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14、仲直り

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 「お嬢様、どうして殿下がそんなにお嫌いなのですか? お二人は、あんなに仲がよろしかったのに」

 仲が良かった……?
 私は、ウィルソン様と仲が良かったというの? それなら、私の態度がおかしいことに気付いているはず。どうして、何も言ってこないの? やっぱり、彼は何か隠してる。

 「ザックから見て、ウィルソン様はどんな方に見える?」

 ザックは掃く手を止めて、少し考えてから答えた。

 「そうですね……完璧な方のように思います。容姿もそうですが、立ち居振る舞いも美しく、学問も剣術も素晴らしくて、民に対しても思いやりを持っておいでで、何よりお嬢様を大切にしてくださいます。昔は、お嬢様がよく邸を抜け出されて、その度に殿下が見つけてくださいました」

 話だけ聞いていたら、本当に完璧な人みたい。だけど、その完璧な容姿が問題なのよ。それが、ウィルソン様を信頼出来ない理由。せっかく転生したんだから、好きな人と結ばれたい。だって私は、莉音の時から一度も付き合ったことがないのだから。バッドエンドにならないようにしつつ、愛する人を見つける。欲張りだと言われても構わない。女の子は、ワガママのものだもの!

 夕食の時間になると、セシリーが迎えに来た。服をドロドロにした私は、セシリーに怒られながら部屋に戻って着替えた。

 食堂へ行くと、三人は楽しそうに会話をしながら夕食をとっていた。私は挨拶もせずにテーブルに着き、料理が来るのを静かに待った。
 少しして、スープが運ばれて来た。スプーンで掬い、一口飲んだあと、スプーンを置いた。

 「デイビス、私のことを見なくていいから、そのまま聞いて。良い姉じゃなくてごめんね。あなたを、ずっと苦しめていたことにも気付けなかった。あなたを、愛してるわ。
 お父様もお母様も、私のワガママに付き合ってくれてありがとう。今まで、みんなを苦しめてしまってごめんなさい」

 どれが正しいのか、私には分からない。このままでいることも考えた。だけど、それではデイビスを苦しめたままではないかと思った。私が望んだから、デイビスはずっと芝居をしてくれていた。これ以上、重荷を背負わせたくない。私が始めたことだから、私が終わらせないといけない。

 「お腹空いた~!」

 スプーンを持ち、残りのスープを飲み始める。私が話していたからか、気を使って中に入って来なかったメイド達が、次々に料理を運んで来る。その料理を、頬張っていると、

 「ゆっくり食べなさい」
 「そんなに急いで食べたら、喉に詰まらせてしまうわよ」
 「姉上は、昔から変わりませんね」

 三人は、笑顔で私を見ていた。やっと家族になれた気がする。

 「私はミシェル・バークリーよ。変わるわけないじゃない」

 本当は、少し変わってしまったけど、家族への愛情は変わっていない。家族で会話しながら食事をすることが、すごく幸せなことだと思えた。

 食事を終えて、お風呂にも入って、部屋に戻る。家族と久しぶりに話せたからか、ここが私の居場所だと思えた。
 いきなり悪役令嬢になって戸惑ったけど、生まれた時からミシェルとして生きていた。今の私には、二人の記憶がある。まだミシェルの記憶を全部思い出したわけじゃないけど、何も覚えていなかった時に比べたら一歩前進だと思う。もしかしたら、莉音の記憶が戻った理由は、ミシェルが破滅することを避けるためなのかもしれない。そう考えると、ゲームが始まる入学式の朝に記憶が戻ったことの説明はつく。
 ゲームをやり込んでいたから、ある程度のことは分かるけど、ミシェルは悪役令嬢にならなかったのに、破滅するというのだろうか。これから悪役令嬢になるなんてことは、絶対にありえない。私はそんなアホじゃないからだ。
 私は学園を辞めたくないし、邸を追い出されたくないし、何よりも死にたくない! 

 ゲームでの、ミシェルの破滅条件は、ウィルソン様に婚約を破棄されるところから始まる。ヒロインは、攻略対象者に次々出会い、その攻略対象者がミシェルを追い詰めて行く。ミシェルはヒロインを虐めていたことを、ウィルソン様と他の攻略対象者に生徒全員の前で暴露される。そして、学園に居られなくなる。

 というのが、ゲームの流れなんだけど、そもそもウィルソン様は私との婚約を破棄しそうにない。それでも私が破滅するとしたら、ローリーが何かするとしか思えない。ものすごく私を、嫌っているようだしね。ローリーには悪いけど、私は悪役令嬢として破滅する気はない。今度こそ、幸せになりたい。

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