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13、ウィルソン様には裏がある

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 使用人達は、私を恐れていたわけではなかった。私も両親もデイビスも演技をしていたから、どう接したらいいのか、分からなかったようだ。私の行動が、この邸のみんなに迷惑をかけていた。
 
 記憶は少し戻ったけど、ウィルソン様のことはさっぱり思い出さない。そんなに、大切な存在ではないからかもしれない。

 セシリーが仕事に戻ると、部屋の中を見渡す。確かに、私の部屋だけど、莉音としての記憶の方が鮮明に残っているからか、どこか落ち着かない。机の引き出しにしまった宝石類を見ても、やっぱり興味がない。もう前のミシェルには、戻ることは出来そうにないみたい。
 家族のことは、これから少しずつ修復して行こう。今なら両親もデイビスも、本音で話せるかもしれない。だけどまだ、どうしたらいいか分からない……

 ということで、着替えをすませると庭園に向かった。今日も、雑草が私を待っているから!

 庭園に出ると、今日もザックが綺麗に手入れをしていた。

 「今日もご苦労様」

 声をかけると、ザックは振り返って笑顔を向けてくれた。

 「ミシェル様、ありがとうございます」

 私は雑草を抜き、ザックは掃き掃除をした。何だか、懐かしい感じがする。昨日も同じことをしたのに、今日だけそう感じるのは、ミシェルの記憶が少しだけ戻ったからだろうか。
 私はザックと、いつも一緒に庭の手入れをしていたような気がする。そしていつも、セシリーに怒られていた。結局、記憶があってもなくても、同じことをしていたということは、やっぱり私はミシェル・バークリーだということだ。

 「お嬢様! 何をなさっているのですか!?」

 「やっぱり来たのね。昔は一緒に、庭の掃除をしたじゃない」

 子供の頃は、セシリーとザックと三人で庭の掃除をした。両親は私が何をしても怒らないから、やりたい放題だった。こんなじゃじゃ馬な娘を溺愛するなんて、お父様もお母様も甘いわね。

 「子供の頃とは違います! ミシェル様は、この国の王妃になられるお方なのですよ!? こんなことをしていたら、殿下に嫌われてしまうかもしれません! いくら殿下が、ミシェル様を溺愛しているからと言って、油断は禁物です!」

 「へ? 溺愛って?」

 あまりにありえないことを言われて、きっと間抜けな顔になっていると思う。ウィルソン様が、私を溺愛?? そんなわけあるはずがない。

 「気付いて、いらっしゃらなかったのですか!?」

 「気付くって、何を? きっとウィルソン様の行動は、何か裏があると思うのよね。今日だって、甘い言葉を囁いて、私を油断させようとしていたわ」

 何故か、セシリーもザックも呆れた顔をした。二人共、きっとウィルソン様の魔性の魅力に騙されているのね。ゲームの攻略対象であるウィルソン様は、魔性の魅力を持っていた。彼が笑顔を見せるだけで、女性はみんな好きになってしまう。正直言うと、私もゲームの中のウィルソン様が大好きだった。ウィルソン様と先輩が似ていたから、私は勝手に先輩もウィルソン様みたいなのだと勘違いしていたのかもしれない。勝手にこうだと決めつけて、勝手に幻滅をした。何だか、自業自得じゃないかと思えて来た。だけど、『ブス』なんて言っちゃう男はクズよ! 女の敵だわ!

 「あの……お嬢様? 殿下は本当に……」
 「それ以上は、言わないで! ウィルソン様の話は、もういいわ。私は雑草を抜くことに集中するから、夕食の時間になったら呼びに来てちょうだい。止めても無駄だからね」

 私の言葉に困惑しながら、セシリーは邸の中に戻って行った。
 セシリーには、分からないこともある。ウィルソン様の顔が違うなんて話したところで、理解出来るはずがない。それに、あんなにツラい思いをして来たセシリーに、ここはゲームの世界だなんて言えるわけがない。

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