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アンソニー様が一騎討ちをしました。

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 「何!?」

 アンソニーがベナミンの辺境伯になって5年、1度も国境を突破された事はなかった。
 ベナミンの辺境伯になれたのは、ジョアンナのお陰だったが、アンソニーはそれも自分の力だと思っていた。

 「私が出る!」

 兵士は思った。
 アンソニーが出るから、どうだというのか。皆が欲しているのは、精霊の加護の力。決してお前などではない……と。
 だが、今更何を言っても後の祭りだ。きっと援軍が来る! そう信じて戦うしかなかった。

 5年間一度も突破された事のない国境を突破された事で、軍の士気は低下していた。
 防戦一方で、攻撃すら出来ずにジリジリと追い詰められていく。
 ベナミンが落とされたら、この国は終わる……それほど重要な役目をアンソニーは担っていた。

 町の中心部まで敵兵が進軍して来た時、

 「これ以上は、進ませんぞ!」

 アンソニーが颯爽と馬に乗って現れた!
 戦場の悪魔の登場に、敵兵は一瞬たじろぐ!  が、

 「やっとお出ましか。戦場の悪魔。」

 前に出てきたのは、クーパー将軍だった。
 いつもなら、こんな無謀な事はしない。今の状況で、断然有利なのだから、わざわざ将軍自ら前に出て来なくても、小隊の隊長クラスで事は足りる。それでも姿を表したのは、自らが、戦場の悪魔と恐れられたアンソニーを討ち取りたかったからだ。

 「元とはなんだ!? 私は正真正銘、『戦場の悪魔』だ!」

 自ら名乗ってくれた事に、クーパー将軍は感謝した。

 「その『戦場の悪魔』の首、私が頂くとしよう!」

 ゼラフ軍対ライデッカー軍のはげしい激突! 
 その中央で、アンソニー対クーパー将軍の一騎討ちが始まった!

 と、思ったら……

 クーパー将軍の振り下ろした剣をアンソニーがガードしたのだが、振り下ろされた剣の重さに耐えきれず……

 ガンッ……ズザザザザ……

 アンソニーは馬上から落下した!

 「ひぃぃぃぃぃぃッ!! こんな強い奴に勝てるか!! 助けてぇぇぇ!!」

 アンソニーはそのまま、一目散に逃げて行った!

 あまりに予想していなかった展開に、ゼラフ軍も、ライデッカー軍も、そしてクーパー将軍も、何が起きたのか分からず、呆然としていた。

 数分間沈黙が続き、最初に口を開いたのはクーパー将軍だった。

 「『戦場の悪魔』が逃走したぞ! 追え!決して逃がすな!」

 一騎討ちで勝利するはずが、まさか逃げられるとは思ってもみなかったクーパー将軍は、苛立っていた。
 精霊の加護の力がなくなったのを知っていたのだから、逃げるであろうことを予測するべきだった。
 まさか誰1人動けなくなるほど、呆気に取られるとは……。

 だが、戦況はゼラフ軍が優勢なのは変わらず、大将だったアンソニーの逃亡で勝利は確実!

 かに思えたが、

 「全軍! ベナミンを取り囲み、隊列を組め!」

 一際大きな声が、アンソニーの残していったライデッカー軍と、王都から引き連れてきたマトヌーク軍に命を下した!

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