12 / 26
12、動き出すアンディ
しおりを挟む翌朝、朝食を作る為に早めに起きたつもりだけれど、すでにアンディ様の姿はなかった。
アンディ様が居なくて、少しホッとしてしまう。
部屋に戻ると、アビーから手紙を受け取った。
手紙の送り主は、ドリアード侯爵。リジィの目が、どこにあるか分からない。会うのは危険だと判断し、手紙でやり取りをすることにしていた。
すぐに手紙を読み始めると、リジィの目的と黒幕が書かれていた。
「なんて書かれてあるのですか?」
顔をしかめながら手紙を読む私の様子を見たアビーが、心配そうにこちらを見ている。気付かなかったけれど、ものすごく怖い顔になっていたようだ。
「リジィは、お義母様と繋がりがあったわ」
リジィは、義母に言われてアンディ様の側室になったようだ。あんなに子供を欲しがっていたのは、自分に子供が出来たら私を殺すつもりだったのだろう。そして、アンディ様の命も……
王妃になりたがっていたほど、権力を欲している義母。ブルーク公爵の妻では、納得がいかなかったようだ。
「……どうして皆、自分のことばかり考えるのかな? 権力ほど、虚しいものはないのに……」
権力を欲している者に、権力を手にする資格なんてない。
このことを父が知ったら、義母も、義母の実家も許さないだろう。父に知らせるのは、まだしない。近しい者の裏切りを知り、父に警戒されたら困るからだ。ドリアード侯爵も、同じ意見だった。
個人的には、アンディ様のことを考えると、リジィにはすぐにでも王宮から出て行って欲しい。けれど、その先のことを考えると今のままが一番安全だった。
ドリアード侯爵の手紙には、ブレナン侯爵についても書かれていた。アンディ様の暗殺未遂に関わっていたのは、ブレナン侯爵他六人の侯爵と三人の伯爵、五人の子爵だった。まさか、これほど多いとは思っていなかった。それほど、父の独裁が許せないのだろう。そんな方々が、私を信じてくれるとは思えないけれど、私は一人一人丁寧に手紙を書くことにした。
朝食の支度を終えて私室に戻ると、リジィのことを話してくれたメイドの姿があった。
「今日から王妃様の侍女になりました、サナと申します。王妃様に、誠心誠意お仕えさせていただきます!」
「あれから、リジィに何もされなかった?」
「はい、大丈夫でした。私のような者を気遣ってくださり、ありがとうございます」
緊張しているのか、頭を下げたままのサナ。
「サナ、何か困ったことがあったら、何でも話して。私はサナと、仲良くなりたい」
「王妃様……ありがとうございます!」
王宮に来た時は、信用出来るのはアビーしか居なかった。今は、ローリーにドリアード侯爵、そしてサナと、沢山の味方が増えた。
ブレナン侯爵を味方につけることが出来たら、行動を開始する。
◇ ◇ ◇
「今日の料理はいかがですか? アンディ様のお口に合えばいいのですが」
食堂で、いつものように食事をするアンディとリジィ。
ロゼッタが作っているのに、リジィは悪びれもせず自分が作っているように話しながら頬を赤らめている。
「美味しいよ。この料理は、どのように作るんだ?」
「え……」
そんなに難しい料理ではなかった。
アンディが今口にしているのは、ポトフ。それでも、リジィは答えることが出来ない。
アンディは、リジィが作っていないことに気付いていた。ロゼッタの淹れたお茶を飲んだ時に、料理はロゼッタが作っているのだと確信していたのだ。
「あの……野菜とお肉を煮込みました」
誰が見ても、分かる説明をするリジィ。料理など作ったことがないのだから、詳しい説明など出来るはずがない。
「優しいな、リジィは。私に分かるように、簡単に説明してくれたのだな」
優しく微笑むアンディの顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「そんな……優しいだなんて……」
顔を隠しながら、照れている素振りをしているが、内心は心臓がバクバクしていた。料理の作り方など、聞かれるとは思っていなかった。
上手く誤魔化すことが出来たと思っているリジィは、笑顔で食事を続けた。
仕事をする為に執務室へと向かったアンディだったが、執務室へは行かずに私室に入った。そこには、ドリアード侯爵が待っていた。
「デイモン、知っていることを全て話せ」
ドリアード侯爵は、最初からアンディの忠実な臣下だった。
66
お気に入りに追加
2,503
あなたにおすすめの小説
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
【完結】愛していたのに処刑されました。今度は関わりません。
かずきりり
恋愛
「アマリア・レガス伯爵令嬢!其方を王族に毒をもったとして処刑とする!」
いきなりの冤罪を突き立てられ、私の愛していた婚約者は、別の女性と一緒に居る。
貴族としての政略結婚だとしても、私は愛していた。
けれど、貴方は……別の女性といつも居た。
処刑されたと思ったら、何故か時間が巻き戻っている。
ならば……諦める。
前とは違う人生を送って、貴方を好きだという気持ちをも……。
……そう簡単に、消えないけれど。
---------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
愛することはないと言われて始まったのですから、どうか最後まで愛さないままでいてください。
田太 優
恋愛
「最初に言っておく。俺はお前を愛するつもりはない。だが婚約を解消する意思もない。せいぜい問題を起こすなよ」
それが婚約者から伝えられたことだった。
最初から冷めた関係で始まり、結婚してもそれは同じだった。
子供ができても無関心。
だから私は子供のために生きると決意した。
今になって心を入れ替えられても困るので、愛さないままでいてほしい。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる