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19、優しい家族
しおりを挟むまた眠ってしまったのか、目を覚ますと外は明るくなっていた。
ウィルソン様のことを愛していたのだと思い出したけど、今の私の気持ちは複雑だった。あの顔を見ると、まだ相田先輩を思い出してしまう。『ブス』という言葉は、ナイフより鋭く心を抉る言葉だと思う。自分のことを、可愛いとか美人だとか思っていたわけじゃない。それでも、こんなに傷付いているのは、本当に相田さんが好きだったからだと思う。だから、ウィルソン様を愛するのが怖い。私は、傷つきたくない……臆病になっている。
顔を洗い、鏡を見る。凄く綺麗な姿が映っている。この顔も、私なのは分かっているけど、莉音の記憶があるからか、なんだか不思議な気持ちになる。
「この顔を、ブスだなんて言う人はいないよね? 誰が見ても、美人だもの」
って、私は自分の顔を見て何を言っているのだろう。自意識過剰……
あのくっさい香水や好みじゃない宝石類は、誕生日とかに他の貴族達から贈られた贈り物だった。私は贈り物を、捨ててしまったようだ。残っている贈り物は、全部ウィルソン様から。無意識に、彼からの贈り物を大切にしていた。
「あ~ッ!! もう、やめやめ!」
考えるのはもうやめる!
今は、ウィルソン様を愛してるとは素直に思えない。この先、自分の気持ちがどうなるかなんて、今考えても分からないんだから考えるのはムダ。
さて、朝ごはん食べて学園に行きますか。
食堂に行くと、お父様とお母様が心配そうな顔をして駆け寄ってきた。
「もう大丈夫なのか!?」
「倒れるなんて、あなたは無理をし過ぎよ!」
何だか懐かしい。
心配かけておいて申し訳ないけど、少し嬉しい。
「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。もう大丈夫です」
ミシェルは、悪役令嬢のはずだった。だけど、私はミシェルに生まれて幸せだと思っている。
「姉上! 起き上がって、大丈夫なの!? 朝食は、部屋に運ぼうと思っていたのに」
優しい両親、優しい弟、この家族の一員で良かった。
「完全に復活したわ! 心配かけてごめんね、デイビス」
復活したことをアピールするように、クルっと回って見せる。
「顔色が良くなったようで、安心したよ。だけど、無理はしないでね」
「愛する弟に、心配させたくないもの。無理はしないわ」
なぜか、デイビスの顔が真っ赤に染まった。
「食事にしましょう!」
誤魔化されたような気もするけど、お腹も空いてるし席につこう。
席に座ると、いつもより豪華な料理が運ばれて来た。
「朝から豪勢ね!」
「体力をつけてもらいたくて、料理長に頼んだんだ」
お父様……気持ちは嬉しいけど、朝からガッツリし過ぎてるわ。
ビーフシチューにローストビーフ、チキンソテーにポークチョップ……野菜が食べたい。
「最近、ミシェルは痩せたものね。沢山食べて、元気になるのよ!」
お母様……元気になる前に、胸やけしそうなんだけど。
「なんで全部、お肉なんですか!? 姉上は、魚が好きなのに!!」
「そうだったな! 体力をつけるには、肉が一番だと思ったんだ!」
「お魚料理を用意しましょう!」
……こんな家族だったっけ?
どこか抜けてるような気がする。
「学園に遅刻してしまいます。そろそろ、ウィルソン様が迎えに来てくれていると思うので行きますね。ご馳走様でした!」
急いでパンを一つ食べ、食堂から出る。
庭園に向かって歩いていると、なぜか後ろからデイビスが着いてくる。
「どうしたの?」
「姉上が心配なので、僕が学園まで送るよ」
「デイビスが? ウィルソン様が迎えに来てくれていると思うから、その必要はないわ」
デイビスは、少し不機嫌な顔をした。
「殿下には、姉上を守れない」
守るって、私が倒れたことを言っているのだろうか。倒れたのは、ウィルソン様のせいじゃない。
「ありがとう。でもね、私は守られなければならないほど、弱くはないの」
デイビスの頭を撫でると、悲しそうな表情を見せた。本気で私を、守ろうと思ってくれていたみたいだ。弟って、可愛い!
「僕は、いつだって姉上の味方だからね!」
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