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29、ブラント公爵家とバーネット公爵家

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 ご両親に会いに来たはずが、部屋の中にはシルビア様とシルビア様のご両親、そしてマーク様まで揃っていた。この状況は、いったい何なのだろうか……

 「父上、これはどういうことでしょうか?」

 アンソニー様も、家族だけの集まりだと思っていた。まさか、シルビア様達まで居るなんて思っていなかった。

 「まあ、話を聞いてくれ。皆、席に着いて欲しい」

 案内された席に腰を下ろし、ブラント公爵の話を聞く。

 「先ずは、騎士の試験合格おめでとう。お前なら、必ず合格出来ると思っていた」

 アンソニー様のご両親とマーク様は、私が来ることが分かっていたのか、笑顔を向けてくれる。けれど、シルビア様と彼女のご両親は私の存在に苛立っているようだ。視線が突き刺さって来て、そちらを見ていなくても凝視されているのが分かる。

 「……ありがとうございます」

 ご両親に私を紹介しようとしていたのに、シルビア様達が居て納得がいかない様子のアンソニー様。お礼の言葉には、心がこもっていない。

 「挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。バーディ侯爵のことは、サミュエルから聞いておりました。お会い出来て、嬉しく思います」
  
 ブラント公爵は、とても穏やかな表情で丁寧に挨拶してくれた。まだ代理を必要としている立場なのに、侯爵として扱ってくれるとは思わなかった。

 「お初にお目にかかります、モニカ・バーディと申します。こちらこそ、お会い出来て嬉しいです」

 私がこの場に居るのは、場違いのように思える。けれど、出て行くようにとは言われないようだ。むしろ、ブラント公爵は歓迎してくれているように思える。

 「お聞きしてもよろしいですか? なぜこの場に、関係のない者までいらっしゃるのでしょうか?」

 ブラント公爵とは大違いの、トゲのある言い方をしながら私を見るバーネット公爵。『お前は邪魔だ』と、目が物語っている。

 「モニカを侮辱するような言い方は、やめてもらいたい」

 アンソニー様は、私を庇うように身体を傾けて、バーネット公爵の視界を遮る。

 「な!?」

 バーネット公爵は、アンソニー様の態度に顔を真っ赤にして立ち上がった。

 「先程私は、先ずは話を聞いて欲しいと申し上げました。私の言葉を理解するのは、それほど難しかったですか?」

 静かだけれど、どこか怒りを含んだ声。ブラント公爵から、アンソニー様のような威圧感を感じる。いや、さすがお父様……アンソニー様よりも、怖い。

 「す、すまない……」 

 ブラント公爵の制止で、素直にイスに腰を下ろすバーネット公爵。父親のその行動に、シルビア様は悔しそうに唇をかみ締めた。

 「分かっていただけて、感謝する。話というのは、婚約者についてだ。といっても、アンソニーはすでに結婚を決めたようなのだが、結婚するまでは、婚約者ということになる」

 まるで、私達の結婚を認めてくれているような言い方だ。先程のブラント公爵の反応を見たからか、口を挟みたくても出来ないシルビアの顔が、だんだん険しくなっていく。

 「アンソニー、ずいぶん素敵な女性を見つけて来たな。あれほど拒絶していた剣を、また息子に持たせ、騎士にまでさせてくれたモニカ……私達は家族になるのだから、そう呼ばせてもらうよ。モニカには、心から感謝している。息子を、アンソニーを頼む」

 自然と涙が溢れ出した。
 私を認めて、頭まで下げてくださるブラント公爵の誠意ある言葉で、胸がいっぱいになる。

 「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」

 涙を拭うことはせず、イスから立ち上がり、心を込めて頭を下げた。そんな私を、安心したように優しく見つめるアンソニー様。

 「父上、感謝いたします」

 アンソニー様の言葉を聞いて、痺れを切らしたのはシルビア様。

 「納得出来ません! アンソニー様はきっと、私の為に騎士になると決心してくださったのです! 私と婚約するには、何かを成し遂げなければならないとお考えになったのです! 彼女とのことは、周囲を欺くためにしていたことにすぎません! アンソニー様はお優しいから、マーク様に気を使っているのです!」

 自分本位な考え方をする彼女に呆れる。全ては、自分の為……。あの自信は、アンソニー様が自分の為に試験を受けるのだと思っていたからのようだ。

 「黙れ、シルビア」

 その声は、ブラント公爵でもアンソニー様でもない。ずっとにこやかに微笑んでいた、マーク様だった。

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