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39、母上の死 エリック視点
しおりを挟む―6年前 ホージー侯爵邸―
「やめて……やめてください……」
「なぜだ!? なぜ他の男に、色目を使うんだ!?」
どうして父上は、毎日母上を殴るのだろう……
僕が止めに入ると、父上は余計に母上を殴る。僕はいったいどうしたら、母上を救えるの?
「た……すけ……て……」
父上に殴られ、蹴られ、母上は床に倒れたまま涙を流している。母上の胸ぐらを掴み、父上は右手を振り上げた! このままでは、母上が!!
「父上! 母上が死んでしまいます!」
僕は父上の背中にしがみつき、必死に止めようとする……
「邪魔をするなッ!!」
「……ッ……」
勢いよく放り投げられ、壁に打ち付けられた。すごく痛くて、息が出来ない……
「お前は俺のものだ! 誰にも渡さない!!」
父上は母上の首に手をかけ、力いっぱい絞めた!!
母上を殺す気なのか!? 止めなきゃ!
「やめて! お願いです! 父上ーーッ!!」
背中を思いっきり打ち付けたせいで、思うように体が動かない! くそ! くそッ! 動け!! 頼むから、動いてくれッッ!!!
必死に床を這って、母上の元に向かう!
「………………」
……嘘だ……こんなの、嘘だ…………
母上がピクリとも動かなくなり、瞳から光が消えた。
母上が動かなくなったのを見た父上は、机の引き出しから刃物のような物を取り出した。
僕は父上の事なんて、どうでもよかった。早く母上の元に……まだ、生きているかもしれない。
その時……
目の前が真っ赤になった。何が起きたのか分からず、僕の思考は停止した。
「ギャーーーーーーーっ!!!!」
我に返ったのは、メイドの悲鳴を聞いた時だった。メイドは腰を抜かし、青ざめた顔で何かを見ている。その視線の先にあったのは、首から大量の血を流して死んでいる父上の姿だった。
父上は、自らの首を斬り自害したようだ。父上が死んだ……だけど、僕は何も感じなかった。それどころか、死んでくれてせいせいした。あんな奴、父上だと思った事なんて1度もない。
ようやく母上の元に辿り着いたけど、やっぱり息をしていない。僕は母上が大好きだった。
執事のボイスが、母上の両親を呼んだ。
僕の将来の為に、母上の死は病死という事にしたらしい。僕に将来なんて、あるのだろうか?
どんなに足掻いても、どんなにあいつを嫌っても、僕にはあいつの血が流れてる。
僕はあいつのように、なりたくないんだ。誰か、助けてよ。
母上が亡くなってから3ヶ月経った。
「エリック・ホージー侯爵……だよな?」
こんな僕に話しかけてくる物好きなんて、いないと思ってたんだけど……
「…………」
「俺はリオンだ! そんなこの世の終わりみたいな顔してんなよ。その歳で侯爵なんて、珍しいんだぞ」
僕が無視をしても、構わず話し続ける。珍しいから、なんだというんだ。なりたくてなったわけじゃない。
「なあ、友達になろう!」
僕が受け入れなくても、この日からずっとリオン王子は僕に構ってきた。
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