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31、サンドラの刑

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 「とある筋から、君が父親と義母であるシンシアを調べさせていることを聞いた。まさか、彼らがあの襲撃に関わっていたとは思わなかった」

 そのことは、ディアナに調べてもらっている。色々な職業の人や身分の人に聞き回っていたら、ブラント公爵にも噂が届くであろうことまで考えていなかった。
 父が事件に関わっていると知りながら、公爵は私を温かく受け入れてくれた。本当に、器の大きな方だ。

 私は、知っている全てのことを話した。隠すことなど何もない。父や義母やサンドラにされて来たことも、包み隠さずに話した。

 「まさか、自分の娘にそのような真似をするとは……」

 ブラント公爵は、家族をとても大切にしている。父のような人の気持ちは、理解出来ないだろう。いや、普通は理解出来ない。娘の私でさえも。

 「父や義母がしたことは、友人のおかげで調べがついたのですが、まだ確実な証拠を掴めていません」

 「それなら、私に任せて欲しい」

 公爵の言葉は、ありがたかった。父や義母、義母の父が関わっていたのは明らかだったのだけれど、証拠として手に入れたのは、義母と義母の父が隣国のスパイと会っていたところを見たという商人の話だけ。それだけなら、たまたま会っただけだと言われてしまえばそれまでだ。追い詰めるには、少し弱かった。

 「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 証拠を手に入れたら連絡すると言われ、その日はそのままアンソニー様に邸まで送ってもらった。今までよりも、さらに彼に近付けたような感覚。離れがたくなり、玄関の前で一時間ほど見つめ合っていたのだけれど……
 私の帰りをローズが待っていたようで、痺れを切らした彼女が玄関のドアを開けた。名残惜しそうに帰って行くアンソニー様を見送ると、今日あったことを根掘り葉掘りローズに聞かれ、洗いざらい話をさせられた。


 一週間後、シルビア様の姿が学園から消えた。彼女は退学したのだと、態度をコロッと変えた取り巻き達から聞いた。
 あの後、大勢の貴族がバーネット公爵邸を訪れ、ブラント公爵から縁を切られたと苦情を言いに来ていたそうだ。ブラント公爵は、バーネット公爵と繋がりのある全ての貴族と縁を切っていた。英雄を敵に回したバーネット公爵に、未来はない。毎日毎日苦情を言いに来る貴族達に嫌気がさし、とうとう公爵は自室から出て来なくなったそうだ。
 取り巻き達の両親もバーネット公爵を見限ったが、公爵に頼り切りだったこともあり、自分達にも何も残らなかった。学園に通わせる費用もバカにならないと、取り巻き達も退学することになっている。
 この分だと、生徒が居なくなりそうだ。そうは思ったけれど、この学園は元々、ほんのひと握りの上位貴族の為に作られた学園だった。だから、学園に通うためには多額の寄付金がいる。それは、入学する者を厳選する為だったのだが、いつの間にか財力を知らしめるために全ての貴族達が我が子を入学させるようになっていた。今の生徒数が、丁度いいということだ。
 シルビア様はというと、ずっとマーク様の名を口にしているそうだ。マーク様に嫌われたことがよほどこたえたようで、あの自信満々な彼女からは想像出来ないくらい別人のようになってしまったらしい。マーク様は今、新しい婚約者を探している。そのことを知れば、彼女はさらに立ち直れないだろう。

 そんな時、サンドラの刑が決まった。サンドラは、自分がエイリーンに命じたと認め、深く反省しているようだ。あのサンドラが反省しているとは、私にはとても思えない。彼女は自分が助かる為なら、なんでもするだろう。現に、罪を認めて深く反省して見せたことで、死罪は免れていた。けれど、私からしたら死罪になった方が良かったのではと思える。
 サンドラは、国の北にある収容所に送られる。収容所には、多くの罪人が収容されている。数十年罪を償いながらそこで働き、刑期が終われば出られる……のだが、今まで刑期を終えて出て来た者はいない。北の地は極寒なのだけれど、囚人の服は薄手だ。震えながら作業をし、食事は一日に一度。冷たく固くなったパンだそうだ。皮肉にも、私のして来た生活と似ていた。サンドラの刑期は、十五年……生きて戻れることはないだろう。

 そのことを、父と義母に伝えた。

 「まあ! なんて可哀想なサンドラ!」

 義母はそう言ったけれど、全く感情がこもっていない。自分の娘がどうなろうと、どうでもいいように見える。ルーファス様の件では、あれほどサンドラの為に激怒していたのに、どのような思考回路をしているのだろうか。

 「お前を殺そうとしたのだから、自業自得だ。むしろ、軽すぎる罰だ」

 自分の邪魔になる者は、娘であろうと関係ないようだ。私にして来たことを考えると、サンドラのことも最初から愛していなかったのかもしれない。
 この人達が、人の親なのが信じられない。ブラント公爵に会ったからか、余計にそう思える。

 「そんなことよりも、少し金を用意してくれないか? ずっと邸に閉じ込もって居て、気が狂いそうになるのだ。たまには、外に出たい。頼む!」

 そんなこと……
 この人は、救いようがない。

 「あら、それは出来ないわ。モニカにはまだ、自由に出来るお金はないんですもの。先に言っておくけれど、私に頼んでも無駄よ。あなた方に使うお金なんてないわ」

 ローズは、嘘をついた。
 代理の仕事は、ローズがしてくれているけれど、お金は私が自由に使うことが出来る。彼女は父に使われないように、そう言ってくれた。
 ローズの顔を見て露骨に嫌な顔をする父。もうすぐローズがいなくなり、自分がこの邸を仕切れるのだと本気で思っている。だから、自由のないこの息苦しい生活を我慢している。決してそうはならないけれど、希望を持っていることは悪いことではない。それが打ち砕かれた時、父は絶望するだろう。

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