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12、リオン王子

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 「ティアナ、お客様がお見えだ。いつの間に、リオン王子と知り合いになったんだ?」

 リオン王子!?
 どうしてリオン王子がここに!?
 
 「私にも分かりません。リオン王子は、お父様ではなく私に会いに来たのですか?」

 お父様の話では、リオン王子は『ティアナ嬢にお会いしたい』と仰ったそうです。もしかして、昨日助けたのが私だとバレていたのでしょうか? でも、リオン王子にバレるほど、顔を合わせた記憶はないのですが……
 お父様は、王子様だと普通に会わせるのですね。まあ、王子様をお断りは出来ないでしょうけど。
 とにかく、邸に来てしまったのですから、逃げることも隠れることも出来ません。 

 意を決して、リオン王子が待つ応接室のドアを開けると、リオン王子は優雅にお茶を飲んでいました。銀色の髪に、吸い込まれそうな程澄んでいる青い瞳。すごく絵になりますね……

 「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」

 中に入り頭を下げると、リオン王子はカップを置き、立ち上がりました。

 「やっぱり、昨日の平民だ!」

 ……昨日の平民とは、随分な言い方ですね。わざわざ、確かめに来たということですか。

 「昨日は、ありがとうございました」

 誤魔化したら、逆に怪しいかもしれないと思ったので認めることにしました。

 「なぜ、あんな格好をしていたんだ?」

 その理由を話すわけにはいきません。
 
 「市場に令嬢として行ったら、いいカモではないですか。だから、平民の姿をして行きました」

 「結局絡まれていたら、意味ないな」

 はぁ……とため息をつき、リオン王子はもう一度ソファーに腰を下ろしたので、私も向かいのイスに座りました。
 なんだか、前のリオン王子と違うような気がします。こんなに感じ悪い方だったなんて、知りませんでした。

 「あれは、たまたまぶつかってしまっただけです。リオン王子にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。ですが、助けていただかなくても大丈夫でした!」

 これでは私も、感じ悪いですね……

 「あははっ! 君、いいな。俺にズケズケ言う奴は初めてだ。気に入った!」

 気に入ったって……それは迷惑です。リオン王子に関わったら、もれなくエリック様がついてきます。

 「気に入られても困ります。私には、関わらないでください」

 王子様に、失礼なことを言っているのは分かっています。ですが、エリック様に関わりたくありません。市場に行った私が悪いのだと、反省しています。だから、私に構わないで! そう思ったのに……

 「悪いが、そう言われても俺は君に関わる。俺がそうすると決めたから、諦めろ」

 強引な方ですね。やっぱり、前の印象とはだいぶ違いますが、私が知らなかっただけなのでしょう。初めてお話した時は、エリック様の妻としてだったので、それなりの対応だったのかもしれません。

 それからは、週に何度か邸に来るようになりました。ですが、私の心配していた通りにはなりませんでした。邸に来る時は、護衛の方も連れず、いつもリオン王子お一人でした。

 「どうしていつも、お一人なのですか?」

 毎回王子様がお一人でいらっしゃるなんて、不思議でしかたがありません。

 「なんだ? 誰か連れて来た方がいいのか?」

 「そうは言っていません! リオン王子は、王子としての自覚がおありなのですか!? お一人で街に出て、何かあったらどうするおつもりですか!?」

 私は何を言っているのでしょう? 一人で来てくれるなら、その方が私にとっては都合がいいのに……

 「俺の心配をしてくれてるのか? 可愛いやつだな」

 リオン王子は私の頭を、わしゃわしゃして来ました。

 「違っ……
 もういいです。何かあっても、私は知りません」

 わしゃわしゃしてくるリオン王子の手を振り払い、冷たく言い放ちました。
 毎回、お茶を飲みに来るだけのリオン王子が理解出来ません。何がしたいのでしょう……

 「俺に何かあったとしても、君のせいじゃないから気にするな」

 何かあるかもしれないという口ぶりですね。何か悩みでもあるのでしょうか?

 「分かりました。リオン王子に何かあっても、気にしません。お茶を飲み終わったのなら、どうぞお引き取り下さい」

 「つれないな……」
 
 そう言って、リオン王子は暗い顔になりました。いつもなら言い返すのに、今日はどうしてしまったのでしょう……
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