上 下
4 / 42

4、消えゆく気持ち

しおりを挟む


 休日を終えて学園に登校しようとすると……

 「また?」

 また、ドアに悪口が書いてあった。きっと、寝ている間に書いたのだろう。
 ケリーにそのままでいいと告げてから、学園に向かった。
 
 教室に入ると、辺りを見渡す。この中に、落書きをした犯人がいるかもしれない。キョロキョロしていると、デイジーが「おはよう」と声をかけてきた。

 「おはよう、デイジー」

 友達がいる学園生活は、今までよりずっと楽しい。

 「今朝、レイチェルの部屋の前を通ったらびっくりしたわ! あんな酷いことをされているの!?」

 デイジーの部屋は私の部屋から離れているから、見られることはないと思っていた。他の人が見たところで気にしないだろうけれど、デイジーには見られたくなかった。

 「あれは、気にしないで。何回消しても書かれているから、あのままにすることにしたの」

 「何回もなんて、冗談でしょ……? もう頭に来た! レイチェルの部屋のドアに、悪口を書いたのは誰!? そんな汚いまねして、恥ずかしくないの!?」

 デイジーがこんなに気が強いなんて、少し意外だった。彼女の気持ちが嬉しくて、胸の辺りが温かくなる。生徒達の反応は、予想通りだったけれど。

 「それって、オリビア様がレイチェル様にされた嫌がらせじゃない……」
 「エリック様に同情して欲しくて、自分で書いたんじゃない?」
 「汚いのは、レイチェル様の方じゃない!」

 誰も私を信じていないのだから、何を言っても無駄だと分かっていた。分かっていたけれど、デイジーの気持ちが嬉しいからみんなの反応なんて気にならない。

 「何なの……!?」

 デイジーの怒りはおさまらないけれど、彼女の手を握って微笑んだ。

 「ありがとう、デイジー。デイジーが私の為に怒ってくれて、感謝してる」

 いつの間にか私は、何もかも諦めていたのかもしれない。

 「友達なのだから、当たり前じゃない!」

 「そうそう、友達なんだから当たり前だな。おい、お前ら! どうせ書くなら、『ディアムのもの』って書け! 俺のものだから、手を出すな!」

 いつからいたのか、ディアム様まで生徒達に向かって注意? をした。冗談のように聞こえるけれど、ディアム様の目は真剣だった。彼なりに、私を庇ってくれたのだろう。

 「ディアム様……そんなことを書かれたら、すぐに消します!」

 「何でだ!? 俺なら、エリックと違ってレイチェルだけを信じるのに!」

 先程の真剣な表情から、いつものディアム様に戻っていた。掴みどころがない方だけれど、悪い方じゃないのは分かる。
 
 「オリビアを傷付けておいて、君はなぜ笑っていられるんだ?」

 エリック様がいたことに、全く気付かなかった。私の中から、彼の存在が消えていっている証拠だろう。

 「私は、何も悪いことはしていません」

 彼が信じなくても、かまわない。私達は、もう終わったのだから。

 「図々しいにも程がある!」

 「図々しいのは、お前だろう? 今もまだ、レイチェルに愛されてると思っているのか? お前がずっとオリビアとイチャイチャしているところを見せられて、彼女が何も感じなかったとでも? 彼女の気持ちも考えず、他の女とイチャイチャしていたお前に、レイチェルを責める資格なんかない!」

 ずっとモヤモヤしていたことを、なぜかディアム様が代わりに言ってくれた。
 ディアム様のおかげで、胸がスーッとした。それと同時に、エリック様への気持ちが消え去っていった。

しおりを挟む
感想 135

あなたにおすすめの小説

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

処理中です...