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4、お茶会は嫌い

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 翌日、お茶会が開かれるローガン侯爵のお邸へとお邪魔しました。

 「お招き頂き、ありがとうございます」

 ローガン侯爵夫妻にご挨拶をして、中庭に用意されたテーブルに着きました。
 沢山並べられたテーブルを、良く手入れされている花壇の花々の香りが包み込んでいて、とても心地のいい空気が流れています。

 「リック様、お久しぶりです」

 リック様に話しかけて来たのは、とても可愛らしいご令嬢です。妻の私が隣りに居るのに、挨拶どころか視線も向けて来ません。

 「ああ、君はハーメル子爵の……」

 リック様は、ご令嬢の名前を忘れたようです。

 「エメリア様ですよね。お噂通り、美しい方ですね」

 エメリア様は、私が話しかけても全くこちらを見ようとはしません。分かりやすい方ですね。

 「リック様に、ずっとお会いしたかったんです! お会い出来ない間に、まさかご結婚されてしまうなんて……」

 妻がここに居るのに、よくそんな事が言えますね……
 エメリア様には、私なんて眼中にないようです。こんなに美しい方からこのような事を言われたら、リック様の鼻の下が伸びてしまうのでは……と思ったのですが、リック様はエメリア様には全く興味がないようです。

 「なぜですか? 別に会わなくても、なんの支障もないでしょう」

 そう言われたエメリア様は、顔を真っ赤にして去って行きました。好意がある事を伝えているにも関わらず、今の対応は傷付きますね。
 何だか、結婚式の日を思い出します。リック様は、私にだけ冷たいわけではなかったようです。
 それにしても、あんなに可愛らしい方に興味を持たないなんて、リック様はどんな方が好みなのでしょうか?

 その後も、次々に令嬢達がリック様に話しかけて来ました。私の存在なんて無視する令嬢達。
 でも何故か、リック様は誰にも興味を示しません。真実の愛が欲しいと言っている割に、皆さんを最初から拒絶してるように見えるのですが?
 
 「リック! 久しぶりだな!」

 お茶会が中盤に差し掛かり、リック様に男性が声をかけて来ました。

 「カリュードか、本当に久しぶりだな! いつこの国に戻って来たんだ?」

 リック様にも、ご友人がいたのですね。って、これはかなり失礼ですね。

 「最近だ。お前が結婚したと聞いて、驚いたよ。そちらが?」

 カリュード・マシューズ様は、マシューズ伯爵のご長男で、とても優秀な方だという噂です。整った顔立ちで、容姿はリック様にも負けていません。18歳の若さで、国の重要な任務を任されていたとか。
 カリュード様は、私の方を見てにっこりと微笑んでくれました。お茶会に来てから、ずっと透明人間みたいな扱いを受けていたので、何だか不思議な気持ちになりました。

 「初めまして、ミシェルと申します」

 イスから立ち上がり、軽く頭を下げました。

 「初めまして、カリュード・マシューズです。リックとは、昔からの腐れ縁なんですよ。リックはいつまでも子供みたいな奴だから、苦労しているでしょう?」

 リック様のことを、よくご存知なのですね。リック様のご友人に、このようにまともな方がいるとは思いませんでした。苦労してる……と言いたいけれど、夫を立てるのが妻の役目ですからね。

 「苦労だなんて、とんでもありません。リック様を、尊敬しております」

 「リックは、幸せ者ですね……」

 カリュード様は、そう言って微笑んでくれました。リック様も、カリュード様みたいな方だったら良かったのに……なんて、思ってしまいます。

 「カリュード! 俺は子供じゃないぞ!」

 そう言い返してる時点で、子供だということに気付いていないのでしょうか。

 「お前は、いつも自分の事ばかりだな。近いうちにまた会おう」

 「何だ、アイツ……」

 カリュード様が去って行く後ろ姿を見ながら、不機嫌そうな顔をするリック様。事実を言われただけだと思います。

 自慢話や令嬢達のリック様へのアピールで疲れ果てた頃、やっとお茶会が終わりました。ローガン侯爵に挨拶をして、帰ろうとしていた所……

 「あら? どうして商人の娘が、このような場所にいるのかしら?」

 嫌味たっぷりなこの声の主は、子爵令嬢のイザベラ様です。私の事を、なぜか嫌って目の敵にしています。相手にしていたら疲れるので、目を合わせずにそのまま通り過ぎようと思います。

 「リック様もお可哀想に。卑しい商人なんかの娘と、無理やり結婚させられたのですよね? お金で結婚相手を買うなんて、卑しい商人丸出しですこと!」

 すれ違いざまに、畳み掛けるように悪口を言うイザベラ様。
 商人は、貴族に嫌われています。幼い頃から、卑しい商人の娘だとずっとバカにされて来ました。私は何を言われても慣れているので構いません。 お父様はいつも言っていました……貴族が商人をバカにするのは、自分達よりもお金を持っているからだと。貴族であり、商人である事に、誇りを持っているとも言っていました。私はそういうお父様を、尊敬しています。
 ですが、お金でリック様が買われたなどと口にしたイザベラ様に何だか腹が立ってきました。

 「まだ結婚出来ないイザベラ様は、羨ましいのですね。リック様はお金で買われるような方ではありません。そのように考えるイザベラ様の方が、心が卑しいのではないですか?」

  
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