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8、奇跡と代償

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 「……ん……」

 私……また、生き返ったの……?

 「……マーサ! マーサは!?」

 マーサが倒れている姿を見て、心拍が跳ね上がる。
 急いでマーサの元に駆け寄ると、マーサは息をしていなかった。

 「マーサ……マーサマーサマーサ! 目を覚ましてよ! やだ! やだよっ……嫌だ!! お願いだから、死なないで!! いやーーーーーーっっっ!!!」

 マーサの身体を抱きしめた時、彼女の身体が白い光に包まれた。
 完全に息をしていなかったはずなのに、息づかいが聞こえて来る。顔には生気が戻り、光が消えると同時にマーサは目を覚ました。

 「……お嬢……様……?」

 「マーサ……!?」

 何が起きたのか分からなかったけれど、そんなのどうでも良かった。マーサが生きている、それだけで十分だ。

 「私……どうしたのでしょう?」

 「毒を飲んで倒れたの」

 マーサは、紅茶を毒味していた。
 護衛に贈り物を届けて欲しいと頼んだのは、リアム殿下本人ではなかったからだ。通常なら、部外者が立ち入ることの出来ない学園内で、本人ではなく使用人が贈り物を届けたからといって、毒が入っているなんて疑ったりはしない。むしろ、使用人が届ける方が普通だ。
 だがマーサは、ダグラス様が侵入して来たことで警戒していた。
 マーサが毒味したのは、ほんの少しの量だったからか、直ぐに症状が出なかった。そのほんの少しの量でも、命を奪うほど殺傷能力の強い毒だったということだ。つまり、確実に殺そうとした。
 リアム殿下が、私を殺そうとしたなんて思っていない。これは、ダグラス様の仕業だ。

 「お嬢様、私は死んだのですよね?」

 マーサは、全てを覚えていた。私が、死んだことも。
 全部、話すことにした。もしかしたら、私を化け物だと思うかもしれない。それでも、マーサには知る権利があると思った。

 「実は……」

 最初に殺されたあの丘の出来事から、毒を飲んで死んだのに生き返ったことや、マーサに触れたら息を吹き返したことを全て話した。マーサは何も言わずに、黙って私の話を聞いていた。
 話が終わると、はぁ……と大きなため息をついた。

 「……私、怒っています」

 「ごめんね、マーサ」

 「お嬢様が、謝る必要はありません! ダグラス・ロイル様に、怒っているのです! 何度も何度も、私の大切なお嬢様を殺したなんて!! 許せません!!」

 拳を握り締めながら、激怒するマーサ。

 「私が、怖くはないの?」

 「お嬢様は、私の知っているお嬢様です! 無事で本当に良かった……。お嬢様を救っていただいた不思議な力に、感謝してもしきれません! それに、私を救ってくださったお嬢様にも、感謝しております」

 自分でもよく分からない力なのに、マーサはその力に感謝してくれた。私も、マーサを救ってくれたこの力に感謝している。
 だけど、私のせいでマーサを危険な目にあわせてしまった。このままでは、また同じことが繰り返される。もうダグラス様の、好きにはさせない。そう心に決めた。


 その日の深夜、不思議な夢を見た。

 『僕の名前は、リーデル。覚えておいて』

 夢の中で、そんな声が聞こえた。夢の中なのに、私は眠っている。目をつぶったまま、声だけが聞こえた。声を出すことは出来なかったけれど、怖いという感覚ではなくて、なんだか心地よかった。

 翌朝目を覚ますと、昨日までの自分とは違っている気がした。ダグラス様から逃げないと決めたからか、昨日の夢のせいなのか……。
 あの不思議な夢は、一体なんだったのだろう。そう思いながら、ベッドを降りようとすると……

 「………………え?」

 頭の横に、羽の生えた小さな人間のようなものが、ふわふわと浮いている。その生き物? を、じっと見つめたまま固まっていると、生き物はにっこりと笑った。

 な、な、な、な、な、何なのこれ!?
 大きな虫!? 虫が、笑ったりする!?
 頭をフル回転して考えるけれど、全く分からない。

 『おーい、大丈夫?』

 話した……!?
 話したのだから、虫ではないようだ。
 
 「何かの呪いで、小さくなったとか?」

 そんなわけがないのは、分かっていた。
 幼い頃に読んだ絵本に、似たようなものがあった。だけど、それを認めてしまったら、いよいよ自分の頭がおかしくなったのではと思えてくる。

 『呪いなんて、かかっていないよ。僕は、妖精だよ』

 やっぱり、私の頭がおかしくなったようだ。三回も死んだのだから、仕方ないのかもしれない。とうとう、幻覚が見えるようになったみたいだ。

 「妖精なんて、いるわけがない。これは幻覚よ。目をつぶってあけたら、きっと消えて……」

 消えない。何度目をつぶってみても、全然消える気配がない。

 『気が済んだ? そろそろ、本題に入ってもいいかな?』

 「……どうぞ」

 とりあえず、話を聞いてみることにした。思えば、最近不思議なことばかり起きている。その理由が、分かるかもしれないと思った。

 『君は、精霊に愛されている唯一の人間なんだ』

 精霊に愛されているというのは、何となく分かる気がした。テリココ草が元気になったのは、精霊の力なのだと思えば納得がいく。
 自分がそんな大それた人間だとは思っていないけれど、三回も生き返ったら、『精霊に愛されている』と言われてもすんなり受け入れられた。

 『最初の死は、君の力だけでは生き返ることが出来なかったから、僕達が力を貸したんだ。君は最初の死で、自分自身の力を覚醒させた。その力は、癒す力』

 「その力のおかげで、マーサを助けることが出来たの?」

 全てが妖精さんの力だったと言われた方が、楽だった気はするけれど、全部の力を私のものではないと否定するには、不思議なことが起こり過ぎていた。

 『彼女を救った力は、二度目の死で得たものだ。一度目の死だけだと、君の蘇生は出来ても、他の人を蘇生することは出来なかった』

 私が二度死んでいたから、マーサを救うことが出来たということだった。まさか、二度死んでいたことに感謝するとは思わなかった。

 「三度目の死で、妖精さんが見えるようになったということ?」

 『簡単に言うと、そういうことだね。三度目の死で、君は自然界の力を自由に操ることが出来るようになった。マーサを蘇生した時の光や、僕の姿が見えるようになっただけじゃなく、自然エネルギーを操り自分に纏わせれば、誰も君を傷付けることは出来ない。まあ、自由に操るには練習が必要だけどね』

 それはまるで、ありえないような夢のような話だった。こんなに都合のいい話が、あるわけない。

 「私は力を使う度に、何を失っているの?」
 
 終始笑顔だった妖精さんから、笑顔が消えた。

 『鈍感なのかと思ったら、案外鋭いんだね。精霊に愛されているからといっても、君は人間だから、大きな力を使うには代償が必要になる』

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