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30、エリック様の過去 前編
しおりを挟むお互いの気持ちを確かめ合った私達は、すぐに婚約をしました。
国王様にご挨拶するのはすごく緊張したけれど、とてもお優しい方でした。
貴族の方々の間で、エリック様の悪い噂が広がっていたので、誰も私達を悪く言う人はいませんでした。それどころか、心から祝福してくださいました。リオン様が私に会いに邸に行っていると噂があったことも、先に縁談を持ちかけていたのはリオン様で、それをエリック様が汚い手を使い奪ったと考えたようです。その噂は、エリック様が流したもの……ご自分の首をしめる結果になりました。
エリック様はあの日から、邸に閉じこもったままです。
「今日は、大切な話をしようと思う」
いつものように、応接室でリオン様とお茶をいただいていると、急に真剣な顔をしました。
「大切なお話……ですか?」
私は姿勢を正し、リオン様の次の言葉を待ちます。
「エリックの事だ。なぜ俺が、エリックをそばに置いていたのか、気になっているだろ?」
確かに、気になっています。それが理由で、リオン様を信じる事が出来なかったのですから。
リオン様はお茶を一口飲むと、ゆっくり話し始めました。
「俺がエリックと知り合ったのは、6年前……俺達が15歳の時だった。その時のエリックは、死んだような目をしていた」
死んだような目をしていたエリック様が気になって、リオン様が話しかけたのが2人の出会いだったそうです。そして2人は、友になりました。
友といっても、リオン様が一方的に話をするだけの関係が続いていました。
リオン様は理由が気になり、臣下に調べさせたところ、ご両親を亡くされたばかりとの事でした。ですが、理由はその事だけではなかったのです。この事は、後にエリック様本人から聞いたそうなのですが……
エリック様のお母様を殺したのは、エリック様のお父様……ドナルド・ホージー侯爵だったのです。ホージー侯爵は、毎日毎日、夫人に暴力をふるっていました。ある日、夫人の浮気を疑ったホージー侯爵は、夫人の首を絞めて殺してしまいました。そして、愛する妻を殺してしまったホージー侯爵は、自らの命を絶ったのです。そのことを知るのは、夫人の両親と使用人達、そしてエリック様だけでした。エリック様の将来を考えた夫人の両親が、その事実をなかったことにする為に夫人は病死と発表しました。
エリック様は、目の前で愛するお母様を殺され、心が壊れてしまいました。
リオン様はその事を知り、どうにかしてエリック様を悲しみから救いたいと思い、ずっと側にエリック様を置いていたのです。
リオン様とエリック様が友になってから、5年が経ったある日、エリック様が初めて笑顔を見せてくれたそうです。
笑顔になった理由は、恋をしたから……エリック様は、15歳の私に恋をしたようなのです。
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