4 / 15
公爵令嬢レノン
しおりを挟む「リサ様、お風邪を引いてしまいます!」
部屋に戻ると、ルビーが急いでタオルと温かいお茶を用意してくれた。
「ありがとう、ルビー。」
きっと一生、この生活が続くのでしょう。
コンコン……
陛下がいらっしゃったのでしょうか……
「少し、お待ちください!」
私は急いで着替えを済ませ、ドアを開けた。
立っていたのは、陛下ではなく見知らぬ女性でした。
「いきなり、申し訳ありません。
先程、お茶会に出席していたのですが、リサ様の事が心配になり、訪ねて来てしまいました。」
お茶会に……
一番端の席に座っていらした方ですね。
「ご心配、ありがとうございます。
まさか、訪ねて来てくださる方がいらっしゃるとは思っていなかったので、少し驚いてしまいました。
お入りください。」
女性を部屋へと招き入れ、ソファーに座ってもらった。
「私は、レノン・ドレイク。公爵令嬢です。」
確か、ドレイク公爵のご令嬢はまだ未婚のはず……
「今日のお茶会は、夫人の集まりだと聞いていたのですが、レノン様は未婚でいらっしゃいますよね?」
「ええ、その通りです。
私は、陛下の3人目の側室になる予定だったので、王室の集まりには呼ばれています。」
3人目のって……じゃあ、私はレノン様のかわりに!?
「そうだったのですか……申し訳ありませんでした。」
「謝る必要はありません。
正直、側室にはなりたくなかったので、リサ様のおかげで助かりました。」
レノン様は、そう言ってニッコリ笑った。
「レノン様は、どうして側室になる事に?」
なりたくなかったのなら、ご両親に無理やり側室にさせられるところだったのでしょうか?
「陛下には、お子がいません。
王妃様をお迎えしてから7年、最初のご側室のハンナ様をお迎えしてから5年、2人目のご側室のエイリーン様をお迎えしてから2年……誰もお子を授かってはいない。
臣下達は事態を重く見て、3人目のご側室を迎える事にしたのです。そして選ばれたのが、若くて健康な私だったというわけです。」
そんな事情があったのに、陛下は私なんかを側室にしてしまったのですね。
コンコン……
ノックをする音が聞こえた。きっと、陛下ですね。
ドアを開けると、バラの花束を抱えた陛下が立っていました。
「君に似合うと思ったのだが、花は嫌いか?」
驚いている私に、陛下が問う。
「いいえ、大好きです。ドアを開けたら、突然目の前がお花でいっぱいになったので、驚いてしまいました。」
「それならばよかった。
……客が、来ているのか?」
レノン様に気付き、陛下は中に入るのをためらっているようです。
レノン様は静かにこちらに近付き、陛下に挨拶をした。
「陛下、お久しぶりです!」
「……誰だ? 」
陛下……それは、あまりに失礼です……
「お忘れですか? 側室になるはずだった、レノン・ドレイクです。」
「ああ……そうか。その事は、大臣達が勝手に決めた事だ。
悪いが、席を外してくれるか?」
陛下はレノン様に、出て行くように言った。
「陛下!? そんな言い方、失礼です!」
「かまいません。突然押しかけてしまい、申し訳ありませんでした。
陛下、リサ様、また近いうちにお会いしましょう。」
レノン様はそのまま帰って行きました。
「何かされなかったか?」
陛下は私がレノン様に、虐められていたのではと思ったようです。
「レノン様は、私を心配して来て下さっただけです。先程の陛下の態度は、褒められたものではありませんよ!」
「あははっ! 説教されてしまった。
こんな風に私にハッキリものを言う女性は、リサしかいない。」
「……無礼な事を、申しました。申し訳ありません。」
「いや、いい。
君のそんなところが、気に入っている。そのままでいて欲しい。」
あんなに自己主張が強い王妃様なのに、陛下には何も言わないのでしょうか……
「陛下がそう仰るのでしたら、これからは私の元にお越しになるのはお控えください。」
先程レノン様から聞いたお話が、頭から離れません。王妃様も側室もいるのに、未だにお子を授かっていないというのは、王室にとっても国にとっても由々しき事態です。
自分の事で精一杯で、そんな大切な事にも気付けなかった……
私にお子を授かればいいのですが、陛下は私を抱こうとはしてくれません。
陛下の側室になると決めた時から、私は覚悟をしていました。側室とは、そういうものだと思います。
カイト様の事があるからなのか、私に魅力がないからなのかは分かりませんが、抱けない私の元へ来るより他の方と夜を共にした方がいいに決まっています。
「……私が、嫌いか?」
「そんな事、あるはずありません!!」
陛下が私を元気付けてくださったから、私は自分を保っていられたのです。
カイト様が行方不明になった時、私は全てを失ったように感じて、自害しようとも考えました。
そんな私に『カイトは生きている! 君が信じなくてどうするんだ! 必ず見つけてみせるから、心を強く持ちなさい!! 』そう言ってくださいました。
「陛下が居てくださったから、私は今生きているのです。そんな悲しいことを、仰らないでください!
陛下にお子が出来ないことを、皆さん心配しているようです。」
「何か言われたのか……
子が出来ない理由は、分かっているから問題はない。」
理由は分かっているとは、どういうことなのでしょうか?
58
お気に入りに追加
1,724
あなたにおすすめの小説
完結 裏切りは復讐劇の始まり
音爽(ネソウ)
恋愛
良くある政略結婚、不本意なのはお互い様。
しかし、夫はそうではなく妻に対して憎悪の気持ちを抱いていた。
「お前さえいなければ!俺はもっと幸せになれるのだ」
私と結婚したいなら、側室を迎えて下さい!
Kouei
恋愛
ルキシロン王国 アルディアス・エルサトーレ・ルキシロン王太子とメリンダ・シュプリーティス公爵令嬢との成婚式まで一か月足らずとなった。
そんな時、メリンダが原因不明の高熱で昏睡状態に陥る。
病状が落ち着き目を覚ましたメリンダは、婚約者であるアルディアスを全身で拒んだ。
そして結婚に関して、ある条件を出した。
『第一に私たちは白い結婚である事、第二に側室を迎える事』
愛し合っていたはずなのに、なぜそんな条件を言い出したのか分からないアルディアスは
ただただ戸惑うばかり。
二人は無事、成婚式を迎える事ができるのだろうか…?
※性描写はありませんが、それを思わせる表現があります。
苦手な方はご注意下さい。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。
頭の緩い殿下は、どうやら私の財産を独り占めできると思っているらしいので、ぶん殴ることにした。
和泉鷹央
恋愛
イゼッタは女公爵である。
まだ十七歳と若い彼女は、二年前に家族が他界してしまい実家であるバーンズ公爵家の当主となった。
王太子ナルシスと婚約をしたのは、それからすぐのこと。
十歳年上の次期国王候補は、隣国との国境沿いにある自由貿易地域によく出かけては数週間も戻らない日々。
ナルシスはその街にある公営カジノでギャンブルに熱を上げていた。
対戦相手は隣国の若き不動産王。
やがてすべてを巻き上げられた彼は、借金のカタとして婚約者であるイゼッタを差し出すことを認めてしまい……。
他の投稿サイトでも掲載しています。
(完結)旦那様、あなたが私を捨てるのではなくて、私があなたを捨てるのですわ!
青空一夏
恋愛
私はイレーヌ・ラエイト。ラエイト男爵家の1人娘で、ウィンザー侯爵家に嫁ぐことになった。でもこの方は、初夜で「君を愛することはない」というような愚か者だった。
私はとてもドライな性格で、結婚に夢は抱いていない。愛人が欲しいという望みも承諾したけれど、夫は図に乗ってさらに・・・・・・
これは愚かすぎる夫をヒロインがざまぁする物語。
完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。
音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。
アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……
(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。
青空一夏
恋愛
グレイスは大商人リッチモンド家の娘である。アシュリー・バラノ侯爵はグレイスよりずっと年上で熊のように大きな体に顎髭が風格を添える騎士団長様。ベースはこの二人の恋物語です。
アシュリー・バラノ侯爵領は3年前から作物の不作続きで農民はすっかり疲弊していた。領民思いのアシュリー・バラノ侯爵の為にお金を融通したのがグレイスの父親である。ところがお金の返済日にアシュリー・バラノ侯爵は満額返せなかった。そこで娘の好みのタイプを知っていた父親はアシュリー・バラノ侯爵にある提案をするのだった。それはグレイスを妻に迎えることだった。
年上のアシュリー・バラノ侯爵のようなタイプが大好きなグレイスはこの婚約話をとても喜んだ。ところがその三日後のこと、一人の若い女性が怒鳴り込んできたのだ。
「あなたね? 私の愛おしい殿方を横からさらっていったのは・・・・・・婚約破棄です!」
そうしてさらには見知らぬ若者までやって来てグレイスに婚約破棄を告げるのだった。
ざまぁするつもりもないのにざまぁになってしまうコメディー。中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。途中からざまぁというより更生物語になってしまいました。
異なった登場人物視点から物語が展開していくスタイルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる