32 / 44
32、初めての……
しおりを挟む「今日は街に行かないか?」
お茶しに来ていたリオン様が、急に街へ行こうと提案して来ました。
「街に?」
エリック様はあれからずっと、邸に閉じこもったまま、何の動きもありません。あまりに何もないので、このまま諦めてくれるのではと思ってしまいます。
「街に出掛けるのが好きだと、ミランダから聞いたのだが違ったか?」
街に行くのは好きです。好きですけど、リオン様と一緒になんて……嬉し過ぎます!!
「行きます! 行きたいです!!」
勢いよく返事をした私を見ながら、リオン様は笑いを堪えていましたが、そんな事はお構いなしに部屋に戻って街に出掛ける準備をしました。
いつも邸でお茶をするだけだったので、一緒に外出するなんて嬉しくないはずがありません!
エリック様の事が解決するまでは、護衛の方にもご迷惑がかかるので、外出を控えようと思っていました。まさか、リオン様に誘っていただけるなんて思っていなかったから、本当に嬉しいです。護衛の方には申し訳ないのですが、絶対に行かせてもらいます!
支度を終えると、リオン様が待っている馬車まで急いで向かいました。こんなワクワクする気持ち、すごく久しぶりです。
「お待たせしました。さあ、行きましょう!」
馬車に乗り込むと、リオン様はまた笑いを堪えています。
「笑い過ぎです! そんなに可笑しいですか?」
馬車が街へと走り出すと、いじけたように口を尖らせながら外の景色に目をやりました。
「いや、あまりに可愛らしいなって思って。ごめんごめん」
いつもからかうんですね。
気持ちに気付くまでは、からかわれても冷たくあしらっていた事を思い出しました。あの時リオン様は、どんな気持ちだったのでしょう。
「そういえば、シェイド様が仰っていたのですが、リオン様は国王様の極秘の命を受けていらしたのですよね? どのようなご命令だったのですか?」
「シェイドの奴……極秘だというのに、もらしたのか」
「シェイド様を叱らないでください。私の為に、話してくださったのです」
「なんだか腹が立つ。俺は、心が狭いようだ」
腹が立つ? どういう事なのでしょう?
リオン様はムスッとしたまま、私の頬をつまんで来ました。
「いひゃいれす……」
「他の男を庇うな。シェイドが君の為に話したことくらい分かっている。君が他の男を庇うから、妬いたじゃないか……」
妬いた? 妬いてくれたのですか!?
リオン様は、妬いたりしない方なのかと思っていました。
「なんだ、その嬉しそうな顔は……」
そう言いながら頬から手を離したので、その手をそっと握りしめました。リオン様の手、あたたかいです。
「だって、嬉しいんですもの。こんな風に、普通に妬いてくださることが嬉しいです」
エリック様は、私に触れたというだけでハルクの命を奪ってしまいました。こんな風に、普通に妬いてくれるのがどんなに嬉しいことでしょう。
「……エリックが君の心に負わせた傷は、とても深いのだな。必ず、その傷を全て癒してみせる」
私はもう、癒されています。
あなたを愛していると気付いた時から……
23
お気に入りに追加
2,998
あなたにおすすめの小説
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される
葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」
十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。
だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。
今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。
そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。
突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。
リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?
そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?
わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。
ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18)
しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。
「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」
頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。
そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる