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32、初めての……

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 「今日は街に行かないか?」
 
 お茶しに来ていたリオン様が、急に街へ行こうと提案して来ました。

 「街に?」

 エリック様はあれからずっと、邸に閉じこもったまま、何の動きもありません。あまりに何もないので、このまま諦めてくれるのではと思ってしまいます。

 「街に出掛けるのが好きだと、ミランダから聞いたのだが違ったか?」

 街に行くのは好きです。好きですけど、リオン様と一緒になんて……嬉し過ぎます!!

 「行きます! 行きたいです!!」

 勢いよく返事をした私を見ながら、リオン様は笑いを堪えていましたが、そんな事はお構いなしに部屋に戻って街に出掛ける準備をしました。
 いつも邸でお茶をするだけだったので、一緒に外出するなんて嬉しくないはずがありません!
 エリック様の事が解決するまでは、護衛の方にもご迷惑がかかるので、外出を控えようと思っていました。まさか、リオン様に誘っていただけるなんて思っていなかったから、本当に嬉しいです。護衛の方には申し訳ないのですが、絶対に行かせてもらいます!

 支度を終えると、リオン様が待っている馬車まで急いで向かいました。こんなワクワクする気持ち、すごく久しぶりです。

 「お待たせしました。さあ、行きましょう!」 

 馬車に乗り込むと、リオン様はまた笑いを堪えています。

 「笑い過ぎです! そんなに可笑しいですか?」

 馬車が街へと走り出すと、いじけたように口を尖らせながら外の景色に目をやりました。

 「いや、あまりに可愛らしいなって思って。ごめんごめん」

 いつもからかうんですね。
 気持ちに気付くまでは、からかわれても冷たくあしらっていた事を思い出しました。あの時リオン様は、どんな気持ちだったのでしょう。

 「そういえば、シェイド様が仰っていたのですが、リオン様は国王様の極秘の命を受けていらしたのですよね? どのようなご命令だったのですか?」

 「シェイドの奴……極秘だというのに、もらしたのか」

 「シェイド様を叱らないでください。私の為に、話してくださったのです」

 「なんだか腹が立つ。俺は、心が狭いようだ」

 腹が立つ? どういう事なのでしょう?
 リオン様はムスッとしたまま、私の頬をつまんで来ました。

 「いひゃいれす……」

 「他の男を庇うな。シェイドが君の為に話したことくらい分かっている。君が他の男を庇うから、妬いたじゃないか……」

 妬いた? 妬いてくれたのですか!?
 リオン様は、妬いたりしない方なのかと思っていました。

 「なんだ、その嬉しそうな顔は……」

 そう言いながら頬から手を離したので、その手をそっと握りしめました。リオン様の手、あたたかいです。

 「だって、嬉しいんですもの。こんな風に、普通に妬いてくださることが嬉しいです」

 エリック様は、私に触れたというだけでハルクの命を奪ってしまいました。こんな風に、普通に妬いてくれるのがどんなに嬉しいことでしょう。
 
 「……エリックが君の心に負わせた傷は、とても深いのだな。必ず、その傷を全て癒してみせる」

 私はもう、癒されています。
 あなたを愛していると気付いた時から……

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