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1、地獄の始まり
しおりを挟む「ティアナ、必ず幸せにするよ。俺を選んでくれて、ありがとう」
3年前、彼は笑顔でそう言いました。そして私は、エリック・ホージー侯爵の妻になりました。
この結婚が地獄の始まりになることを、3年前の私は知らなかったのです……
私の名は、ティアナ・ゴードン。伯爵令嬢でした。エリック様と結婚して3年になります。
エリック様は、初夜以来、私を求めたことがありません。何か気に触ることをしてしまったのかと悩んでいたのですが、最初からエリック様は私に興味がなかったようです。
「レミアです。今日からお世話になることになりました。奥様、よろしくお願いします」
結婚してから1年が経った頃、エリック様は最初の愛人を連れて来ました。ずっと邸に帰って来ないと思ったら、愛人がいたようで……その愛人を、隠すのが面倒になったのか、邸に連れて来たようです。1年間は私に気を使っていたということなのでしょうか……
だけど、もう気を使う気はなくなったようです。
「レミアは、今俺が1番大切にしている女性だ。失礼のないようにな」
1番大切にしている女性とは、いったい何なのでしょうか……
それなら妻である私は、エリック様にとってどんな存在ですか? 私は、ただのお飾りという事なのでしょうか?
結婚してから2年が過ぎた頃、彼を想う気持ちはなくなっていました。
エリック様は、離れに愛人を3人住まわせています。愛人3人には、毎日のように贈り物を贈っているのに、私には何もくださったことはありません。そして、その贈り物を買ったお金は、私の父からの援助金です。
私と結婚したのは、お金が目当てだったのでしょうか。それと……
「奥様はお綺麗ですね。なんの苦労も知らずに育ったのでしょう? エリック様は、奥様を観賞用だと仰っていました。奥様は顔以外、何の魅力もないんですって。夫に愛されない妻なんて、お気の毒様。あはははっ」
私の顔がお好みのようです。そんなことを愛人に教えられました。
魅力がない……そう言われれば、そうなのかもしれません。なんの苦労も知らずに……というのも当たっています。だからといって、私はこのような屈辱に耐えなければならないようなことをしたのでしょうか?
結婚してから3年が経ちました。もう、私も限界です。この結婚は、両親がすごく喜んでくれていたので、エリック様がいつかは変わってくださるかもしれないと我慢して来ました。エリック様はとても優秀な方で、王太子殿下の右腕だと言われています。そんな方が私を見初めてくださり、結婚をしたのだと両親は思っています。
私も結婚するまでは、そう思っていましたし、彼のことを好きでした。ですが、もう無理です。私を見てくれない彼を愛することは、出来そうにありません。
私は離縁していただくために、離れにいるエリック様を訪ねました。
3年間結婚していましたが、エリック様が本邸で過ごしたのはほんの数日です。最初の1年は、帰ってさえ来ませんでした。
考えれば考えるほど、この3年はなんだったのでしょう……
これからは、自由になりたいと思います。
「エリック様、お話があるのですが……」
エリック様は、最初の愛人のレミアさんの部屋にいました。レミアさんは嫌な顔をしながらも、ドアを開け、私を部屋の中に通しました。
「話とは? 今はレミアとの大切な時間だ。手短に頼む」
レミアさんは、ソファーに座っているエリック様のとなりに座り、エリック様の腰に両腕を回し、こちらを見て笑いました。
わざわざ私にそんなところを見せなくても、もうエリック様には何の興味もありません。
「エリック様、離縁してください」
この一言が、私をさらなる地獄へと突き落とすことになりました。
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