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22、噂に振り回されるクライド伯爵家

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 入れ替えの噂ではなかったからか、父はホッとした顔をした。

 「ああ……ガードナーが行方不明だとか、見つけたとかいう噂か」

 先程と違って、誤魔化している様子はない。

 「そうではなく……お母様がガードナーさんに、援助をしているという噂です……」
 
 それを聞いた父の表情が、明らかに険しくなった。やっぱり、援助のことを知らなかったようだ。

 「あくまでも噂ですよ? お母様が、そんなことをするはずないですよね。このような話をしてしまい、申し訳ありません」

 「ああ、噂は信用出来ないからな……」

 そう言っているのに、表情は険しいままだ。少しは心当たりがあるのだろうか。

 「そうですよね! 噂には続きがあるのですが、所詮噂ですし、信じないことにします」

 「続き……とは?」

 続きが気になって仕方ないのか、父は身を乗り出して聞いてきた。
 
 「昔、ガードナーさんとお母様がお付き合いしていたとか……なんて、あるはずありませんね!」

 ソファーに座り直し、必死に怒りを鎮めようと手をギュッと握りしめる。ディアム様がいるから、抑えているのだろう。私一人なら、きっと今頃怒鳴られ、殴られていたかもしれない。

 「そんな噂を、誰がしているのだ!? お前は、それを聞いて何もしなかったのか!?」

 だんだんと、声にまで怒りが滲んできた。

 「私に、何をしろと仰るのですか? 正直、お母様についてどんな噂が広まろうと、どうでもいいのです。お父様にもお母様にも、キャロルにさえ愛情なんてありませんから」

 思わず、言い返してしまった。私が言い返すとは思っていなかったからか、父は驚いて面食らっている。

 「余計なことを言ってしまい、申し訳ありません。そろそろ学園に戻ります」

 「そ、そうか、分かった」

 あんなに恐ろしかった父が、怖くもなんともない。ディアム様が隣りにいてくれるだけで、こんなにも心が強くなれるなんて思わなかった。
 そのまま私達は、邸をあとにした。

 ディアム様は、最後まで私に任せてくれていた。そういうところも、ディアム様らしい。
 学園に戻ると、一日の授業が終わったところだった。

◇ ◆ ◇

 その日の夕方、上機嫌でお茶会から帰宅したサラを、クライド伯爵が鬼の形相で出迎えた。

 「旦那様……? どうされたのですか?」

 クライド伯爵はまだ一言も口にしてはいないが、怒っていることは察したようだ。

 「……お前、私を裏切っていたな」

 声に、怒りが滲んでいる。

 「何を仰っているのですか!? 私が旦那様を、裏切るはずがないではありませんか!」

 長年嘘をつき続けてきただけあって、伯爵の目をまっすぐ見つめながらそう言うサラは、嘘をついているとは思えない程迫真の演技をしている。もしもガードナーの件が伯爵に知られるようなことがあれば、自分は捨てられるかもしれないのだから必死にもなる。

 「そうか、それならガードナーとはいったい誰だ? 裏切っていないと言うのなら、そのガードナーに私の金で援助をしていた理由を聞かせてもらおう」

 サラはガードナーに援助をしていることまで、伯爵が知っているとは思っていなかった。

 「旦那様に、誰がそんなデタラメを言ったのですか!? 私達を貶めようとしているのです!」

 伯爵の金で、ガードナーに援助していたことは事実だ。だが、それを認めてしまえば全てが終わる。誤魔化し続けるしかない。

 「まだ私に、嘘をつくのだな。この邸で噂が流れていた時は、入れ替えをレイチェルに知られたのではと生きた心地がしなかった。その噂に気を取られ、ガードナーとかいう者の噂については深く考えなかった。思い返すと、ガードナーの噂が出た時、お前が慌てた様子で馬車に乗り込み、出かけて行ったとファリソン(クライド伯爵家の執事)が言っていた。私には実家に戻ると言っていたあの時、ガードナーに会いに行ったのだろう?」

 伯爵は、すでにサラが使った馬車の馭者からも話を聞いていた。男と会っていたことも、調べがついている。

 「……」

 急いでいたからと、クライド伯爵家の馬車を使ってしまったことで、サラがいくら迫真の演技を見せても無意味だった。馭者には、サラがガードナーと抱き合ってキスをしているところを見られていたからだ。
 何を言っても許してもらえるとは思えず、サラは口を閉ざした。

 「黙っているということは、認めるのだな。お前のような汚い女を、妻にしてしまったとは情けない。今すぐ出て行けと言いたいところだが、差し迫った問題がある。お前に、チャンスをやろう。ガードナーとケリーを消せ」

 クライド伯爵は、レイチェルとディアムの婚約を心から喜んでいた。公爵家と親戚になれることなど、この機会を逃したら一生ないだろう。
 レイチェルからサラの噂を聞いた時、伯爵はすぐにでも怒りが爆発しそうだった。我慢したのは、ディアムに悪い印象を与えない為だ。
 レイチェルとオリビアの入れ替えを、絶対に証明されるわけにはいかない。それならば、それをさせなければいい。入れ替えの件を証言出来る二人を、消してしまえばいいと考えた。

 事態は想定外の方向に動き出した……わけではなかった。全ては、レイチェルの思惑通りだった。
 先に狙って来るのは、ケリーだろう。
 翌日、ケリーに『邸に戻れ』と手紙が届いた。

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