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32、ローリーの作戦

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 あまりに大きな歓声に戸惑いながら、もう一度ステージの前に出て一礼する。

 「ありがとうございました。皆様のあたたかい拍手に、感謝致します」

 顔を上げると、ウィルソン様、お父様やお母様やデイビス、取り巻き三人組やクラスのみんな……
 この世界は……ここは、私の居場所だ。

 アピールタイムが終了し、元の位置に戻る。その時、ローリーと目があった。ヒロインである彼女が、ずっと羨ましかった。前世からずっと……
 だけど今は、羨ましくなんかない。ミシェルとしての今の自分が、大好き。

 「ありがとうございました~! とても心がこもった演奏で、感動しました。
 次は、ラスト! エントリーナンバー8番。ローリー・ダナドア嬢です!」

 紹介されたローリーは、ステージの前に……

 「キャッ!!」

 出ようとして、転んだ。

 「大丈夫ですか!?」

 転んだローリーに、手を差し出したのはナンシー様。ナンシー様は、キッと私を睨みつけた。

 「私、見ました! ミシェル様が、ローリー様に足をかけて転ばせました!」

 会場が、シーンとなった。

 私は何もしていない。ということは、最初からこの二人は私をはめるつもりだったのだろう。
 ゲームでは、ミスコン自体にハプニングが起こることはなかった。だから、少し油断していた。まさか、でっち上げで私を陥れようとしてくるなんて……

 「ミシェル様……は、そんなこと……しません。私達は、友達なんです! 私を、裏切ったりはしません! そう……ですよね? ミシェル様」

 これが、急に私と仲良くなろうとしていた理由だったようだ。
 ローリーの演技は、完璧だ。私達が最近一緒にいるところは、学園中の生徒達が目にしている。

 だけど……

 少し前の私だったら、もう終わりだと考えたかもしれない。でも、今は違う。

 「私は、ローリーと仲良くしたかった。でもあなたは、絶対に私を受け入れてはくれないのね」

 この気持ちは、本心だった。
 最初は、破滅しない為に仲良くしようとしていたけど、一緒に居るうちに本当に楽しくなっていた。

 「な、何を仰っているのですか!? ローリー様に足をかけて転ばせたのは、ミシェル様ではありませんか! それを、仲良くしたかっただなんて、よく言えますね!!」

 ナンシー様も気の毒だ。婚約者は、あのアーサー様だし、ローリーにそそのかされたのだろう。

 「ナンシー様……やめてください。私は、何を言われても大丈夫です。私は、準男爵令嬢ですので、皆さんに嫌われていることは分かっていました。ただ……、信じていたミシェル様に裏切られたのかと思うと……ぅぅぅぅ……」

 泣き真似……かと思ったら、本当に涙を流している。迫真の演技だ。
 
 会場にいる人達も、ローリーの涙を見て動揺し始めた。その時、ウィルソン様が座っていたイスから立ち上がったのが目に映った。

 「いい加減、茶番はやめろ! 何度同じことをしても、君を信じる者などこの学園には誰もいない!!」

 そう……彼は、いつだって私を信じてくれる。

 「……ナンシー、君を見損なったよ」

 アーサー様……それは、あなたには言われたくないと思う。ナンシー様の顔が、真っ青になっていく。その様子を見る限り、アーサー様のことが好きだったようだ。

 「うちの娘が、そんなことをするはずがないではないか!」
 「そうよ! うちのミシェルは、優しい子なのだから!」 
 「姉上は、誰かを傷付けるようなことはしない!」

 お父様達まで立ち上がり、私を庇ってくれる。

 「ローリー嬢、君は入学式の日に、ミシェル嬢に助けてもらったのを忘れたのか!?」

 ジョナサン様……

 「ミシェル様を陥れようとしてもムダよ!」
 「私達のミシェル様が、そんなことをするはずない! 」
 
 次々に、私のことを信じてくれる人達が立ち上がる。こんなにたくさんの人に、私は認めてもらえていた。泣きそうになるのを我慢して、笑顔を見せた。

 「ありがとうございます……」

 ローリーもナンシー様も、思惑通りにならないことに苛立ちを隠せない。

 「なぜ、このようなことをしたのですか?」

 最前列に座っていた見知らぬ男性が、座ったまま質問をして来た。
 漆黒のような黒い髪に、金色の瞳。身なりからして、どこかの王子様のような……

 まさか、彼がパトリック様!?

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