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5、殺したのですか!?

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 初めて殴られた日から3日が経ち、顔の腫れはひいてきました。エリック様は、毎日3回食事を運んで来ます。ですがハルクは、あれから1度も来ていません。

 「さあ、食べるんだ」

 今日も食事を運んで来たエリック様。私が食べ終わるまで、じっと私のことを見張っています。

 「腫れがひいてきたみたいだね。やっぱり、君は美しい」

 美しいと言われても、全く嬉しくありません。

 「来週、舞踏会が開かれる。殿下が君に会いたいそうだから、それまでには完璧に治さないとな」

 舞踏会……逃げるチャンスが、こんなに早く訪れるなんて思ってもみませんでした。

 「嬉しい? 
 嬉しそうな顔をしてる」

 顔に出ていたようです……

 「あ……の……」

 いいわけが何も思い付きません……
 また殴られると思い、身構えました。
 
 「俺も嬉しい。美しい君を、皆に見せびらかすことが出来るのだから」

 エリック様はそう言うと、にっこり笑いました。私の考えていたことがバレたわけではないのでしょうか……?

 「そうそう、舞踏会で余計なことを言ったりするなよ? 君のご両親を、ハルクのように殺したくはないからな」

 !!!?
 今……なんて仰いました……?

 「……ハル……クは、死んだ……のです……か?」

 きっとただの脅し……ですよね?

 「ああ。あいつは、俺の言ったことを守らなかったからな。君に触れていいのは、俺だけだ」
 
 エリック様の冷たい目が、真実を物語っていました。ハルクはもう、この世にはいない……
 
 「どうしてそんなことをしたのですか!? ハルクは、エリック様にずっと仕えて来てくれたのに……」

 怖い……すごく怖い……
 だけど、止まりませんでした。私のせいで、ハルクは殺されたのです。私に優しくしたせいで、ハルクは……

 「エリック様が分かりません! ハルクがどうしてそんな目に合わなければ……」

 エリック様は立ち上がり……

 「ッッッッッ!!!」

 ソファーに座ったままの私のお腹を勢いよく蹴り飛ばし、ソファーと一緒に私も後ろに倒れてしまいました。
 倒れたソファーから降り、彼から逃げようと這い蹲ります。彼はゆっくり近付いてきて、這っている私の背中をドガッと蹴り飛ばした。
 その場から動けなくなった私は、上から何度も踏み付けるように蹴られ続けたのです……

 「お前は誰の味方をしているんだ? まさかお前、ハルクに好意を持っていたのか!? このアバズレがッ!!」

 エリック様は足を振り上げ、私の左腕を思いっきり踏み付けて来ました。

 「ぅああああああああぁぁぁッッ!!!」

 あまりの痛みに、私はそのまま気を失ってしまいました。





 どれくらい気を失っていたのか、目を覚ますと外は暗くなっていました。
 私は、ベッドに横になっているようです。

 「ぃッ……」

 起き上がろうとすると、左腕に激痛が走りました。お腹も背中も痛いけど、左腕はそれよりも痛いです。左腕に視線を向けると、添え木がしてあり、包帯が巻かれていました。どうやら、折れているようです。
 
 ノックもなしにドアが開きました。エリック様ですね……
 足音が近付いてきて、ベッドの横で止まります。

 「腕が折れていたから医者にみせたが、痛み止めはやらない。反省しろ」

 それだけ言うと、部屋から出て行きました。
 
 反省? 私は、反省しなければならないようなことをしたのでしょうか?
 殴るほど腹が立つのなら、追い出してくれたらいいのに……どうして私に構うのですか?
 ずっと私を無視し続けて来たのに、なんで今更執着するのでしょう……

 またドアが開きました。エリック様が戻って来たのかと思ったのですが、入って来たのはレミアさんでした。

 「まったく、あんたが余計なことをしたから、私達までとばっちりを受けたわ」

 レミアさんは、入って来るなり文句を言って来ます。どうしてレミアさんが来たのか、どうして文句を言っているのか私には分かりません。

 「あんたが離縁だなんて言い出さなきゃ、私達のエリック様でいてくれたのに、全部あんたのせいよ。愛人の私達に、あんたを監視しろだなんて、やってらんないわ」

 エリック様は、愛人に私を監視させるおつもりなのですか!?
 レミアさんの話では、使用人は信用出来ないからだそうです。ハルクのことがあったからでしょう。でもハルクは、タオルをあててくれただけです。それなのに……

 「あんたさ、どうして大人しくしていないの? 離縁して欲しいって言ったら、エリック様があんたを愛してくれるとでも思った?」

 愛して欲しいなんて、そんな事はとっくに思っていませんでした。だけど、あの一言でこんなことになってしまうなんて、思いもしなかったのです。

 「顔しか取り柄がないんだから、その綺麗な顔がぐちゃぐちゃになっちゃえばいいのに」

 それでエリック様が私を解放してくれるなら、それでも構わないと思ってしまいます。それほど私は、追い詰められていたのです。

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