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22、楽しい? 旅行1
しおりを挟む創立記念パーティーから、一ヶ月が経った。
鉱山での地獄のような一週間を終えて帰って来るはずのテレサが、学園に姿を現さなくなっていた。聞いた話だけど、鉱山から帰って来たテレサは、そのまま部屋から出て来なくなったそうだ。
テレサなら、また学園で前のように話しかけて来ると思っていたけど、今回は違ったらしい。
「お姉さん? 聞いてます?」
テレサのことを考えていた私は、マーク殿下が教室に来て居たことに全く気付かなかった。私の顔の前で、手をヒラヒラさせながら心配そうな顔で見ていた。
「すみません、何のお話ですか?」
「やっぱり聞いてなかった! 休暇はどうするのか、聞いているんですよ~」
唇を尖らせながら、拗ねた仕草をする殿下。
そういえば、もうすぐ学園が休暇に入る。期間は一ヶ月ほどで、その間生徒達は旅行に出かけたり、実家に戻ったりと、思い思いに休暇を過ごす。
「休暇は……」
そう言いかけたところで、
「もちろん、一緒に過ごすだろう?」
話を聞いていたブライトが、長いまつ毛を揺らしていたずらっぽい笑みを見せた。
「それなら、みんなで旅行に行くのはどうだ?」
サマンサまで会話に加わり、
「いいですね!」
マーク殿下も、サマンサの意見に賛成した。
「なんでだ!? 俺はエミリーと二人で過ごしたいのにー!!」
ブライトの思いとは裏腹に、休暇はみんなで旅行に行くことになった。
休暇に入って三日目、お父様の所有する邸に泊まることになり、目的の場所まで十日ほどの道のりを、マーク殿下とビンセント様、サマンサ、そしてブライトと一緒に馬車に揺られながら楽しい旅路を行く。
学園を卒業したら、みんなで旅行に行く時間なんてないだろう。ブライトには悪いけど、私は今回の旅行がすごく楽しみだ。
「そういえば、よく国王陛下の許可が下りましたね。体調は、大丈夫なのですか?」
「忘れてしまいました? 今から行くホワソンの街は、僕が療養していた場所ですよ。空気のいい場所に行くのに、父上が反対するはずないではありませんか~」
ドヤ顔でそう言う殿下の顔を、ビンセント様は呆れ顔で見ていた。自由過ぎる殿下の護衛は、大変そうだ。護衛は、ビンセント様を除いて二十人。全員が、陛下がつけてくれた護衛だ。後方の馬車には、使用人達が乗っている。
「殿下、くれぐれもご無理をなさいませんように。陛下との約束は、必ず守っていただかなくては困ります」
そういえば、前にも陛下との約束がどうのって言っていたような?
気になった私は、直接聞いてみることにした。
「国王陛下との約束とは、どのようなことなのですか?」
「決して無理はしないというだけですよ~。もう健康だと言っているのに! 父上は心配性なんですよ」
殿下は明らかに嫌そうな顔をしている。
「それだけマーク殿下を愛しているということなのですから、約束は守らなくてはいけません!」
少し怒り口調でそう言うと、なぜか殿下は目をキラキラさせて私の顔を見た。
「お姉さんになら、怒られるのも悪くないかも……」
「変な性癖目覚めさせないでください!」
顔を寄せて来たマーク殿下の腕を掴んで、勢い良く私から離れさせるブライト。
「いいじゃないですか! 僕はお姉さんの弟として生きる覚悟を決めたんです! 姉に怒られる弟なんて、幸せじゃないですか~」
ブライトを婚約者に選んだあの日から、マーク殿下は、『弟』として接すると決めたようだ。最近は、私の弟というか、ブライトの弟になっているような気がするけど。
ふと、サマンサが全く会話に入ってこないのが気になり、彼女の方を見ると……
「サマンサ? 何を食べているの?」
両頬をふくらませながら、モグモグと何かを食べていた。
「さひほろたちよっはみへれかっらにふらんおら(先程立ち寄った店で買った肉団子だ)」
昼食をとるために立ち寄った街の出店で、大量に肉団子を買っていたようだ。食事をしたばかりだというのに、両手で抱えるほどの大きな袋に、肉団子がたくさん入っている。サマンサはものすごく細いのに、かなりの大食いだ。
次々に肉団子を平らげて行くサマンサを見た三人は、驚き過ぎて目が点になっていた。
何だか、楽しい旅行になりそうな予感。
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