〖完結〗あなたの愛は偽りだった……

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
15 / 20

15、ジェンセンの想い

しおりを挟む


 あれから一週間が過ぎた。
 私に護衛がついたことを、ルーファス殿下が不審がっていたこと以外は、拍子抜けするほど平穏な日々だった。

 ジェンセン様を、毎日噴水の前でお見かけした。王妃様にそのことを聞いてみると、ルーファス殿下が噴水を見るのが好きだったそうだ。
 ルーファス殿下を追いつめることになってしまい、心を痛めているのかもしれない。
 
 「今日も、噴水の前にいるのですね」

 噴水を見つめているジェンセン様の後ろ姿は、いつも寂しげだ。

 「お話してくるわ」

 いつも通りモニカには待っていてもらい、ジェンセン様に話しかける。

 「今日は、良いお天気ですね」

 噴水の前でお話するのが、日課になっていた。他愛のない話くらいしか出来ないけれど、少しでもジェンセン様を元気付けられたらと思っていた。

 「そうですね。昨日は曇っていましたから、天気がいいと気持ちがいいです」

 何気ない会話をしながら、噴水の流れる水を見つめる。ジェンセン様と居ると、心が穏やかになる。

 「お聞きしても、よろしいでしょうか?」

 夜会まであと一週間に迫り、怖くて聞けなかったことを聞いてみることにした。

 「はい。何でも聞いてください」

 「ジェンセン様は、これから私達がすることをどのように思っておいでですか?」

 ジェンセン様は、ルーファス殿下を愛している。大切な弟だと思っていることが分かっているから、聞くのが怖かった。その大切な弟の妻である私を、ジェンセン様は妻にしなければならない。

 「少し、昔話にお付き合いください。
 十歳の時、兵士と共に戦場へ向かう一人の少女を見ました。まだ幼いその少女は、危険な戦場で兵士達の治療をする為に同行していたのです。私には、その少女が天使に見えました。その日から、その少女のことばかり考えるようになり、いつの間にか恋に落ちていました。ですが次に会えた時には、少女は弟の婚約者になっていました。
ルーファスは、あなたを傷付け、苦しめました。二人は幸せなのだと思っていたのに、父からの手紙でそれが違っていたのだと知った時、初めて弟に怒りを抱きました。この国の為、そして大切な人を守る為なら、私は何でもします」

 ジェンセン様の話を聞きながら、ルーファス殿下の言ったことを思い出していた。『まだアシュリーが好きなのですか』あの言葉は、ジェンセン様の気持ちを知っていたから出た言葉だ。
 私が聖女だから近付いたのだと思っていたけれど、本当は違ったのかもしれない。ジェンセン様を苦しめる為に、殿下は私に近付いた……

 ジェンセン様の気持ちを知り、なんて答えたらいいのか分からなかった。私は知らないうちに、ジェンセン様を傷付けていた。それなのに彼は、ずっと私の幸せを願ってくれていた。
 申し訳ないと思いながらも、私を想っていてくれた人がいたことに嬉しさが込み上げてきた。

 「ジェンセン様……」

 「何も言わないでください。困らせるつもりはありませんでした」

 今にも泣きそうなくらい切ない顔をしているのに、私には何も言わせてくれない。そうは言っても、正直何を言ったらいいのか分からなかった。

 
 部屋に戻ると、ナンシーが慌てて駆け寄って来た。

 「アシュリー様、どちらに行かれていたのですか!? ご実家から、お手紙が届いています!」

 「手紙?」

 実家から手紙が来るのは、月に一度だった。つい先日来たばかりなのに、早すぎる。何かあったのかと、急いで手紙を読んでみる。

 「大変……! ナンシー、外出の準備をしておいて! 王妃様に、外出の許可をいただいて来るわ!」

 手紙には、弟のライトがケガをして意識が戻らないから、すぐに来て欲しいと書いてあった。ライトはまだ五歳。早く行ってあげないと……

 王妃様に許可をいただき、馬車に乗り込む。同行するのは、モニカと護衛が五人。ナンシーには、王宮に残ってもらった。
 実家までは、馬車で五時間ほど。馬車に揺られながら、ライトのことで頭がいっぱいになっていた。

 王宮を出てから、三時間が経った。
 
 「アシュリー様、困ったことになりました」

 護衛の一人が乗っている馬を馬車に近付け、そう言った後すぐに馬車から離れた。そう言った意味は、すぐに分かった。

 後ろからすごい勢いで馬に乗った兵が近付いてきて、私達が乗っている馬車を止めた。その兵は、ルーファス殿下の護衛だった。

しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

処理中です...