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10、イレーヌの真実
しおりを挟む自分勝手で、呆れる。
最初から……付き合って欲しいと告白して来た時から、私との将来は考えていなかった。だから、私の存在を隠し続けていたのだろう。
私が家族から嫌われていることも、彼は知っていた。付き合っているからと、父が騒ぎ立てることはない。伯爵令嬢という時点で、私と婚約するつもりはなかったのだ。それなのに、「他の男のものになるのは耐えられない」なんて、あまりにも身勝手な理由。イレーヌのことも、そんな理由で口説いていたなんて……。リアム殿下は、妹のイレーヌを溺愛しているという噂を聞いたことがある。王家との繋がりが、欲しかったようだ。
私は、男性を見る目がなかった。
「なんて、くだらない理由なのでしょう」
本当にくだらない。
ダグラス様は、私に触れようと手を伸ばす。
「また殺すのですか?」
自然エネルギーに触れる直前で、彼は動きを止める。
「いや、君は殺しても死なないだろう? あの毒は、それを確かめたかっただけだ。思った通り、死ななかった。俺は、考え方を変えたんだ。イレーヌと君は、仲がいい。君なら、イレーヌも許してくれる。ジェシカ、俺の愛人にしてやる」
信じられないことを、平然と口にした。
この人は、自分が特別だとでも思っているのだろうか。イレーヌも私も、ダグラス様のことなど愛していない。どこからそんな自信が来るのか……。
「あなたのことなど、愛しておりません。私には、好きな方がいます。気付いていらっしゃいますよね? だから、毒を贈った時利用したんですよね? それに、あなたはもう終わりです。あなたが、私を殺そうとした証拠があります」
証拠などなかった。ただの、ハッタリだった。
「ふざけるな!! 君は、俺だけのものだ!! 分からないなら、分からせてやる! どうせ、殺しても生き返るんだろう? 分かるまで、殺してやる!!」
余裕を見せていたダグラス様の表情が、変わった。彼は私に詰め寄り、私の首に手をかけた。
急に呼び出したのだから、ダグラス様が武器を持っていないのは分かっていた。私を殺すとしたら、首を絞めるだろうと予想がついた。
だから私は、他の場所とは違い、首だけは自然エネルギーを薄く纏わせていた。傍から見れば、絞められているのだと分かるように。けれど、どんなに絞められたところで、私の肌には届かない。
「そこまでだ!!」
木の影に隠れていたリアム殿下と殿下の護衛の人、そしてイレーヌが姿を現す。
護衛よりも早く、リアム殿下が私からダグラス様を引き剥がすと、護衛の人が取り押さえた。殿下は私の方を向くと、ムスッとした顔をしながら私を見た。
「こんな危険なことをするなら、君のお願いはもう聞かないから」
リアム殿下と護衛とイレーヌには、木の影に隠れていて欲しいと頼んでいた。殿下には、証人になってもらう為、護衛にはダグラス様を捕まえてもらう為、イレーヌには私の全てとダグラス様の本性を知ってもらう為。リーデルが本当にいいのか聞いたのは、私の力を他の人が知ってしまうことだった。私は、殿下もイレーヌも、ついでに殿下の護衛の人も信じている。だから、大丈夫だと答えた。
皆さんには、ダグラス様が私に触れるまでは、絶対に出て来ないで欲しいとお願いしていた。そのことを、リアム殿下は怒っているようだ。
「すみませんでした。ですが、お聞きになった通り、私は死にません。正確には、死んでも生き返ります。ですから……」
「そういうことじゃない。僕は、君が傷付けられることが嫌なんだ」
いつも無表情なリアム殿下の顔が、怒っていたかと思えば心配そうな表情になる。そして殿下に言われた言葉で、私の顔は真っ赤になる。
「お兄様が、そんな表情をするのを初めて見ました。ジェシカも、真っ赤になってるし! 私の大好きな二人が想いあってるなんて、幸せ~!!」
イレーヌは、リアム殿下と私の手を取り喜んでいる。ダグラス様のことは、もうどうでもいいようだ。
「ジェシカ! 君は俺のものだからな!! 絶対に逃がさない!!」
拘束されても、目を血走らせながらそう叫び続けるダグラス様。
「黙れ!! 殿下、この者を連行いたします!」
護衛がダグラス様を連行し、やっと全てが終わったのだと胸を撫で下ろすと……
「イレーヌ!!」
イレーヌが意識を失って倒れた!
「イレーヌ!? どうしたの!?」
イレーヌはリアム殿下に抱きかかえられながら、ぐったりしたまま動かない。
「私があんなものを見せたせいで……」
「違う。君のせいじゃない。イレーヌは、もう長くないんだ……」
リアム殿下はイレーヌを心配そうに見つめながら、抱きかかえたまま立ち上がる。
「イレーヌが長くないとは、どういうことですか!?」
体調が良くなったから、この学園に来たはず。
いつだって、私より元気いっぱいだった。
「最後に学園生活を送りたいというのが、イレーヌの希望だったんだ。寮の部屋に連れて行く。君もおいで」
リアム殿下は、イレーヌを抱きかかえたまま歩き出した。
私は何も分かっていなかった。イレーヌは、命懸けで学園生活をしていた。この先も、イレーヌとずっとずっと一緒なのだと疑いもしていなかった。
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