えますね!!」
ナンシー様も気の毒だ。婚約者は、あのアーサー様だし、ローリーにそそのかされたのだろう。
「ナンシー様……やめてください。私は、何を言われても大丈夫です。私は、準男爵令嬢ですので、皆さんに嫌われていることは分かっていました。ただ……、信じていたミシェル様に裏切られたのかと思うと……ぅぅぅぅ……」
泣き真似……かと思ったら、本当に涙を流している。迫真の演技だ。
会場にいる人達も、ローリーの涙を見て動揺し始めた。その時、ウィルソン様が座っていたイスから立ち上がったのが目に映った。
「いい加減、茶番はやめろ! 何度同じことをしても、君を信じる者などこの学園には誰もいない!!」
そう……彼は、いつだって私を信じてくれる。
「……ナンシー、君を見損なったよ」
アーサー様……それは、あなたには言われたくないと思う。ナンシー様の顔が、真っ青になっていく。その様子を見る限り、アーサー様のことが好きだったようだ。
「うちの娘が、そんなことをするはずがないではないか!」
「そうよ! うちのミシェルは、優しい子なのだから!」
「姉上は、誰かを傷付けるようなことはしない!」
お父様達まで立ち上がり、私を庇ってくれる。
「ローリー嬢、君は入学式の日に、ミシェル嬢に助けてもらったのを忘れたのか!?」
ジョナサン様……
「ミシェル様を陥れようとしてもムダよ!」
「私達のミシェル様が、そんなことをするはずない! 」
次々に、私のことを信じてくれる人達が立ち上がる。こんなにたくさんの人に、私は認めてもらえていた。泣きそうになるのを我慢して、笑顔を見せた。
「ありがとうございます……」
ローリーもナンシー様も、思惑通りにならないことに苛立ちを隠せない。
「なぜ、このようなことをしたのですか?」
最前列に座っていた見知らぬ男性が、座ったまま質問をして来た。
漆黒のような黒い髪に、金色の瞳。身なりからして、どこかの王子様のような……
まさか、彼がパトリック様!?
5
お気に入りに追加
2,317
あなたにおすすめの小説
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話
真理亜
恋愛
公爵令嬢のイライザには夢という形で未来を予知する能力があった。その夢の中でイライザは冤罪を着せられ処刑されてしまう。そんな未来を絶対に回避したいイライザは、予知能力を使って未来を変えようと奮闘する。それに対して、男爵令嬢であるエミリアは絶対にイライザを処刑しようと画策する。実は彼女にも譲れない理由があって...
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる