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16、ヤキモチ?
しおりを挟むどうしてアーサー様が、この教室にいるのだろう。そしてなぜか、彼は私の方に向かって歩いて来る。
「ミシェル嬢、話すのは初めてだね」
ヒロインと出会うはずの彼は、私の目の前に立ち、私の名前を呼んだ。
びっくりして、座るタイミングを逃したまま立ち尽くす。私がアーサー様を苦手なことには、気付いているはず。生まれた時から私には婚約者が居たこともあり、アーサー様から話しかけられたこともなかった。それなのに、今更どんな用があるというのか……
「教室、間違えていませんか?」
名前を呼んだのだから、ローリーと間違えたわけじゃないことくらい分かっていた。それなのに、私は何を言っているのだろう……
「間違えていないよ。君に、会いたくて来たんだ」
そのセリフは、アーサー様がヒロインに向けて言ったゲームのセリフだった。
……私は、悪役令嬢のはず。これ、おかしくない?
「私は、アーサー様とお話することはありません。どうぞ、お引き取りください」
出来れば、攻略対象の相手とあまり関わりたくはない。ウィルソン様は仕方ないにしても、他の人と関われば、破滅するリスクが高くなる。そうじゃなくても、アーサー様とは関わりたくない。
「随分、冷たいね。それも、仕方ないのかもしれない。だけど、俺は諦めないよ……もう二度と失いたくはないから」
そう言って、アーサー様は教室から出て行った。
諦めないとは? それに、最後の言葉は、どういう意味なのだろうか。まだ記憶が戻っていないだけで、アーサー様と何かあったとか? そんなはずはない。私は生まれた時から、ウィルソン様の婚約者だ。前世の記憶がないミシェルが、婚約者を裏切るとは思えない。
アーサー様の真意が分からないまま、午前の授業が終わった。
「ミシェル!」
子犬のように、嬉しそうに手を振りながら迎えに来たウィルソン様。尻尾が見えるような気がする。
イスからゆっくり立ち上がると、近付いてきたウィルソン様に両手をギュッと握られた。
「あの……恥ずかしいので、やめていただけますか?」
人前で手を繋ぐのも恥ずかしいのに、教室でこんな風に両手を握られたら、生徒達の注目の的だ。
「恥ずかしがっているところも、可愛い」
「……」
余計に恥ずかしいからやめてー!
いくら婚約者だと言っても、なんでこんな恥ずかしいセリフを人前で言えちゃうの!?
裏がないと分かったからか、これが本心なのだと思うと顔が真っ赤になってしまう。だって私、男性に免疫がないんだから……
「耳まで真っ赤だ。本当に可愛い」
「な、な、な、何を!?」
わざわざ耳元で囁かれ、びっくりし過ぎてどもってしまった。彼を睨みつけると、爽やかな笑顔で返された。完全にからかわれてる。
「ウィルソン様、早く食堂に行きましょう!」
これ以上、からかわれるなんて嫌。みんなの視線を感じながら、早足に教室から出て行く。
「お似合いですね!」
「お二人ともお美しいです!」
「さすが、ミシェル様です! 照れていらっしゃるお顔も、美しいです!」
取り巻き三人組……やめて~!!
教室から出ても、早足で食堂へ歩いて行く。後ろから、クスクスと笑いながらウィルソン様は素直に着いて来た。納得がいかない私は、立ち止まって振り返り、ウィルソン様に近付いた。
「どうして、わざわざ人前であんなことをするのですか!? 私が困るのが、そんなに楽しいですか!?」
優しい人だと思った私が、バカみたいに思えた。
「おかしいな。僕も、遠慮しないと言ったはずだよ。君は僕のものだ。それを、みんなに分からせているだけだよ」
ウィルソン様は、独占欲が強いのかな……?
遠慮しないとは言われたけど、まさかこんなあからさまに自分のもの扱いして来るなんて思わなかった。
「ウィルソン様と私が、婚約していることはみんな知っていると思いますよ?」
「みんな知っているはずなのに、ミシェルに近付く男がいるのはなぜだろうか」
……もしかして、アーサー様のことを言っているの? でも、どうしてウィルソン様が知って……ジョナサン様か。
「私を、信用してくださらないのですか!?」
自分でいうのもなんだけど、信用出来るわけがない。散々、冷たくしていたのに、何を信用しろというのか……それでも、また他の人に自分のものアピールされるのは困るから、負けてなるものか!
「君のことは、信用しているよ。君は魅力的だから、他の男を信用していないだけだ」
一点の曇りもない瞳で、私の目を見つめながらそう言ったウィルソン様。ダメだ。勝てそうにない。
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