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4、2度目の暴力

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 「ちゃんと食べろと言ったよな?」

 また、あの時の表情に変わるエリック様。

 「あの……もうしわけ……」

 そう言いかけたところで、エリック様の右の拳が、私のお腹に勢いよく入りました!

 「ゴホッゴホッ……ッ」

 私はお腹を押さえながらうずくまってしまい、立つことが出来そうにありません。

 「どうして、俺の言うことが聞けないんだ!」

 うずくまっている私の髪を掴み、顔を上に向かせて来るエリック様の顔があまりに恐ろしく、抵抗する事さえ出来ません。

 「お前、俺をバカにしてるのか? 」

 「ち、ちが……う……」

 「黙れ!!」

 髪を離し、うずくまったままの私を何度も何度も蹴り続けて来ます。
 何度も何度も蹴られ、意識が遠のきそうになります。
 
 やっと蹴りが止まったと思ったら、抱きしめられていました。

 「俺はお前が心配なんだ。分かってくれ」

 分かるわけがありません。エリック様のことは、恐怖の対象でしかなくなりました。
 身体中が……痛い……私に、触れないで……
 そう思っても、抵抗することさえ出来ない臆病な自分が嫌になります。

 エリック様は私を抱き上げ、ベッドへと横たわらせました。
 
 「大丈夫。心配いらないよ」
 
 さっきまで蹴っていたのに、今度は優しく頭を撫でて来ます。この人が怖い……そう思いながら、私は意識を失っていました。

 
 どれくらい意識を失っていたのでしょうか……
 目を覚ますと、外は暗くなっていました。
 ずっとそばについていたのか、ベッドの横のイスに座ったまま、エリック様が眠っています。
 結婚してから、私のことなんて気にもしていなかったのに、どうして急に私に構うようになったのでしょう……
 正直、そんなことはどうでもいいです。ここから逃げ出したい……そう思っても、何も行動することが出来ません。自分がこんなに臆病だとは、知りませんでした。誰か、助けて……そう思ったところで、誰も助けてはくれません。

 彼が目を覚ます前に、もう一度寝てしまう事にしました。また殴られたくないからです。
 眠っていれば、きっと殴られません……

 
 2度目に目を覚ました時は、外が明るくなっていました。そして、部屋の中にエリック様の姿はありませんでした。そう思って安心していると……

 ドアが開き、エリック様が入って来ました。

 「起きたのか? 食事を持って来た」

 エリック様を見る度に、体が身構えてしまいます。テーブルの上に食事を置いて、ベッドへ近付いて来ます。私はまた、恐怖でかたまってしまいました。
 エリック様はかたまっている私を抱き上げ、ソファーに座らせました。

 「昨日は何も食べていないから、腹が空いているだろ? 食べなさい」

 言われた通り、出された料理を食べ始めます。食べなかったら、また殴られると分かっているからです。食欲なんてありません。体中が痛くて、吐いてしまいそうですが、吐いたらまた殴られてしまう。
 苦しくても、全部食べなくてはいけません。

 出された食事を全部食べ終えると、エリック様は笑顔になりました。

 「いい子だ。じゃあ、また昼に来るよ」

 そう言って、部屋から出て行きました。安堵からか、涙が流れて来ました。泣いてるつもりなんて全くないのに、止まりそうもありません。

 
 しばらくすると、ノックの音が聞こえて来ました。
 ノック? エリック様はノックをしませんし、先程出て行ったばかりなので、違いますね。

 「はい」

 「奥様、入ってもよろしいでしょうか?」

 この声は、使用人のハルクです。

 「どうぞ」

 返事をすると、鍵を開けて入って来ました。ハルクも鍵を持っているようです。

 「奥様、少しだけ失礼します」

 ソファーに座ったままの私の顔に、濡れたタオルをあててくれました。……冷たい。

 「熱を持っているので、冷やしてください」

 「……ありがとう」

 その間も、涙は止まることなく流れ続けています。ハルクは用意していたもう1枚のタオルで、涙を優しく拭ってくれました。

 「……何も出来ず、申し訳ございません……」

 まさか、謝ってくれるなんて思いませんでした。メイドは平然とした顔で私に薬を飲ませたのに、ハルクがそんな風に考えてくれたことが嬉しいです。

 「人間らしい人がいてくれて良かった。ハルクも鍵を持っているの?」

 「この鍵は、先程旦那様からお預かりしました。奥様に薬を届けるように言われたのですが、奥様に触れることは許されていません。差し出がましいことをしてしまい、申し訳ありませんでした」

 タオルのことでしょうか?
 ではこれは、ハルクの優しさなのですね。
 
 「気を使ってくれてありがとう」

 ハルクに助けて欲しいと頼んだら、助けてくれるでしょうか? そんな思いもよぎりましたが、今の私は簡単に人を信じることが出来ず、疑心暗鬼になっていました。

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