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40、ローズの恋
しおりを挟む「ローズに紹介したいやつがいる」
三人で朝食をとっていると、急に真顔でアンソニー様がそう言った。
「紹介したい人とは、どのような方ですか?」
ローズは、あまり興味を示していないようだ。
婚約者を探しているはずのローズは、私達とばかり一緒に居る。寝る時も、寂しいからと私のベッドで一緒に寝ている。夜会に出かけても、声をかけてくる男性には見向きもせず、私の側から離れようとしない。そんな生活が二ヶ月過ぎ、とうとうアンソニー様は我慢の限界を迎えたようだ。
「心優しく力持ち。君に、ピッタリな男だ!」
その方が誰なのかは、想像がつく。
アンソニー様には、友人がたった一人しか居ないのだから……
「まあ、そんな素敵な方がいらっしゃるのですか? お会いしてみたいわ!」
ローズ……あなたは彼を、熊みたいだと言っていたわ。
「君も、見たことはあるだろう? 騎士の試験の時に俺と決勝戦で戦った、クリフトだ!」
相手がクリフト様と聞いて、ローズの顔が明らかに不機嫌になる。
「冗談ですよね? あんな熊みたいな人、絶対に嫌よ。私に熊と結婚しろと仰るの?」
クリフト様は、本人の知らないところで酷い言われようをされたあげくに勝手にフラれた。可哀想なクリフト様……
「君は、婚約者を見つける気があるのか? モニカにも俺にも仕事があり、共に過ごせる時間が短いというのに、君はモニカから離れようとしない。俺達は新婚なんだぞ!?」
ずっと言えなかったことを、ストレートにぶつけた。
ローズは大好きだけれど、アンソニー様との二人の時間は全くない。この状況は、私にとっても少しだけ辛かった。せめて夜くらいは、アンソニー様と一緒に眠りたい。
「私だって、素敵な人がいたらすぐにでも婚約したいわ! もう十九歳なのよ? なのに、婚約者さえ居ない貴族令嬢だなんて、行き遅れもいいとこ! 周りは次々に婚約したり、結婚したり……私だって、恋がしたいのよ!」
やけ食いのように、パンをちぎっては口に入れている。私達の邪魔をするのは、羨ましかったからのようだ。
「そんなに一度にパンを口に入れたら、喉がつっかえてしまうわ」
水を差し出すと、一気に飲み干した。
ローズは幼い頃から、公爵になる為に学んでいた。自由な時間もほとんどなかったからか、友達も少ない。彼女は、「近寄って来る令嬢達は私ではなく次期公爵の私と仲良くしたいだけ。そんな友人なら、いらないわ」と口癖のように言っていた。だから、ディアナと友達になってくれて、仲良くしてくれていることが本当に嬉しい。
ローズの妹のデイジーには、すでに婚約者が居る。デイジーは辺境伯を継ぐことになっていて、幼馴染みの伯爵令息と婚約をした。
もちろん、ローズにも婚約話はたくさん出ていた。けれど、上手くは行かなかったようだ。何でも一人で出来てしまうローズは、男性にも厳しい。自分よりも優秀な人でないと……そう考えていたら、いつの間にか縁談の話は来なくなっていた。
「そうだわ! マーク様に相談してみない?」
私の案が採用され、アンソニー様がマーク様に会いに行った。マーク様は、「それなら、とってもいいお相手がいるよ」と、快く紹介を引き受けてくれた。
マーク様が紹介してくださる相手と会う為に、ローズと私、そしてアンソニー様は令嬢達の人気のカフェへやって来た。このカフェを選んだ理由は、ローズが行きたいと言ったからだ。
「皆さん、こちらです!」
お店の中に入ると、笑顔で手を振るマーク様を見つけた。その隣に座っていたのは……
「イリス!? いつ留学から戻って来たんだ?」
この国の第四王子、イリス殿下だった。
「久しぶりだね、アンソニー。結婚式に間に合わなくて、すまなかった」
イリス殿下は、アンソニー様とマーク様の従兄弟ということになる。十年前に、この国の友好国である東の国に留学した。イリス殿下は、先日留学から戻ったばかりだそうだ。
「君が、ローズ嬢だね。こんなに美しい女性に会えるなんて、僕は幸せ者だ」
容姿は違うけれど、なんとなくアンソニー様に似ている気がした。そんな恥ずかしいセリフを、笑顔で言えてしまうところとか……。初めてアンソニー様の軽いセリフを聞いた時、誰にでも言っているのだろうと私は警戒した。
けれど、ローズの反応は違った。
「そんな……美しいだなんて……」
顔を真っ赤にして、イリス殿下を見つめている。あれほど相手が見つからない! 恋がしたい! と言っていたローズが、初めての恋をしたようだ。
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