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23、兄弟
しおりを挟む「……彼女にも、記憶があるのか?」
アーサー様は、私が佐倉莉音だと知っているみたいだ。私に記憶がないと思っていたのか、気まずそうな顔をした。知っていたのに、私に関わって来ていたのかと思うと、怒りが込み上げてきた。
殴ってやりたい……殴ってやりたいけど、人違いで告白した私にそんな権利はない。
どうしてアーサー様は、私に関わって来たのか疑問だ。
「記憶があると、都合が悪いのですか?」
相田さんまでこの世界に転生して、前世の記憶を持っているなんて……
ウィルソン様が相田さんじゃないことが分かって、私が好きだったのが戸ヶ崎さんだと気付いて、ようやくウィルソン様に心を開けるかもしれないと思っていたのに、どうしてこうなるのか。
「佐倉に、ずっと謝りたかったんだ。すまなかった!」
いつもはヘラヘラしているアーサー様が、真剣な顔で謝った。あんな風にフッた相手が、その後すぐに死んでしまったから、反省したのかもしれない。私も人違いしていたし、もう関わりたくないから和解しよう。あんなにショックだったのに、人違いだと分かったら、相田さんに言われたことは不思議とどうでもよくなっていた。
「謝罪は受け入れます。ですが、もう私に関わらないでください」
ウィルソン様は、私とアーサー様の間に入り、アーサー様が近付かないようにしている。それでも必死に、近付こうとするアーサー様。
「それは、無理だ。俺は、ミシェルが好きだ!」
素直に、その言葉を信じるつもりはない。だけど、その言葉は問題発言だ。私は、王太子殿下の婚約者なのだから。それに、アーサー様にも侯爵令嬢の婚約者が居たはず。
「……それは、聞かなかったことにする。前世では兄弟だったし、一度だけ許すよ」
ウィルソン様が、怒っているのが分かる。私に見せる顔とは、明らかに違っていた。だけど、少しだけ寂しそうにも見えた。
「許さなくていい。俺はもう、後悔したくない。琉哉が、俺を罰すると言うなら受け入れる。そんな度胸、お前にはないだろうけどな」
まるで、ウィルソン様を挑発するような言い方。罰して欲しいように聞こえる。ウィルソン様もそう感じたのか、アーサー様に返事をすることなく、無言で私の手を掴んで歩き出した。
「ウィルソン様?」
ウィルソン様はそのまま、私の手を引いて校舎に入る。その様子を、アーサー様は黙って見送っていた。
二人の間に、何があったのか私には分からない。二人共前世の記憶があって、兄弟だったのに、どうしてこんなに仲が悪いのか……
教室に着くと、いつものウィルソン様に戻っていた。
「昼に迎えに来るよ」
優しい笑顔。私は何も聞くことが出来ず、ただ頷いた。やっぱり私は、この笑顔に弱い。
ウィルソン様を見送ってから教室に入ると、ジョナサン様が心配そうな顔で近付いて来た。さっきのウィルソン様とアーサー様のことを、見ていたようだ。
「ミシェル嬢、おはよう。殿下の様子が、いつもとは違っていたようだが、アーサーと何かあったのか?」
何があったのか、私の方が聞きたい。前世の話をするわけにもいかず、返す言葉が出て来ない。
「お二人は、ミシェル様を奪い合っているように見えましたわ」
「アーサー様は、殿下からミシェル様を奪う気なのですね!?」
「さすが、ミシェル様ですね! あんなにお美しいアーサー様まで、虜にしてしまうなんて!」
取り巻き三人組は、話に割って入って来た。この三人が、そんな風に思ったのなら、他の生徒達も同じように思ったかもしれない。このままでは、大事になってしまう。
「そんなはずないでしょう! 私は、ウィルソン様の婚約者なのよ! アーサー様は、からかってきただけよ。いかにも、アーサー様がやりそうなことでしょ?」
ジョナサン様は、少し考えると、うんうんと頷いた。ジョナサン様の様子を見た他の生徒達も、納得したようだ。……アーサー様の軽い性格のおかげで、なんとかこの場はおさまったみたい。
「そうだな。アーサーには、婚約者も居るし、殿下の婚約者であるミシェル嬢にちょっかいを出したりはしないだろう」
さすが、真面目なジョナサン様!
取り巻き三人組は、後でお仕置しないと!
上手く誤魔化せたと安心していたけど、そんなに甘くなかったということをすぐに思い知ることになった。
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