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25、四人目の攻略対象
しおりを挟む破滅はしないだろうと、安心していた。ほとんどゲームとは違う流れだったし、何より一番の破滅の原因であるウィルソン様からの婚約破棄がなかったから。
パトリック様は、ヒロインに対してウィルソン様の好感度が低い時にだけ出現する隠しキャラだ。ウィルソン様しか攻略してこなかった私は、パトリック様に遭遇したことはない。隠しキャラが居ることは、会社のトイレで女子社員がたまたま話していたのを聞いただけの浅い知識しかない。ヒロインがパトリック様を攻略すると、ミシェルが学園から追い出され、結局ウィルソン様から婚約を破棄され、国から追放されて盗賊に襲われて死ぬ……らしい。女子社員達は、『結局、ミシェルは死ぬんじゃん』と言っていたのを覚えている。
……私、死ぬの!?
悪役令嬢らしいことは、何一つしていない。ミシェルとして、精一杯生きて来た。だけどそれは、この国でのこと。パトリック様とは、面識もない。これは、最大の危機!!
「ミシェル? 顔が真っ青だけど、まだ体調が良くないんじゃ?」
ウィルソン様に、顔を覗き込まれて我に返った。
「大丈夫です! やっぱり、お魚じゃなくてサラダにしようかな」
食欲がなくなってしまった。一難去ってまた一難。というより、前世の記憶が戻ってから、心が休まる時がない気がする。
結局、ローリーと同じテーブルに座り、食事をすることになった(他のテーブルは、空いてなかった)。ずっとローリーが何か話していたけど、全く頭に入らなかった。ウィルソン様は、私の体調が良くないのかもと心配してくれていた。
食事を終えて教室に戻ると、アーサー様が待っていた。
「そんな目で見られたら、ときめいてしまう! ミシェルの瞳は、本当に美しいな」
この人は、いったい何なのだろうか。アーサー様なら言いそうなことだけど、相田さんが言いそうにはないことを平然と言っている。
せっかく噂が丸く収まっていたのに、また変な噂がたちそうで頭が痛い。
「ミシェルを、見るなと言ったはずだが? だいたい、学年が違うのだから一年の教室に来るな。気色悪い」
この二人、本当に仲が悪い。ウィルソン様は、心底嫌そうな顔をしている。
「お前に会いに来たんじゃない。泣き虫は、黙ってろ!」
いくら前世で兄弟だったからって、王太子殿下にお前呼びは良くないと……
それにしても、彼が泣き虫だったなんて凄く意外。
「殿下に、お前とは無礼ではないか!」
ジョナサン様まで、加わった。
今の私は、こんなよく分からない言い合いに付き合えるほど余裕はない。関わるのはめんどくさいから、こっそり席に着こう。
そう思って、歩き出そうとすると、ウィルソン様に手首をガッツリ掴まれていた。……授業の時間になるまで、ここに居るしかなさそうだ。
「その手はなんだ!? ミシェルに触れるな!!」
「ミシェルは僕の婚約者なのだから、触れてもいいんだ! 一緒に居る時は、いつも手を繋いでいるしな!」
そのマウントは、子供みたいで少しだけ可愛いと思ってしまった。でも今は、手を離して欲しい。
「ミシェルが嫌そうにしているのに、気付かないのか!? 離れろ!」
「殿下に何をする!?」
私達の間に入ろうとするアーサー様を、ジョナサン様が止めに入る。アーサー様に触れさせないように、ウィルソン様が私を背中に隠す。その様子を、何が起きているのか分からない生徒達はポカンとした顔で見ている。妙な攻防戦が始まり、ウンザリしてきた。
「もう、いい加減にして!!」
ウィルソン様の手を振り払い、三人をキッと睨み付ける。
「もうすぐ授業が始まります。ウィルソン様とアーサー様は、自分の教室に戻ってください。ジョナサン様は、自分の席に着いてください。私も席に着きます。これ以上くだらない言い合いをするのなら、許しませんからね!」
怒られたのがこたえたのか、ウィルソン様もアーサー様もションボリしながら教室に戻って行った。ジョナサン様は、二人が戻るのを見届けた後、席に着いた。
悪いけど私は、兄弟喧嘩に付き合っている場合じゃない。
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